姫の歳月〜貴公子に見染められた異形の姫は永遠の契りで溺愛される

姫、大勝利す

「こんなの、おかしいわ！」
　突然、にのさまが叫んで立ち上がり、白目を剥いて倒れた。
「にのさま！」

　いっちひめが扶けたすけ起こそうとした時、二の兄君が渋々といった態ていでやって来て、
「おい、起きろ。ざーとらしいことすんなよ」
　乱暴な口調で言った。

　すると、にのさまは何事もなかったように起き上がって、口を尖らせて言う。
「もうー。少しは心配して下さいませ。私は恥をかかされたのですよ。気を失っても仕方ないじゃありませんか」

「恥ずかしいことすんなよ！ 余計に惨めだろ」
　二の兄君から叱られたにのさまは、すっかりしょげてしまっている。

「で！ も！ にのさまの言う通りじゃないかしら？ 鉢かぶり姫はおかしいわ。玉藻前たまものまえの化身かもしれなくてよ」
　いっちひめは、わざとらしく震え上がる様子を見せた。

　途端に周囲がザワザワし始め、ひそひそ声で姫の悪口を言う者まで出始めた。
「言われてみたら、このような姫君完璧超人が居るはずないかも」
「妖狐の化身ならわかる」
　などなど……。

「いい加減にして！」
　そう叫んで立ち上がったのは、さんのみやだった。
「負けを認めたくないからって、姫を妖狐ようこ扱いするなんて。そんなこと言う人たちのほうが余程変化へんぐゑじゃないの！」

　顔を赤くして言うさんのみやに、
「さんのみや、もうよい。許してやりなさい。こんな催しを考えた私どもが悪かったのです」
　北の方が頭を下げた。

「そうじゃな。楽しんでいた我らも同罪じゃ。お詫びとして、わしは今日限りで息子たちに家督を譲り引退する」
　かなり酔っているのか、目が座っている山蔭卿は呂律が回っていない。しかし、彼は大きな声で話し続けた。

「今回の褒美として、姫にはわしの領地一千町歩を与えよう。そして、宰相君を総領とする」

　



【註】
　玉藻前）金毛の九尾の狐を正体とする伝説上の美女。
　変化へんぐゑ）狐や狸が人間の姿になること。化け物。
　町歩）約１ha