上 下
337 / 464
第八章 ベルジュラック公爵家

思いがけないもの

しおりを挟む
 もう訊くことはないと、マクシミリアンは国王の指示によって騎士たちに引きずられるようにして連れていかれた。娘のフェリシーもマクシミリアンに対してほど乱暴ではなかったがそれでも乱雑に連行されていった。
 それと入れ替わるようにして先ほど宰相から命令を受けた人間が戻ってきた。

「……こちらがそうだと思います。後、これは当時遺族の方々に渡した遺品類のリストです。こっちは違うと訴えがあったもののリストです」

 指示以上の仕事に、思わず宰相は目を数回瞬いた。

「……ありがとうございます」

 受け取りながらも持ってきた者の顔を脳裏に刻み込む。

(……後で引き抜きですね)

 どんな時も優秀な人材の発掘に手を抜かない宰相だった。

「……数からして気づいていない者も何人もいるのではないか?」
「……リストにないものもありますね」

 瞬く間に床に敷き布が引かれ、1つ1つ丁寧にそこに並べられていった。

「……あれ?これって……」

 それらを見ているとマリアはその中の1つに引っかかりを覚えた。

「どうしました?」

 いつの間にか隣には宰相が立っていた。

「……これに見覚えがあるような気がして。見たことなんてないはずなのに」

 それは周りからひどく浮いていた。周りが武器や鞄などといった実用的なものなのに対してそれは装飾品──ネックレスだった。ペンダントトップには四角錐を2つ底で繋いだような形の縦長の半透明な蒼い石が輝いていた。

「……このリストによれば、それは元Aランク冒険者のアランという者のものらしいですよ」

 宰相の口から出た思いがけない名にマリアは一瞬固まった。

「……これはどうなるんですか?」

 マリアはなんとか平静を装ってそう尋ねた。

「遺族の方をお探しし、引き渡すことになるでしょう」
「……そうですか。ありがとうございます」

(どうせお母さんが受け取ることになるんだろうな)

 マリアの記憶に残っている母親とはひどく自分勝手な生き物だった。少なくともマリアの手元に来ることなどないと簡単に想像がつくぐらいには。
 脳裏に嬉々としてこのネックレスを売り飛ばす母親の姿が浮かんで、マリアは無意識のうちに奥歯をきつく噛みしめ俯いた。

「……ですが全てが遺族の方の元にたどり着くことはないでしょう」
「……えっ?」
「……冒険者の中には天涯孤独の方もいらっしゃいますから」

 マリアはハッとして宰相を見上げたが、その横顔からは何を考えているのかを窺い知ることはできなかった。
しおりを挟む

処理中です...