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鉢が割れる!
しおりを挟む「何処へ行かれる?」
「いっ、いいえ。何処にも」
「屋敷を出て行かれるおつもりですか? あなたをひとりで行かせませんよ」
宰相君は起き上がり、
「ふたりで、ここを出て行きましょう。前から決めていました。どうやら、あなたはひとりで思い詰めていたのですね、申し訳ありません」
深々と頭を下げた。
「いけません! 私なんかのために……」
姫は涙で何も見えず、それ以上何も言えなかった。
「あなたはどう思っているかわからないが、私はあなたと最初に契りを結んだ日から、あなたをただひとりの妻と決めている。たとえ死んで地獄に落ちようとも、あなたと添い遂げるつもりだ」
宰相君の言葉は激しいが、態度や表情は穏やかで自信に満ち溢れていた。
「宰相さま!」
姫はがっくりと、その場にくずおれる。
愛する人にここまで言わせてしまい、申し訳なさに涙がとめどなく溢れてくる。嗚咽が漏れる。
「元気を出して下さい。これから私たちが行く道は、険しいものになるかもしれません。でも、何があろうと私を信じて下さい。決して、あなたと離れることはない」
宰相君は誓うように言い、震えて立ち上がれそうにない姫を助け起こした。
「なぁに、草や泥水をすすっても、生き延びることは出来ます。ご案じ召されるな」
ふたりは手を取り合い、粗末な臥所から出た。
その瞬間。
姫の頭の鉢が、ぱっくりと二つに割れた。
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