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63お守りができちゃった
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「ただいま!」
城に帰ってきた。
アウトドア楽しいー!とか思ってたけど、やっぱり城は快適だ。何より、お風呂に入れるしね。旅の間はこっそり身体を水で拭くぐらいしかできなかったので、不便だったもの。オレガノ隊長には、一緒に水浴びに行こうと誘われたけれど、寒いから嫌だと言って拒否。これが夏だったら、女バレの危機だったな。ギリギリセーフ。
これをクレソンさんに話すと、ほっぺの肉を摘ままれて叱られた。でも、彼の顔を見て、こうやって触れてもらえるとほっとする。オレガノ隊長とも仲良しだけれど、こういう間柄ではないからね。やはり私が自然体でいられるのはクレソンさんの前だけなのだ。
そういうクレソンさんは、私がちょっと不在にしている間、さらに忙しくしていたみたいだ。
いつの間にかソレルさんを通じて、第五騎士団にも反宰相派の仲間を増やしているし、仕事の速さにびっくりである。となると、アンゼリカさんがいる第七、ダンジョンの一件があった第四、今回私が盗賊騒ぎで恩を売ってきた第六もこちら側になったから、随分クレソンさんの味方は広がってきたことになる。
青薔薇祭で優勝したことも大きかった。最近では、騎士団内では元王子のクレソンさんを総帥に!という声も高まっていると聞く。クレソンさん個人の戦闘能力が高いだけれでなく、その場にいたほぼ全騎士を彼の前に跪かせるという統率力を見せたのだ。これが金の魔術による力だとしても、彼にそれだけのカリスマ性と才能があることを人々は知ってしまった。それにそもそも騎士とは、宰相に下るものではない。王家に忠誠を誓い、跪くのが本来の形なのだ。それが図らずとも、他国の来賓も多い中で実現してしまった。この事実は、私が考えている以上に大きな意味があることらしい。
では、クレソンさんは武人としてしか大成できないのではないか、という不安が出てくる。でも、これは彼も既に手を打ち始めていた。クレソンさん、カモミールさんを味方に引き入れていたのだ。
元王妃のカモミールさんは、未だに大きな権力をもっている。名前を出すだけで、あらゆる人が文句ひとつ言わずに動きだすそうだ。さらにクレソンさんは、各地に味方を放って情報網を構築し始めた。その味方とは、ディル班長の兄弟達で、元孤児。私の米を広めてくれた子供達。直接クレソンさんとは関わり合いのなかった子達がなぜ? と思っていたら、どうやらクレソンさんが王子に復帰できると私のためになると知って、がんばってくれているらしい。良い子達だ……。お姉さん、感激だよ。今度、ディル班長と一緒に美味しいもの差し入れしてあげるからね!
というわけで、徐々に各地の状況や、宰相達の悪事の証拠が集まりつつあるらしい。
さらにクレソンさんは、以前は門前払いだった旧知の方々との面会も果たしているみたいだ。これもたぶん青薔薇祭優勝の恩恵かと思われる。
とにかくクレソンさんは、とってもとってもがんばっているのだ。正直、ここまでデキる人だとは思っていなかった。初めは女たらしだから気をつけろと紹介されたぐらいだし。でも、親切にしてもらって、私を必要だと言ってくれて、大切にされて……いつの間にか好きになっていた。
クレソンさんは、全ての原動力が私だと言う。私はその期待や愛情に応えたい。だから私もがんばらなくちゃ!
◇
それから二カ月が経った。
「タラゴンさんっ、駄目です……」
「来い。受け止めてやる」
これ、浮気現場ではありません。彼と会っていることは、クレソンさん公認ですからね?
