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09コメットからの追求
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翌朝、ミルキーナの元に出仕したルーナルーナは、ある種当然の事態に遭遇していた。
「聞いたわよ!」
コメットである。噂好きの彼女だが、恋愛、色事に関しては特に敏感だ。ルーナルーナは、前日キュリーに夜会について話したことがもう伝わっているのだと、即座に理解した。
「お聞きになった通りですよ」
日頃のルーナルーナは、まだ若いコメットを妹のような目でみているが、こうも捕獲者の如く猛々しい彼女を見ると、さすがに引いてしまうものがある。
「いいえ、まだ詳しいことは何も聞いていないわ! ね? どんな方なの?」
コメットとて、いつものように寝坊せず、ルーナルーナよりも早く職場に上がっているのだ。彼女なりに譲れないものがあるらしく、掃除道具を取りに行こうとしたルーナルーナの行く手を阻む。
しかし、ルーナルーナとしては説明することの面倒さよりも、むしろその内容を正直に打ち明けたところで馬鹿にされる未来しか予想できないのだ。
ルーナルーナは肩をすくめて、前夜のことを振り返る。
まず、無事にサニーの側近と名乗るアレスから、サニーの夜会出席の許可が降りた。サニーは、夜会とは自分のパートナーを誇示する場所であると言い張ったので、ルーナルーナがますます赤面し、いらぬ期待を持ちそうになってしまったのは言うまでもない。
次に、三人の話題として持ち上がったのは、夜会へ着ていくドレスについてだ。そもそも体にぴったりと合ったドレスの準備には時間がかかる。それは、王妃付き侍女を務めるルーナルーナにとっては常識も良いところだ。そのためルーナルーナは、少ない財産を叩いて、城下町の仕立て屋にある既製品を購入し、自分で微調整するしかないと考えていた。なのに、サニーとアレスはオーダーメイドで用意すると言って聞かないのだった。
「大丈夫! アレスは目視だけで女性の体の採寸ができるんだ。きっと君にぴったりのものを用意するよ。会場の目が釘付けになるぐらいの一品を仕立てるから、楽しみにしててね」
ルーナルーナは胸を張るサニーの言葉に一抹の不安を覚えるのだが、それが思ってもみない形で現実のものになるとは、この時の彼女は予想だにしなかった。
さて、採寸は問題なくとも、デザインや柄、色、生地の風合いについては、やはり専門家の意見が必要になる。そこで、今夜も偶然を信じて、ダンクネス王国のドレスに詳しい人物と会う約束を取り付けてあるのだ。
(またサニーにキスされたらどうしよう。唇にされたわけじゃないから、きっと親愛の意味なのでしょうけれど……行き遅れ女には少々刺激が強すぎたわ)
ルーナルーナは、間近で見たサニーの笑顔を思い出して現実逃避しようとした。が、それがいけなったのだ。コメットの瞳がギラリと光った。
「もうっ、逃げないでよ。でも、そんな顔するってことは、よっぽどのイイ男なのね!」
確かに、シャンデル王国の人間が見れば最上級の男だろう。白に近い銀色の髪に、太陽の光を結晶にしたような金色の瞳。引き締まった体躯に、匂い立つような色気ある仕草。最近ではサニーを見慣れすぎて、王族を警護する近衛騎士達をあまりカッコ良いとは思えなくなってきたルーナルーナだ。
「当日のお楽しみってことで」
ルーナルーナは何とか逃げ切ろうとしたが、そうは問屋は降ろさない。近づきてきた足音に、ルーナルーナはゆっくりと振り向いた。
「そんなこと言って、本当は相手なんていないんでしょ? いるならば見せてみなさいよ?」
悪い予感は当たるものだ。キュリーである。
「見せると言っても、彼にも予定がありますし」
「ふんっ。恋人の一大事に駆けつけられないなんて、そんな人はエスコートする資格なんか無くってよ?」
(先輩侍女に夜会のパートナーを事前に紹介するのは、やはり一大事に当たるのね……)
ルーナルーナは心の中で独りごちて、一か八かの賭けに出ることにした。
「分かりました。今夜、遅い時間にはなりますが、彼を私の寮室に招きます。どうしてもと言うのであれば、お会いになってみてください」
「変な意地を張ると、余計に醜くなるわよ?」
キュリーは可哀想なものを見るような目でルーナルーナを眺めた。その隣で、コメットは「よしっ!」と拳を握りしめてきる。ルーナルーナは、既に丸一日働いた後のような疲れを感じていた。
もし、今夜サニー達が現れなくてもいいのだ。王妃を除き、ルーナルーナの周囲の扱いは、既に最底辺である。これ以上悪くなることは無い。捨てるものや守るものが無いルーナルーナは、どこまでも潔かった。
そしね、希望を捨てていない。
