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8.いつの間にか賢者?
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施設の見学でしたね。
「施設といっても…あと見せられるとしたら工房と倉庫しかないですよ?」
「工房というのは何をしているんですか?」
「他の魔物たちと一緒に街に売りにいっている木の細工や服飾関係を作っていますね。」
「魔物たち…と一緒に作っているところを覗くことはできますか?」
「それはちょっと…」
「……ふむ。わかりました。あの、最後に聞きたいことが…」
「はい。なんでしょう?」
「この秘境の木はとてつもなく硬いはずです。どうやって切ってますか?」
「魔法ですね」
「風魔法…でしょうか?それでも傷がつく程度のはずですが。」
「え?そう…なのですか?10歳の時から簡単に切れていたので…疑問に思わなかったのですが。」
「……一応切れるところ見てもよろしいですか?」
「えぇ、それくらいなら構いませんよ。」
いい機会ですね。この機会に他の人がやったらどんな感じなのかも見ておきたいです。
ルドさんとウィルさんがやってくれるみたいですね。
「それでは私から…ウインドカッター!」
……ん?風の刃を出す魔法を使おうとしたのはわかります。ですがそれ…風の魔力使ってますか?…うまく使いこなせてないただの勢いのある風ですよ?そんなんじゃ…ほら、擦り傷さえつきません。
もしかして魔法はそこまで得意ではなかったのでしょうか。感想はまた後で伝えるでして…
次はウィルさんですね。
「んじゃ、俺な。ウィンドカッター!!」
………ェ??あの、声を大きくしても風の魔力使えてないからルドさんと同じ程度しか傷ついてませんよ?え、まさか今の本気じゃないですよね??
「…あの、もしかして今の本気…」
「本気ですよ?!」
「……本気に決まってんだろ」
何いってるんですか?という疑う目で見られましたが、逆に疑ってるのは私なんですが?!
「……え。風の魔力全然使ってないのに?」
「「は?」」
「魔法について理解してないのに…なんで使えるっていってるんです?…あ。わかりました。意地ですね!意地なんか張らなくていいんですよ!別に魔法下手でも恥ずかしくないですっ。」
「「……ェ?」」
【うむ…。魔女様は天然鬼畜だから…仕方ない…。】
【魔女様…こいつら本気で扱えてると思い込んどるのだ。昔の我らのようにの…】
え…?魔物達は教わらず独学だからわかりますよ?でも魔族だって人でしょう?学ぶのに何故わからないのです??
【本物の魔法というのを魔女様が見せてやれば納得するじゃろ。】
【我らはまだ修行の身。お前達も真の魔法を見れば魔女様に魅了されてしまうだろう。だが、絶対に魔女様はやらんから】
「一体何を…」
そうですね。もし、昔の魔物達と一緒というのなら見本を見せてあげればいいのですね。
「…では、行きますよ。ウィンドカッター」
体の中の魔力を更に集中し、風に属するものを手に集め、目の前に形作る。薄緑の魔力は複数の刃の形を作り、目標に向かって銀の光を放ちながら飛ぶ。目標を切り終えれば緑の粒子となり自然に溶け込む。
1つの大木が私の目の前に倒れてきます。
それを片手で受け止め、軽く宙へと弾き、風魔法で更に細かく斬り刻み、魔法袋に入れていきます。
後で加工しておきましょう。
「今のが初期魔法、ウィンドカッターの真の力です。みなさんが今まで使っていたのは風魔法ではなく無属性魔法の中のスラッシャーに近いかと思われます。」
「「「「「ーー」」」」」
全員が口を開けて驚き固まっていました。
懐かしいですね…昔の魔物達を思い出します。
【魔女様のおかげで我らの中の限界が変わったのが懐かしい】
【限界などまだ到達すらしてなかったんじゃからのぅ】
思い出に浸るような様子に微笑ましい気持ちで見守っていると、早速ウィルさんが動き出す。
「……アンさん。」
「はい、なんでしょう?」
「…今日泊めてもらっていいか。」
「おや、お泊まりですか?そうですね…支度に時間かかりますが…まあできないことはないです。」
「そんで頼む…俺に魔法を教えてください!」
「魔王様が外泊って大丈夫なんです?」
「大丈夫だ。いつものことだ。」
「陛下…本来はダメです。ですが、ここはある条件を呑むなら許しましょう」
おや、ルドさんがダメと言ってますよ?条件とはなんでしょう?
