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7.魔王と魔女様
しおりを挟む報告を聞いて、目の前にいるウィルさんが魔王だということが発覚し、それをさりげなく聞く。別にそうだとしても気にしてないという心境だったのですが、その問いをかけられた本人と護衛らしき人たちはピタリと時が止まって反応が遅れます。それを見て答えを聞く前にそうなんだなぁと理解。
「…………………………何のことかな?」
しばらく不自然な間が空いてとぼける反応を返してきた魔王ウィルさん。その対応に、呆れる護衛の面々。
「…はぁ…返しが遅い。」
「…まあ、いいのですが。私に向けて隷属魔法使わないでくださいね。反転するそうなので」
ビランからの報告をそのまま忠告として伝え特に気にしてないとも伝えた。
「…え。なにそれ。まじ?あんた俺より上?」
「彼の報告からすると、ですが。」
ビランの紹介をしようとしたら共に任務を終えてきたであろう相棒が現れます。
【あー!魔王くんだ!本当に魔女様口説いてる~。魔女様はあげないぞ!】
もう1人、魔族について調べていたカグチが来ました。
カグチはこの森の鍛錬により人型に進化した鬼神のオーガロードです。
空からビランが調べ、人としてカグチが中から調べる。
確かにいいコンビですね。
「な?!カグチさん?!」
【はっはっはー、俺の真の姿を見よ!】
「…そこで本来の姿戻ったら屋根壊れますからね?一歩外出てくださいね?」
【…すみません。】
ノリが良いのはいいんですが、たまにミスがあるんですよね…
彼は一歩ではなく程よく離れたところで本来の大きさに戻り、覗き込むように鍛冶場に顔を出す。彼の大きさは秘境に生えている木の半分にも満たないですが、大きな魔物の1人ではある。カグチ以外の鬼族の魔物はいますがそんなに大きくはない。大体普通の人の2倍くらいなもの。
【見たかっ!我は鬼神オーガロードなのだ!】
「………う、そだろ」
「…彼は確かSランク冒険者に認定されたというのは聞きましたが…まさかここの魔物…最強種の1人とは…」
おや、Sランク?
「冒険者なのですか?カグチ。」
【はい!魔女様のために情報を集めるため、人型の大きさまで縮み中から情報を探っておりました!】
褒めて褒めてと私より少し背が高い大型犬は人型になり膝をつきます。
「じゃあ、次に街に行く時一緒に来れますね。護衛を頼みましょうか。」
【本当ですか!!他の奴らに自慢してきます!!】
「ふふ、程々にするのですよ。」
【はい】
【む、狡い…私も頑張りましたぞ?】
「ビランも行きたいのですか?構いませんよ。その小型サイズでいることが条件ですよ?」
【お安いご用です!】
【自慢してきます!】
【では失礼します】
森に戻る2人に手を振って見送ります。
さて、静けさに包まれた彼らはどうしましょう。
「ビラン…と呼ばれていたあの鳥も最強種の一体でよかったですか?」
「えぇ、ディストバードという種で、大型の鳥です。」
ビランは鴉の魔物です。大きさは本来のものとなるとかなり大きく…例えるなら二階建ての家くらいになりますね。彼の仲間はもう少し小さいですが、彼はボスですから体も大きいのです。この秘境の森の空の警備隊の1匹ですからね。諜報活動なども得意みたいですね。
「…アレが…死神…」
「そ、そういえば最近黒い鳥よく見かけるなと思ったら…そーいう…」
「……何が目的だ?」
ウィルさんが、警戒する趣でこちらを見る。
おやおや、完全に警戒されてますね。
「私ここに10年引きこもってたので世界の情勢のかわからないのです。だから調べてもらっただけです。」
「戦争を持ちかけるつもりは?」
「無いですね」
「……俺より強いんだろ。従えたいとは思わ…」
「無いです」
「…即答は結構傷つくんだけど…」
「従えて何になるんです?征服してなにになるんです?平和にしてもまた戦争は起きるそれが人のいる世界です。」
「ならなにを目的に生きてるんだ。」
「ただ気まぐれに人と会話し、自分のやりたいことをやって寿命死。それが私の望みです。」
「……寿命…」
