第八騎士団第六部隊、エースは最強男装門衛です。

山下真響

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70怒られちゃった

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 それにしても、すごくたくさんの騎士さんが集まってくれている。この世界って、娯楽がないからなぁ。新人騎士が出戻りするだけでこんな大イベントになっちゃうなんて、ほんと勘弁してほしい。中には、第四のコンフリー団長などの偉い人までいる。どうやら階級章から察するに、私とは初対面の他の団長さんもチラホラいらっしゃるようだ。どうしよう、お城ってこんなに緊張するものだったっけ?

 でも、皆、普通の野次馬ばかりではないと思う。クレソンさんが総帥となれるように、背中を押してくれたと聞いているもの。さらには、第八騎士団第六部隊でも女性が隊員になれるよう取り計らってくれたとか。ここは笑顔を振りまいて感謝アピールだね!

 って、あれ? せっかくにっこりして敬礼してみせたのに、なんで皆の様子がおかしいの? オレガノ隊長みたいに赤面して目を逸らすのは良いとして、ハァハァしてる変態がうようよいるんだけど。やっぱりクレソンさんの希望は却下して、さっさと騎士服に着替えちゃおう。

 このビキニアーマーは見た目に反して寒くないし、体は白の魔術による全身結界で覆っているから防御力も問題ない。でも、もう二度とこんなもの着ないだろう。と、この時は思っていた。


   ◇


 さて騎士寮に着いた。私は今後もクレソンさんと同じで部屋で暮らすことができるらしい。女の子だということを公表してしまった後だけれど、問題ないのかな? と思っていたら、クレソンさんがその答えを教えてくれる。

「僕が良いって言ったら、良いんだよ」

 さすが総帥。あなたが騎士団のルールなんですね。少し会わなかったうちに、クレソンさんの偉い人オーラが強くなっている気がする。

「クレソンさん、総帥就任おめでとうございます」
「ありがとう、エース。じゃ、ご褒美もらうね」

 クレソンさんは、私の胸の谷間にちゅっと吸い付いて、両手はビキニアーマーから大いにはみ出しているお尻の丸みを包み込んでいた。総帥にまで上り詰めた方が、昼間っから騎士の女の子をこんな風に苛めるなんて駄目だよ。いけないことをしている感が半端ない。

「クレソンさん、ほどほどにしてください。さっきもあんなとかろでキスするし、恥ずかしかったんですから!」
「この格好は恥ずかしくなかったの?」
「だから、もっとたくさん恥ずかしくなったんです!」
「たぶん、そんなの気のせいだよ。僕は、エースが僕のものだと示すことができて満足だったけどね」

 騎士団は基本的に男性社会。その中で女の子の私が騎士になるということは、腹を空かせたライオンがいっぱいいるサバンナに佇む子鹿になるようなものだ。総帥のお気に入りとして牽制してくれたのは助かるけれど、やっぱり思い出すだけで顔が熱くなる私です。


   ◇


 さて! 新人騎士一日目の仕事は、ほとんどが挨拶周りだ。クレソンさんがお取り置きしてくれていた黒の騎士服に着替えた私は、早速第八騎士団第六部隊の隊長室を訪れていた。主要メンバーが部屋の中に勢ぞろいしている。

「この度は大変ご迷惑をおかけしました。また今日からここでお世話になります。よろしくお願いします!」

 仕方なくとは言え、皆には隠し事をしていた私。でも第八騎士団第六部隊の皆さんは、そんな私のために「スパイ疑惑などない。エースは良い奴だ!」と言って東奔西走してくれたそうで。なんとありがたいことだろう。ミントさんも「冒険者になれなかったから騎士に推薦した」と公言してくれていることも手伝って、城の中も私の味方でいっぱいだ。なんかもう、感激しちゃって涙出るよ。

「エース、よく戻った」

 オレガノ隊長が代表して私の前に進み出た。ここは、あの日、衝撃の命令を受けたのと同じ場所。再び戻ってこれたことが嬉しすぎて、感極まってしまう。隊長との別れは、決して綺麗なものではなかった。それだけに、怒るでもなく、呆れるでもなく、ただ温かく迎えてくれるオレガノ隊長には感謝の念しかない。私が生き延びてミントさんに発見されたのも、隊長とのご縁のお陰だしね!

