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1章

第10話 月光

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ある晴れた日の夜

<前編>
王立騎士魔導学院ウェルウィッチア
シンディの寮室

シンディ『わたしはシンディ・・・・・・』
寮室の鏡の前で髪を梳かすシンディ。

シンディ『わたしは由緒正しい家系のとある家のひとり娘。王室貴族とは遠縁に当たる・・・・・・』
『魔法と剣術の才に恵まれ生まれてきたクールビューティー』
『さらさらのオペラピンク髪に、整った顔、透き通ったシーグリーンの瞳』
『格式高い片めがねがチャームポイント♪』
『しかも、相手の魔力を透視できる特殊能力持ち』
『これ以上ない完璧さ・・・・・・』
『我ながら惚れ惚れしちゃうわ』
顔に手を当て、恍惚とした表情を浮かべるシンディ。
窓から差す月明かりが後背を照らす。

回想>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>
アカデメイア初等学校
シンディの記憶

課題をやるにしても、
先生A「まあ、シンディちゃんもうできたの!すごいわね~」
シンディ「えへへへー」
いつも一番に終わらせ。

剣術をやるにしても、
先生B「シンディは凄いなぁ~、男子も全員負けたのか~、将来は騎士キャットナイトだな~」
シンディ「頼まれればなってもいいですねっ」
初等学校では右に出るものなし。

魔法も巧に操り、
先生C「シンディちゃんは天才だわ~」
シンディ「たいしたことないにゃっ」
常に周りの模範となった。
先生D「気品に溢れ、歩き方も美しい!」

当然、男子からも求愛が絶えず、
男子生徒「オレと結婚してください!シンディさん!」
シンディ「無理!」「あなたはわたしに相応しい男じゃないわっ」「フンッ」
男子生徒『ガーン』
崩れ落ちる男子生徒。

ほんと困ったものだったわ。

回想終了<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<

シンディ『わたしはずっと優等生だった』
羨望を一手に集める優等生・・・・・・。

シンディ『そう、わたしは優等猫なのっ!』
斜めに腕を振って手を開き、ポーズをとる。
もちろん、誰も見ていない。

シンディ『それなのに、それなのに・・・・・・』
わなわなと小刻みに震える手。
シンディ『どうして、この学院生徒はわたしにひれ伏して来ないの?!』
『最近はカーリンさんのせいで、”少し”かすんでいる気がするけど・・・・・・まあ、あれは仕方ないわ。貴族だし』
やはり誰もいないのに「困ったわね」といった感じに手振りする。
シンディ『こんなはずじゃなかったのに!!』
ひとり拳を握りしめ、悔しそうな表情を浮かべるシンディ。

シンディ『それだけじゃない、わたしをイラつかせるのは・・・・・・』『あのいなか猫・・・・・・』
頬杖ほおづえを突き、人差し指でテーブルをコンコンと叩く。
シンディ『格式高いこの学院に全く相応しくないっ!!』
『どうしてあんな”猫じゃが女”がこの学院にいるの?!』
『しかも、やる気だけでちっとも才能がないときた!』
前髪を払いながら、手のひらを返すシンディ。他人を馬鹿にした表情。
シンディ『同じ学院の生徒というだけでも気に食わないわっ!!!!』
悔しそうに、ハンカチを「キィー!」とくわえる。

シンディ『カーリンさんも何故それがわからないの?』『カーリンさんに相応しいお友達はこのわたしよっ!!!!!』
自分の胸に手を当てて、鏡を睨み付けるシンディ。

シンディ『やはりあのいなか猫に”ひと言”言ってやる必要があるわ・・・・・・』

<後編>
王立騎士魔導学院ウェルウィッチア
キャロルの寮室

キャロル『私はキャロル・・・・・・』
寮室で飼う成体ヒヨコのピヨ太に餌をあげるキャロル。
その目は自分の将来を憂いている。

キャロル『ピヨ太はとても優しい・・・・・・』『私がつらそうにしていると、いつもつぶらな瞳で私を見つめてくれる』
ピヨ太「ピヨォー!」
餌やりを終え、ピヨ太を見つめるキャロル。
キャロル『なにもしてくれないけど・・・・・・』
ピヨ太「ピヨピヨォ!」
キャロル『この眼差しだけで私は十分・・・・・・』