タラゴンさんが久々に王都へやってきたので、ちょっと腕試しさせてもらっていたのだ。彼の脚もすっかり良くなって、S級冒険者として再び活躍しているらしい。ちなみに、再戦はコテンパンにやっつけられて、私はすっかりヘロヘロです。
さて、彼にはもう一つ用事があったのだ。
私は、ゆっくりと地面から立ち上がると、騎士服の内ポケットに隠し持っていたものを彼に差し出した。
「はい。これ、タラゴンさんにあげます」
「何だ、これ?」
「すっごく良いものなんですよ!」
実は私、ついにお守りの作成に成功したのだ。協力者はカモミールさんとクレソンさん。そして、ラベンダーさんとラブラブで終始ご機嫌なコリアンダー副隊長。私は、クレソンさんのためになることを何かしたかったので、本格的に魔道具作りに励み始めたのだ。でも、本腰を入れて取り組めば取り組む程、奥が深くてなかなか難しい。結局、白の魔術のふんわりとした効果がある石しか作ることができなかった。通信機能はまだである。
作り方は意外にも簡単だ。私が、白の魔術を手の中に充満させて、おにぎりを作るような要領で魔力を丸めていく。最後に、ぎゅぎゅーっと圧縮すると、守りの石のネックレスみたいな白く輝く石が出来上がるのだ。それでも、金額をつけられないぐらい価値の高いものだとコリアンダー副隊長は言うのだけれどね。
「これを身につけておくと、魔物が寄って来にくくなります。さらに、ちょっとした怪我ならすぐに治ります」
「お前、それ、俺のために……」
タラゴンさんは、唇をわなわなとさせて感激に打ち震えている。せっかくのお気持ちを台無しにするのは申し訳ないのだけれど、同じものを既に、オレガノ隊長、コリアンダー副隊長、ディル班長、ラムズイヤーさん、マリ姫様、カモミールさん、マリ姫様、ラベンダーさん、ミントさん、アンゼリカさんには配ってしまっている。
「エース、ありがとうな」
この手の戦士タイプの人から素直に礼を言われると、なんだか照れるというか、申し訳なくなってくるな。でも、本当のことは言わない私。てか、言えないよ!
「じゃ、礼代わりにもっと稽古つけてやるよ。次の青薔薇祭ではお前を優勝させてやる!」
「いえ、結構です」
優勝は、次回もクレソンさんでなくてはならない。あ、でも総帥になったら出場権が無くなるから、他の人が優勝することになるのかな?
「そうだな。以前よりはマシになったみたいだが、お前は魔術以外はほんと駄目だからなぁ」
「はっきり言いますね」
「ま、俺とお前の間柄じゃないか」
そうかも。タラゴンさんも、結局は私の友達枠の一人なのだ。私達は、ふふっと笑いあった。その時――。
「エース、隊長がお呼びだぞ」
ディル班長がやってきた。今日は非番なのだけれど、どうしたのかな? 最近は、城の結界が強固すぎて魔物の大群が来てもほとんど出番がないし、隊長ともあまり会っていない。
「もしかして、またキャラウェイ団長もいらっしゃいました?」
「いや、今回はいないぞ」
私がよく団長の「お願い」で他の騎士団へお手伝いに行くことは、ディル班長もよく知っているので苦笑いだ。
「でも隊長、何となく様子がおかしかったな……」
ディル班長には心当たりが無いらしい。呼び出されているのも私一人だけみたいだし、どんな用事だろうか。大した事のない話だったら、またオレガノ隊長にも槍の稽古をつけてもらえないかおねだりしてみよう。私はタラゴンさんに別れを告げると、気軽な感じで隊長室へ向かう。
隊長室には灯りがついていなかった。でも呼び出された限りは、在室だと信じてノックをする。すぐに「入れ」と返事があった。
間もなく夕方になるという時間帯。部屋へ入ると、薄暗い。執務机には、オレガノ隊長らしき人影があった。隊長は窓側を向いていて、こちらからはその顔は見えない。でもディル班長の言う通り、どこか雰囲気がいつもと違うことは私にも分かった。
