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第九章 夏季休業

王都到着の日の朝

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 結局その日の夕食もベルを納得させられるような料理が出てくることはなく、そのまま食事を作る度にベルにダメ出しをされること早数日が過ぎ、王都に到着する日の朝食後のこと。
 食堂にはエーアリアスとベル、マリアだけが残っていた。

「こ、これでどうなの」

 エーアリアスはすっかりやけになっていた。

「……ゼンブビミョウ。デナオシテクル」

 自信満々で出した料理を一言で切って捨てられ、エーアリアスの目には涙が滲んでいる。

「ど、どこが駄目だっていうの?」

 広いテーブルの上にはデザートにと、たっぷりのフルーツを使って作られた目にも美しい焼き菓子がところ狭しと並べられている。
 口の周りに付いたクリームを苦笑いを浮かべたマリアに拭いてもらいながら、順に問題点を上げていく。

「マズ、サッキノチョウショク。アジガゼンブニカヨッテイタ。ソレニスープノシオアジガ、ビミョウニコカッタ。ソレト、ココニナランデイルノハ、ドレモクダモノノアジヲ、イカシキレテナイ。タダタダアマイダケ」
「えっ?」
「ソレダッタラ、タダノシロップヅケノホウガ、ヨッポドオイシイ。チュウトハンパナアマサハ、アマッタルイダケ。ザイリョウノムダ」

 ベルはやれやれとでも言うように肩をすくめた。

「ワカッタラデナオシテクル。タダレシピドオリ、ツクレバイイモノジャナイ。スコシハジブンデソウイクフウスル。アナタノツクルモノカラハ、マッタクソレガカンジラレナイ」

 それだけ言うと、肩を落としたエーアリアスと、どこか嫌そうな表情を浮かべるマリアをよそに、テーブルから飛び降りると、本を読むべく小走りに図書室へと駆けていった。

「リア、私からも1つ言わせてもらっても良い?」
「……何?」
「作りすぎ。ベルが残したやつを食べさせられる私の身にもなってよ」
「ごめんなさいなの……」

 マリアは大きな溜息を1つ吐くと、げんなりとした表情で食べ始めた。

「ほとんど無駄だとは思うけど、一応アルたちも呼んで。1つぐらいは片付けてくれるだろうし」
「わかったの」

 およそ10分後、半ば無理矢理呼び出されたアルフォード、レリオン、ギルガルドは無表情にフォークを口に運んでいた。

「くそっ、あいつら逃げやがって」

 無表情でこの場にいない3人に悪態をつくギルガルドに、エーアリアスは顔を引きつらせた。

「ごめんなさいなの。私が作りすぎたせいなの」
「……別に責めてるわけじゃねぇよ」

 ただ文句の1つでも言っていないと気が収まらないだけだとギルガルドは困ったように笑った。

「でも、根本的な原因を作ったのは私なの……」

 そう言ってエーアリアスは俯いた。

 重い空気のまま、ただ食器が触れ合う音だけが響く。
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