回想>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>
アマテルーシア初等学校
キャロルの記憶

ある日のこと
男子生徒A「や~い、猫じゃが女~」「おまえんち、どろんこや~しき」
男子生徒B「土臭いからこっちこないでくれる~?」
キャロル「猫じゃがの何が悪いの!!?」
男子生徒A「俺の父ちゃんはリラハーメルで商業成功して、うちも立派なんだぜ~」
男子生徒B「貧乏なおまえんちとはちーげんだよ!」
キャロル「猫じゃが農家も立派だもん!!」「質素に暮らしてるだけだもん」
男子生徒A「猫じゃがなんてなくても困らないし~」
女子生徒C「猫じゃががなくても、ケーキを食べればいいのよっ」
男子生徒B「ギャハハハハー、言えてる~~」
キャロル「ぅーーーーーー」
泣きそうになるキャロル。

別な日
キャロル「将来の夢はー、キャットナイトに、なることですっ」
一部生徒「クスクスクス・・・・・・」
教室に広がる笑い声。

放課後
男子生徒D「ブッーー、無理に決まってんじゃん」
キャロル「どうして!??」
男子生徒E「キャットナイトは才能がある人がなれるんです~」
男子生徒D「このまえの授業で蠟燭ろうそくみたいな火しか出せてなかったじゃん、ケラケラケラ」
キャロル「努力すればできるようになるもん!!」
男子生徒F「魔力はほとんど”素養”で決まるんだよ、知らねぇのおまえ?!」
キャロル「絶対なるもん!!」「なるのぉ~~」
涙を浮かべるキャロル。
先生「こらっ、あんたたち!!」
男子生徒D「やっべ」
男子生徒E「逃げるぞ」
先生を前に逃走するいじめっ子たち
キャロル「うわぁ~~~~ん」
泣き出すキャロル。
先生「気にしなくていいからね、キャロルちゃん」
必死になぐさめる先生。
先生「あなたの夢はきっと叶うわ~!」「先生もずっと応援してからね~」
キャロル「わぁ~~~~~~~ん」
ガン泣きするキャロル。

回想終了<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<

王立騎士魔導学院ウェルウィッチア
生徒寮A棟付近
女子寮と学院本館を繋ぐ廊下

月明かりが照らす中、廊下をすれ違うキャロルとシンディ。

シンディ「あなたはナイトになれない」
すれ違いざま、吐き捨てるシンディ。

目を見開くキャロル。
シンディ「わたしは相手の魔力の大きさを透視できるの」
お互いを背にして立ち止まる2人。
キャロルに振り向く気はない。

キャロル「で?」「だからなに?」
シンディ「どうみてもあなたに素養はない。諦めた方がいいわ」
拳を握りしめるキャロル。

キャロル『どいつもこいつも・・・・・・』「知った口を利かないで」
シンディ「・・・・・・」
薄ら笑いを浮かべるシンディ。
キャロル「絶対諦めないから」
再び歩き出すキャロル。

シンディ「どこまでその意地がつつくか楽しみね」

キャロル『先生、私はまだへっぽこなままです・・・・・・』
初等学校の先生を思い出すキャロル。

キャロル『でも、ウェルウィッチアまで来ました』
『諦めるつもりはありません』
『ダメでも一生懸命やります』
『できることをやります』
『学院の先生も面白いし、優しくしてくれる友達もできました』
『相変わらず嫌な奴もいるけど・・・・・・』
『必ずキャットナイトになります!』
キャロルの瞳に月明かりが差し、悔しさと決意が映し出されていた。
                                                    1章 END
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