「私だって人ですからね。不死ではありません。…それで、先程ビランから聞いた情報の中から勝手な考察を思いつきまして、もしかして…ウィルさんって」
「……」
何を聞かれるのかという構え方にふとそばに居た警護中の魔族たちのことを思い出し、もし話していないなら声に出しての質問は控えた方がいいかなと思い止まる。しかし気になるのは気になるので、念話で話しかけることにした。
『あなたは転生者ですか?……あ、これ念話なので声に出さなくて結構ですよ』
「っ!!」
『それを聞いてどうする。』
念話は魔法の一種です。魔物たちに教わりました。対象者と声に出さずに会話をする魔法です。使用者が一度使えば対象者も短時間会話が可能となります。未だに警戒が解けてないのか探るような問いかけをしてきたウィルさんに落ち着くように伝えます。
『いえ、献立を変えるだけです。』
『は?』
『洋食の肉か魚かを選んでいただくだけにしようかと思いましたが、和食か中華、何か食べたいものがありましたらご要望に応えましょう。』
『和、食…だと。ならあんた!』
彼が私のことに勘づいたところでネタバラシですね。
『はい、私も転生者です』
「なっ?!」
声を出して驚きを見せるウィルさんに、突然驚いた反応に魔族たちが不思議そうに伺っていた。
「どうしたんですか?陛下」
「……もしかして念話も扱えたりしますか。魔女様」
「アンさんで構いませんよ。それと念話は使えます。ちょっと秘密のお話ししてました。すみません。」
「念話って魔法の熟練者か魔物同士しかできないことじゃなかったですかね?」
「魔物達に教わったので」
「…それで習得できたのもすごいですよ…」
「それでうちの陛下はなぜ驚き固まったのか聞いても?」
「皆さんが彼の秘密を知っているのなら話せますが…」
『あなたが転生者なのは知っていますか?』
『こいつらは知ってる。話していい。』
「許可をもらったので話しますと。私も転生者ということをお話ししてました。」
「「「「!!」」」」
秘密を託せる仲間なのですね。皆様を信頼している証拠です。まあ、魔物達にも私のこと話しているのですけど。
「それで、もと故郷のご飯が食べたいと思っていると思い提案していたところです。」
「陛下の故郷の味!知ってるんですね!レシピ教えて欲しいです!」
「完全にというわけではないと思いますが、似たような感じにはなります。味噌とか食べたくありません?」
「食べる!」
「では味噌汁つけますね。」
「あざす!!」
仕込みをやり直さねばなりませんね。
「そろそろお昼ですし、準備いたしますよ。ケヴィンさん手伝ってもらっても?」
「はい!!」
ケヴィンさんはシェフでもあるようでテキパキと動いてくれました。とても助かります。
今日は生姜焼き、漬物、味噌汁、ご飯。デザートは何にしましょうかね。ショートケーキでいいかな。
大福も考えましたがあんこは好き嫌いがありますからね。
王道に行きましょう。
プリンの時に甘いものは大丈夫だと確認済みです。
ケーキを作るときのケヴィンさんの反応が面白いので楽しくて仕方ありません。
そんな様子を見られていたのか、たまたま見ていたのかはわかりませんが、お昼ご飯食べるメンバーが増えてました。
【絶対に魔女様はやらんからな…】
【他にはやらん】
「時々飯食いにだけは許してくれ!」
「…この空気に慣れるその適応力が羨ましいです…」
「…生きててごめんなさい…」
料理運んできたら何ですかこれは。
そこにいたのはアバンさんとガレンスティードさん。アバンさんは体に傷のような模様が刻まれている大きなミノタウロス。ガレンスティードさんも大きな体躯をしています。そんな2体が客人達に威圧をかけて脅している光景が見えたら疑うしかありませんよね?
「またヒトの言葉で…」
【違うぞ!脅してない!】
【そ、そうだ。念を押しているだけだ!】
「…本当に何でそんな怯えるんだ。」
「圧迫感が消えました…」
「息できる…最高にゃ~…」
【お前らは魔女様の強さを知らんから…】
「……お昼ご飯いらないようですね。」
【【すみません!!】】
悪いと思ってるならやめましょうね?