「隊長……」

 私にとって第八騎士団第六部隊は家族だ。そこに君臨する隊長はお父さんみたいなもの。こういう時、身内と再開の喜びを分かち合うとすれば、これしかない。

 私はオレガノ隊長の方にさっと駆け寄ると、小さくジャンプして飛びついた。さすが百戦錬磨の武人だ。ビクともしない。でも、私の背中に回す腕はおそるおそるといった風で、彼が少し戸惑っているのが分かる。ちょっとやりすぎたかな? と思いつつ、間近で緑の目を覗き込んでみると、オレガノ隊長は真顔でこうおっしゃった。

「そんなに、俺の女になりたかったのか?」

 次の瞬間、私の体は宙に浮いて、オレガノ隊長の体が壁際にぶっ飛んだ。と同時に背後から誰かに抱きかかえられてしまう。

「クレソンさん?」
「エース、総帥っていう肩書って便利だね。元上官に制裁しても、トップにまで上り詰めれば誰にも咎められないんだよ」

 何、この世にも恐ろしい笑顔は? もしかして、すっごく妬いてるのかな。ちょっと会わなかったうちに、微量のヤンデレ成分が追加されているのは気のせいだろうか。

 お陰様で、「ビキニアーマーはもう着てくれないのか?!」「うちの隊のオアシスだ」「実は俺、前から可愛いなと思ってたんだよな。男だと思ってたから諦めてたけど」「意外とスタイル良くない?」などといった他の先輩方の声もピタリと止むわけである。

「じゃ、エース。姫様にも挨拶しに行こうか」

 え、まだコリアンダー副隊長やディル班長とも挨拶したいのに。ん、駄目ですか? あぁ、分かりました。その有無を言わさぬ笑顔、弱いのだ。

「はい」

 私、クレソンさんには一生勝てそうにないな。うん。


   ◇


 それから一時間後。私は久方ぶりの正座をさせられていた。足が痺れて死にそう。

「姫乃、分かったか? もう二度と、俺から逃げるなよ!」

 マリ姫様、おかんむりなのです。私のほっぺをお餅のようにびよーんっと伸ばしている。痛い。

「はい、もうしません」

 ま、改めて考えてみたら、マリ姫様の言い分はご最もなのだ。

 マリ姫様とは脳内通信ができる。これは、異世界人である救世主と世界樹次期管理人との絆でもあり、救世主を守るための大切なシステムだ。それを全く活用することなく城から逃亡し、何日も音沙汰がなかったことは、とても心配をかけたと思う。

 それに、マリ姫様の立場としては、救世主がいなくなるということは、世界樹に辿り着けなくなるという恐れも出てくるわけで、それは焦りもするだろう。別にマリ姫様を裏切ろうと思っていたわけではなかったのだけれど、急に自分が要らない子みたいに思えて、連絡が取りづらくなってしまっただけ。決して悪気はなかったのだ。これについては素直に謝りたい。

 だけど、再びビキニアーマーを着せられてマリ姫様に抱きしめられているこの状態は何なの?! マリ姫様の部屋に入った途端指摘されたのは騎士服のことだった。なんで俺の前では露出が低いんだ?とか言って暴れだして、しれっと部屋の中で立っていたミントさんもこれに加勢したものだから、あれよあれよという間にこの格好。しかもベッドの上だし、マリ姫様が美少女なだけに、百合小説のいけないシーンの再現みたいで背徳感がものすごいよ。

「衛介、そろそろ姫乃を返してくれ」

 あ、クレソンさんからの助け舟が来た!

「嫌だね。お前はちゃっかり堪能したんだろ? 俺も第二騎士団団長の件では一肌脱いだんだから、これぐらいのこと多めに見ろよ」
「でも婚約者は僕だ」
「姫乃がと再会の喜びを分かち合うことまで気に入らないのか? いろいろとちっちゃい男だな」

 って、そこでさり気なくクレソンさんの下半身を睨むマリ姫様。いや、そんなことないよ、と見たこともないのに言うわけにもいかず、私はワタワタするばかり。クレソンさんは湯気が出そうな程怒ってるし、この低レベルな喧嘩、もう収集がつかないよ。

 そこへ、カモミールさんから怒りの鉄槌が下る。

「いい加減にしろ! さっさと本題に移らんか!」
「すみません」

 私、クレソンさん、マリ姫様の声がハモる。あれ、私は謝らなくても良かったよね? ついつい流されちゃったよ。

「仕方ない。儂から話をしよう。エース、お主も聞いておろうが、クレソンが総帥となる条件に、王妃捜索隊の発足というものがあるのだ。王妃が疾走して早五年も経とうとしているが、王のお心は未だ彼女の元にある。我がハーヴィー王国を宰相の手から取り戻し、立て直せるかどうかがかかっておる重大な任務なのじゃ。つまり、事は急を要す」

 うんうん。聞いていた通りの話だ。私は、カモミールさんにしっかりと頷く。

「して、エースよ。この度お主は、王妃捜索隊の隊員として抜擢された。心して務めるように!」

 えええ? 捜索隊に私が? クレソンさんは捜索に向かうことになるかもしれないと思っていたけれど、私が行く意味はあるのだろうか。クレソンさんの方を向くと、彼はふっと笑みを深める。

「エース、離れ離れはお互い辛い。一緒に行こうね」

 あ、そうきたか。

 クレソンさんて、恋愛思考を極めて総帥にまでなった人だもんね。これって、いろんな意味で凄いことだよね。私、好きになった人を間違えた……わけではないと思いたい。

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