ルーナルーナは信じている。どうにかなると、信じてる。
ルーナルーナは、サニーのことが好きだから。
「聞いたわよ!」
コメットである。噂好きの彼女だが、恋愛、色事に関しては特に敏感だ。ルーナルーナは、前日キュリーに夜会について話したことがもう伝わっているのだと、即座に理解した。
「お聞きになった通りですよ」
日頃のルーナルーナは、まだ若いコメットを妹のような目でみているが、こうも捕獲者の如く猛々しい彼女を見ると、さすがに引いてしまうものがある。
「いいえ、まだ詳しいことは何も聞いていないわ! ね? どんな方なの?」
コメットとて、いつものように寝坊せず、ルーナルーナよりも早く職場に上がっているのだ。彼女なりに譲れないものがあるらしく、掃除道具を取りに行こうとしたルーナルーナの行く手を阻む。
しかし、ルーナルーナとしては説明することの面倒さよりも、むしろその内容を正直に打ち明けたところで馬鹿にされる未来しか予想できないのだ。
ルーナルーナは肩をすくめて、前夜のことを振り返る。
まず、無事にサニーの側近と名乗るアレスから、サニーの夜会出席の許可が降りた。サニーは、夜会とは自分のパートナーを誇示する場所であると言い張ったので、ルーナルーナがますます赤面し、いらぬ期待を持ちそうになってしまったのは言うまでもない。
次に、三人の話題として持ち上がったのは、夜会へ着ていくドレスについてだ。そもそも体にぴったりと合ったドレスの準備には時間がかかる。それは、王妃付き侍女を務めるルーナルーナにとっては常識も良いところだ。そのためルーナルーナは、少ない財産を叩いて、城下町の仕立て屋にある既製品を購入し、自分で微調整するしかないと考えていた。なのに、サニーとアレスはオーダーメイドで用意すると言って聞かないのだった。
「大丈夫! アレスは目視だけで女性の体の採寸ができるんだ。きっと君にぴったりのものを用意するよ。会場の目が釘付けになるぐらいの一品を仕立てるから、楽しみにしててね」
ルーナルーナは胸を張るサニーの言葉に一抹の不安を覚えるのだが、それが思ってもみない形で現実のものになるとは、この時の彼女は予想だにしなかった。
さて、採寸は問題なくとも、デザインや柄、色、生地の風合いについては、やはり専門家の意見が必要になる。そこで、今夜も偶然を信じて、ダンクネス王国のドレスに詳しい人物と会う約束を取り付けてあるのだ。
(またサニーにキスされたらどうしよう。唇にされたわけじゃないから、きっと親愛の意味なのでしょうけれど……行き遅れ女には少々刺激が強すぎたわ)
ルーナルーナは、間近で見たサニーの笑顔を思い出して現実逃避しようとした。が、それがいけなったのだ。コメットの瞳がギラリと光った。
「もうっ、逃げないでよ。でも、そんな顔するってことは、よっぽどのイイ男なのね!」
確かに、シャンデル王国の人間が見れば最上級の男だろう。白に近い銀色の髪に、太陽の光を結晶にしたような金色の瞳。引き締まった体躯に、匂い立つような色気ある仕草。最近ではサニーを見慣れすぎて、王族を警護する近衛騎士達をあまりカッコ良いとは思えなくなってきたルーナルーナだ。
「当日のお楽しみってことで」
ルーナルーナは何とか逃げ切ろうとしたが、そうは問屋は降ろさない。近づきてきた足音に、ルーナルーナはゆっくりと振り向いた。
「そんなこと言って、本当は相手なんていないんでしょ? いるならば見せてみなさいよ?」
悪い予感は当たるものだ。キュリーである。
「見せると言っても、彼にも予定がありますし」
「ふんっ。恋人の一大事に駆けつけられないなんて、そんな人はエスコートする資格なんか無くってよ?」
(先輩侍女に夜会のパートナーを事前に紹介するのは、やはり一大事に当たるのね……)
ルーナルーナは心の中で独りごちて、一か八かの賭けに出ることにした。
「分かりました。今夜、遅い時間にはなりますが、彼を私の寮室に招きます。どうしてもと言うのであれば、お会いになってみてください」
「変な意地を張ると、余計に醜くなるわよ?」
キュリーは可哀想なものを見るような目でルーナルーナを眺めた。その隣で、コメットは「よしっ!」と拳を握りしめてきる。ルーナルーナは、既に丸一日働いた後のような疲れを感じていた。
もし、今夜サニー達が現れなくてもいいのだ。王妃を除き、ルーナルーナの周囲の扱いは、既に最底辺である。これ以上悪くなることは無い。捨てるものや守るものが無いルーナルーナは、どこまでも潔かった。
そしね、希望を捨てていない。
ルーナルーナは信じている。どうにかなると、信じてる。
ルーナルーナは、サニーのことが好きだから。
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