「定食風にしてみました。どうぞ。アバンさんと、ガレスティードさんはこちらですよ。」
生姜焼き大量に積み上げたお皿を用意。お味噌汁の器は大きいものを。漬物は無しにして…ご飯は食べたければ用意しましょう。
「どうぞ召し上がれ」
「いただきますっ。」
目の前にお米とお味噌汁を見てじーんとしているウィルさん。名前を知っているけれど、ウィルさんってのが馴染んでいるからいいかなって思ってたり。
お昼を満喫した後は何がしたいか聞いてみます。
「あんたの実力を知りたい」
「私は他の施設に興味が。」
「もっとレシピを教わりたいです!」
「人気者だにゃ」
そうですね。では1つ1つ行きましょう。
「ウィルさんは実力を知りたいと言いますが…どのようなことをしたらいいです?」
「戦い方は基本的に魔法か?」
「基本?素手ですね」
そう答えるとアバンさん達の様子が一変。体を震えさせ身に染みた恐怖を表現し始めました。
【【(ガクブル)】】
「……素手で何されたらあーなるの?」
「…躾を少々」
「躾……素手での戦い方を見たいんだけど。」
「基本的に護身術みたいな感じです。」
「護身術で魔物倒してるわけ?」
「そうなりますね。それに頭、腕、足胴体という感じの骨格のある魔物は大体…首を折れば死ぬでしょう?」
「…………(サッ」
反射的に首に手を当てて隠す様子を見て微笑む。
「そんなに怯えなくても魔王狙ってませんから。敵対したら…わかりませんが」
そんな冗談を混ぜたら本気に取られてしまったようで全力で否定された。
「敵対絶対しない!!誓う!」
「ですから…大丈夫ですって。」
そんなに必死にならなくても…
「あの、折るといっても…頑丈な魔物も居ますよね?アンさんより大きな魔物の首なんて簡単に折れないでしょう?そういう時はどうするんです?」
「まずは暴れないように…四肢の骨を砕きます。」
「……あ、もういいです」
「それで……え?いいんですか?わかりました。」
「魔女様って呼ばれてますけど…魔女要素が見つけられてないです。」
「素手にも限界がありますから、もちろん強化魔法は使いますよ?」
「他の自然系統は使わないのか?」
「もちろん使えます。」
「何を使える?」
「光や闇以外ですね。治癒も使えます」
光や闇は魔王と勇者のみ扱えるもので教わることができなかったのですよね。多分教えてもらえればできると思いますが…魔物たちでさえ光と闇を持つ魔物は稀ですから。持ってたとしても扱いが難しいと言われています。
「光や闇以外か、そりゃまあそうか…」
「いや納得してますが…ちょっと待ってください。」
おや、何かおかしなことありましたか?
「以外というのを具体的に教えていただきたい。」
「風と火と、土と水の4属性だろ?」
おや、ウィルさんは勉強不足のようですね。
「それも使えますがまだありますよ?」
「へ?」
「天候、状態異常魔法、空間、時、結界、魔導ですね。」
これらは魔物達から教わりました。魔物達の方が博識だなと感じたのは私だけでしょうか?しかし、生きるために必要なことなのでしょうから私が覚えてても支障はないはずです。私も生きるために教えてもらったのですからね。
「……………………あの…ナンデスカネ、その魔法…」
「魔物たちに教わった魔法です。」
「…………エ、勝テナイヨネ?勝テルワケナイヨネ?」
「10年あったら学ぶ時間なんてたくさんありますからね。」
「……そういえば10年も居たんだったっけ……ん?待てよ?今おいくつでしょうか?アンさん」
「女性に年を聞きますか…まあいいですが。今年で20ですね。」
「……10歳の時に秘境に来たわけ?こんな奥深くに?!…いや、魔法があればまあ…」
「10歳の時に使えた魔法は風と火、水と土だけですよ?」
「……」
なんで今目の前にいるのが信じられないって顔するんですかね?少し失礼ですよっ。
【…魔女様は不死身なのだ。】
【でなければあの様なことはできぬ…】
「なんで、私が恐ろしいみたいな要素を追加するんですかっ。私そんなに怖くないですっ!」
フォローと言えない言葉を使わないでください。
「まあ、アンさんのことを知るのはまたの機会ということにしませんか。」
「…そ、そうだな。」
「もー…」
次です次!
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