「エースです」
隊長が何も言わないので、一応名乗ってみた。
途端に、空気がビリビリし始める。何かが来る。そう思った。
オレガノ隊長は椅子を回転させて、音も立てずにこちらを振り向く。
「お前、女だな?」
城に帰ってきた。
アウトドア楽しいー!とか思ってたけど、やっぱり城は快適だ。何より、お風呂に入れるしね。旅の間はこっそり身体を水で拭くぐらいしかできなかったので、不便だったもの。オレガノ隊長には、一緒に水浴びに行こうと誘われたけれど、寒いから嫌だと言って拒否。これが夏だったら、女バレの危機だったな。ギリギリセーフ。
これをクレソンさんに話すと、ほっぺの肉を摘ままれて叱られた。でも、彼の顔を見て、こうやって触れてもらえるとほっとする。オレガノ隊長とも仲良しだけれど、こういう間柄ではないからね。やはり私が自然体でいられるのはクレソンさんの前だけなのだ。
そういうクレソンさんは、私がちょっと不在にしている間、さらに忙しくしていたみたいだ。
いつの間にかソレルさんを通じて、第五騎士団にも反宰相派の仲間を増やしているし、仕事の速さにびっくりである。となると、アンゼリカさんがいる第七、ダンジョンの一件があった第四、今回私が盗賊騒ぎで恩を売ってきた第六もこちら側になったから、随分クレソンさんの味方は広がってきたことになる。
青薔薇祭で優勝したことも大きかった。最近では、騎士団内では元王子のクレソンさんを総帥に!という声も高まっていると聞く。クレソンさん個人の戦闘能力が高いだけれでなく、その場にいたほぼ全騎士を彼の前に跪かせるという統率力を見せたのだ。これが金の魔術による力だとしても、彼にそれだけのカリスマ性と才能があることを人々は知ってしまった。それにそもそも騎士とは、宰相に下るものではない。王家に忠誠を誓い、跪くのが本来の形なのだ。それが図らずとも、他国の来賓も多い中で実現してしまった。この事実は、私が考えている以上に大きな意味があることらしい。
では、クレソンさんは武人としてしか大成できないのではないか、という不安が出てくる。でも、これは彼も既に手を打ち始めていた。クレソンさん、カモミールさんを味方に引き入れていたのだ。
元王妃のカモミールさんは、未だに大きな権力をもっている。名前を出すだけで、あらゆる人が文句ひとつ言わずに動きだすそうだ。さらにクレソンさんは、各地に味方を放って情報網を構築し始めた。その味方とは、ディル班長の兄弟達で、元孤児。私の米を広めてくれた子供達。直接クレソンさんとは関わり合いのなかった子達がなぜ? と思っていたら、どうやらクレソンさんが王子に復帰できると私のためになると知って、がんばってくれているらしい。良い子達だ……。お姉さん、感激だよ。今度、ディル班長と一緒に美味しいもの差し入れしてあげるからね!
というわけで、徐々に各地の状況や、宰相達の悪事の証拠が集まりつつあるらしい。
さらにクレソンさんは、以前は門前払いだった旧知の方々との面会も果たしているみたいだ。これもたぶん青薔薇祭優勝の恩恵かと思われる。
とにかくクレソンさんは、とってもとってもがんばっているのだ。正直、ここまでデキる人だとは思っていなかった。初めは女たらしだから気をつけろと紹介されたぐらいだし。でも、親切にしてもらって、私を必要だと言ってくれて、大切にされて……いつの間にか好きになっていた。
クレソンさんは、全ての原動力が私だと言う。私はその期待や愛情に応えたい。だから私もがんばらなくちゃ!
◇
それから二カ月が経った。
「タラゴンさんっ、駄目です……」
「来い。受け止めてやる」
これ、浮気現場ではありません。彼と会っていることは、クレソンさん公認ですからね?