「なんだよ…」
「私も泊まります。魔法を使いこなせていると思っていた私を鍛えなおさないと気が済みません。」
「ええ!ルドまで?!…私は騎士にゃ。魔王様の護衛だから一緒に居るのにゃ」
「僕も!専属シェフですから!残ります!」
「……じゃあ私も…」
「誰か1人は城に戻らねーとダメだろ?」
「……ぇ」
「そうですね。セルマ、城に連絡を入れて来てください」
「……仲間外れ…」
「いやいや!戻って来ればいいからな?!だから…」
「む。ここから城までどのくらい距離があると思ってるんですか!行きは魔王様の背に乗られて来ましたが!私の翼じゃああんなスピード出せません!」
「うっ…す、すまん」
仲間外れは良くないですねぇ。
「ウィルさんが一度帰って来たらいいのでは?」
「いや、俺は一度帰ったらなかなか出られん。この世界にもう勇者は居るからな。守りが頑なになっている。」
そんな時にここに来て大丈夫だったのでしょうか?
「しかし、ここでしばらく泊まり鍛えれば勇者なんで怖くない。」
「そうですか?」
「アンさん、よく聞いて来れ。今あんたの立場はゲームの中の賢者クラスだ。」
「え?」
「この世界に広まっている魔法ってのは、俺たちがしたくらいができたら普通なんだ」
「そうなんです!無属性魔法ってそもそもなんですかって感じなんです!」
「ええ?いや、流石にそんなことは…」
だって、私が魔法を学んだのって、城の書庫の魔導書を読んでですし…あれが一般的な魔法の使い方ではないんですか?あの書物は一般的に置いているものだと…
「どこでそれを学んだのか教えてもらうか。アンさんに師匠になってもらうかどっちかになる!」
どこというのは無理ですね。過去を話す事になります。それにしても師匠にですか…?
「私教えるのそんなに得意じゃ…」
「「そこをなんとか!!」」
「えぇ…?」
うぅーん、これは予想外ですね。彼らの宿泊がいつまでというのがわかりませんし、彼らのみを鍛えるとなると勇者という存在が絡んできますよね…そうだ。ちょうどアバンさんとガレンスティードさんがいるではないですか。
「アバンさん、勇者についての情報はどうですか?」
【おお、そうであった。今回の勇者はある国の王子に決まったようだ。】
おや、召喚されるのが普通かと思いましたが違うんですね。
「…俺らより情報持ってるのな…なかなか調べられてなかったのに」
「彼ら魔物は探りやすいですから」
「そこら中にいるもんな…」
【ふむ、それでその国の名はアズルーン】
え?
【名前はストラード・アズルーン・ユーリだ。】
「……そ、ですか」
【む?魔女様?】
「…あの人ですか…あー絡まれたくないです…絶対に嫌です。なので、皆さんはおかえりください。申し訳ありませんが、貴方方の望む師になることはできません。…………気分が優れないので休みます。」
【魔女様?】
「え、アンさん?」
ふらふらしながら家に入って鍵を閉め閉じこもります。
……あの人がうろちょろしているのですか?引きこもりなのに?いや、女たらしの方でしょうか?どっちにしろなぜ彼らの中のどちらかなのですか?神の運命ダイスは私に不幸しか望まないのですか?会いたくない。当分…街に行くのは…いや、7日ごと伝えてしまったし、商人なら信頼が第一です。私はもうあの国と関係はありません。
ただの魔女アンなのです。…………もし彼に出会っても知らないふりをすればいい。関わらなければいいのです。
コンコンコン。
窓を控えめに叩く音が聞こえて顔をあげます。
窓の外に、メゼルさんがいました。
【魔女様、お飲み物持って来たわよ】
「……ありがとう」
メゼルさんは小さな妖精です。コップを抱えて持つくらい小さいです。
コップを受け取り、中に誘います。
【大丈夫?】
「少し休めば良くなります」
【明日の予定はないのでしょう?休みなさいな】
「……彼らは帰りましたか?」
【魔族達?心配そうに帰っていったわよ。】
「…悪いことをしてしまいました。」
【いいのよ、急に弟子にしてくれなんて図々しいわ】
「……いえ、魔法を教えることに関してはいいかなと思ったのです。でも、彼らと関わればどこかで勇者とつながってしまうことが嫌なのです。」
【今世の勇者は嫌い?】
「……関わりたくありません。」
【嫌いなのではないの?】
「…嫌い…と言いますか…そもそも見たくないんです。声も聞きたくない。」
【………そんなになのね。何があったとかは聞かないほうがいいかしら?】
「……本当は自分の中で消してしまいたかった。けれど無理そうなので…聞いてくれませんか?少しは楽になるかもしれません。」
【えぇ、もちろんよ】
私は勇者と同じ国の王族で姫をやっておりました。しかし姫というのは嫁ぐ以外に城にとって、彼らにとって意味をなさないものだったようで酷い毎日でした。
