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宰相君のご栄達
しおりを挟む宰相君は、山蔭卿の後継者として大内裏に出仕するようになった。彼は次第に、御上のご寵愛を受けるようになっていく。
宰相君の取り回しや話の面白さ、頭の良さ、全てが御上のお気に召したのである。
彼は大和、河内、伊賀の三国を賜る、という異例の大出世を遂げることになったが、誰も異を唱えることはなかった。
ある日のこと、御所で宰相君は懐かしい人と再会した。姫の鉢が取れた日の前夜、山蔭卿の屋敷で宴を共にした博士である。
実は、博士は宰相君のことを、「世に優れた方はたくさんいらっしゃいますが、心から信用できる方は、そうそうお目にかかれません。彼は数少ないお一人です」と、御上に推挙してくれていたのだ。
宰相君は、改めて博士にお礼を言った。
博士は目を細めて言う。
「ご立派になられた。私は、自分の見る目があることを嬉しく思っています」
「ありがとうございます。今後も、より一層政務に励むつもりです」
「奥様は、お元気でいらっしゃいますか?」
「はい。あの日、博士どのが下さった御守が、妻と家を出る後押しをしてくれたのです。あの御守のおかげで、不安は無くなりましたので。妻には内緒にしていますが」
「それは良いご判断だ。ご夫婦といえど、全てを言う必要はない。お幸せに」
博士と別れた後、宰相君はふと思った。
(姫は、未だに自分の出自を教えてくれない。きちんと養育された、高貴な身分の方とは思うのだが)
以前、尋ねた時は、姫は困ったように黙り込んでしまっていた。
それは、『言いたいけれど言えない』という様子であった。
実は、姫は隠し事はしたくないと思いつつ、自分の事を全て話すと、父上や継母に恥をかかせることにならないか心配だったのである。
宰相君はそんな様子を見て、それ以上追及することはなかった。
「あなたが何処の生まれで、どういう御身分だったか、そんなことはどうでもいい。ただ、私やお子たちを置いて天に帰ったりしないで下さいよ。……そうだ。天女の羽衣を私が貰っておけばいいんだった」
「宰相さま……」
ふざけるように言って、宰相君は姫の着物を一枚また一枚と脱がせていく。
「これでもう、あなたは何処へも行けませんよ」
かきくどくように言う宰相君は、姫の体に夢中である。
秋の夜は長く、恋人たちにとっては短い。
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