タラゴンさんが久々に王都へやってきたので、ちょっと腕試しさせてもらっていたのだ。彼の脚もすっかり良くなって、S級冒険者として再び活躍しているらしい。ちなみに、再戦はコテンパンにやっつけられて、私はすっかりヘロヘロです。
さて、彼にはもう一つ用事があったのだ。
私は、ゆっくりと地面から立ち上がると、騎士服の内ポケットに隠し持っていたものを彼に差し出した。
「はい。これ、タラゴンさんにあげます」
「何だ、これ?」
「すっごく良いものなんですよ!」
実は私、ついにお守りの作成に成功したのだ。協力者はカモミールさんとクレソンさん。そして、ラベンダーさんとラブラブで終始ご機嫌なコリアンダー副隊長。私は、クレソンさんのためになることを何かしたかったので、本格的に魔道具作りに励み始めたのだ。でも、本腰を入れて取り組めば取り組む程、奥が深くてなかなか難しい。結局、白の魔術のふんわりとした効果がある石しか作ることができなかった。通信機能はまだである。
作り方は意外にも簡単だ。私が、白の魔術を手の中に充満させて、おにぎりを作るような要領で魔力を丸めていく。最後に、ぎゅぎゅーっと圧縮すると、守りの石のネックレスみたいな白く輝く石が出来上がるのだ。それでも、金額をつけられないぐらい価値の高いものだとコリアンダー副隊長は言うのだけれどね。
「これを身につけておくと、魔物が寄って来にくくなります。さらに、ちょっとした怪我ならすぐに治ります」
「お前、それ、俺のために……」
タラゴンさんは、唇をわなわなとさせて感激に打ち震えている。せっかくのお気持ちを台無しにするのは申し訳ないのだけれど、同じものを既に、オレガノ隊長、コリアンダー副隊長、ディル班長、ラムズイヤーさん、マリ姫様、カモミールさん、マリ姫様、ラベンダーさん、ミントさん、アンゼリカさんには配ってしまっている。
「エース、ありがとうな」
この手の戦士タイプの人から素直に礼を言われると、なんだか照れるというか、申し訳なくなってくるな。でも、本当のことは言わない私。てか、言えないよ!
「じゃ、礼代わりにもっと稽古つけてやるよ。次の青薔薇祭ではお前を優勝させてやる!」
「いえ、結構です」
優勝は、次回もクレソンさんでなくてはならない。あ、でも総帥になったら出場権が無くなるから、他の人が優勝することになるのかな?
「そうだな。以前よりはマシになったみたいだが、お前は魔術以外はほんと駄目だからなぁ」
「はっきり言いますね」
「ま、俺とお前の間柄じゃないか」
そうかも。タラゴンさんも、結局は私の友達枠の一人なのだ。私達は、ふふっと笑いあった。その時――。
「エース、隊長がお呼びだぞ」
ディル班長がやってきた。今日は非番なのだけれど、どうしたのかな? 最近は、城の結界が強固すぎて魔物の大群が来てもほとんど出番がないし、隊長ともあまり会っていない。
「もしかして、またキャラウェイ団長もいらっしゃいました?」
「いや、今回はいないぞ」
私がよく団長の「お願い」で他の騎士団へお手伝いに行くことは、ディル班長もよく知っているので苦笑いだ。
「でも隊長、何となく様子がおかしかったな……」
ディル班長には心当たりが無いらしい。呼び出されているのも私一人だけみたいだし、どんな用事だろうか。大した事のない話だったら、またオレガノ隊長にも槍の稽古をつけてもらえないかおねだりしてみよう。私はタラゴンさんに別れを告げると、気軽な感じで隊長室へ向かう。
隊長室には灯りがついていなかった。でも呼び出された限りは、在室だと信じてノックをする。すぐに「入れ」と返事があった。
間もなく夕方になるという時間帯。部屋へ入ると、薄暗い。執務机には、オレガノ隊長らしき人影があった。隊長は窓側を向いていて、こちらからはその顔は見えない。でもディル班長の言う通り、どこか雰囲気がいつもと違うことは私にも分かった。
「エースです」
隊長が何も言わないので、一応名乗ってみた。
途端に、空気がビリビリし始める。何かが来る。そう思った。
オレガノ隊長は椅子を回転させて、音も立てずにこちらを振り向く。
「お前、女だな?」
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