朝から晩まで監視がつき、淑女の嗜みを学ぶに関しては問題ありませんが、テーブルマナーを学んだ後必ず毒の入った料理が一品混ざるのです。
それ以外にも、暗殺者の存在を感じ、怯えながら苦しみながら生活。
兄弟と話す時間など、与えられもせず、監禁状態。
私は影で飾り姫と呼ばれていたようです。顔も知らない貴族に嫁ぐか、魔王にさらわれるか…そんな二択の中、生き続けることが嫌だった。だから国を出てここに来ました。人のいない場所、人と関わりを持つことが嫌なわけではありません。しかし、当分は私の存在を隠すべきだと考えた。
だから、引きこもりました。皆さんと仲良くなるうちに1人孤独という感覚もなくなり、楽しい毎日が送れればいいと思い今に至るのです。
【……】
「すみません、こんな気が重くなる話…」
【いえ、よく頑張ったわね】
メゼルさんが顔に抱きついて頭を撫でてきます。我慢していたものが決壊し、泣いて、そのまま眠ってしまいました。
【私達の魔女様を傷つけた存在が勇者?】
【我等の魔女様を泣かせたやつが勇者?】
【許さない】
【あの国の噂は良くないものばかりである】
【なくなってしまったほうが世のためだ】
【しかし一応故郷でもあるのは確か】
【なくなったと聞けば魔女様はどうなる?】
【王家だけ潰せばいい】
【彼らの言い分を聞くだけ聞こう】
【慈悲を与えてやらねば公平ではあるまい】
【魔女様には楽しく、笑って、生きていてもらいたい】
【魔女様のために】
“魔女様のために”
秘境に住む最強種の14の魔物達は話し合い、勇者の動向とアズルーンの動きを細かく調べ尽くすこととした。
魔女様に笑ってもらうため、魔女様に泣いてもらわないため、守るために。
今は健やかに眠る彼女に起きた時、笑顔で挨拶されるために、彼らなりに考え、商品を増やしていった。
彼女は商人だ。彼女の力になるために、今を生きる魔女様のために、過去を忘れさせるために。
今を楽しんでもらうために。
「施設といっても…あと見せられるとしたら工房と倉庫しかないですよ?」
「工房というのは何をしているんですか?」
「他の魔物たちと一緒に街に売りにいっている木の細工や服飾関係を作っていますね。」
「魔物たち…と一緒に作っているところを覗くことはできますか?」
「それはちょっと…」
「……ふむ。わかりました。あの、最後に聞きたいことが…」
「はい。なんでしょう?」
「この秘境の木はとてつもなく硬いはずです。どうやって切ってますか?」
「魔法ですね」
「風魔法…でしょうか?それでも傷がつく程度のはずですが。」
「え?そう…なのですか?10歳の時から簡単に切れていたので…疑問に思わなかったのですが。」
「……一応切れるところ見てもよろしいですか?」
「えぇ、それくらいなら構いませんよ。」
いい機会ですね。この機会に他の人がやったらどんな感じなのかも見ておきたいです。
ルドさんとウィルさんがやってくれるみたいですね。
「それでは私から…ウインドカッター!」
……ん?風の刃を出す魔法を使おうとしたのはわかります。ですがそれ…風の魔力使ってますか?…うまく使いこなせてないただの勢いのある風ですよ?そんなんじゃ…ほら、擦り傷さえつきません。
もしかして魔法はそこまで得意ではなかったのでしょうか。感想はまた後で伝えるでして…
次はウィルさんですね。
「んじゃ、俺な。ウィンドカッター!!」
………ェ??あの、声を大きくしても風の魔力使えてないからルドさんと同じ程度しか傷ついてませんよ?え、まさか今の本気じゃないですよね??
「…あの、もしかして今の本気…」
「本気ですよ?!」
「……本気に決まってんだろ」
何いってるんですか?という疑う目で見られましたが、逆に疑ってるのは私なんですが?!
「……え。風の魔力全然使ってないのに?」
「「は?」」
「魔法について理解してないのに…なんで使えるっていってるんです?…あ。わかりました。意地ですね!意地なんか張らなくていいんですよ!別に魔法下手でも恥ずかしくないですっ。」
「「……ェ?」」
【うむ…。魔女様は天然鬼畜だから…仕方ない…。】
【魔女様…こいつら本気で扱えてると思い込んどるのだ。昔の我らのようにの…】
え…?魔物達は教わらず独学だからわかりますよ?でも魔族だって人でしょう?学ぶのに何故わからないのです??
【本物の魔法というのを魔女様が見せてやれば納得するじゃろ。】
【我らはまだ修行の身。お前達も真の魔法を見れば魔女様に魅了されてしまうだろう。だが、絶対に魔女様はやらんから】
「一体何を…」
そうですね。もし、昔の魔物達と一緒というのなら見本を見せてあげればいいのですね。
「…では、行きますよ。ウィンドカッター」
体の中の魔力を更に集中し、風に属するものを手に集め、目の前に形作る。薄緑の魔力は複数の刃の形を作り、目標に向かって銀の光を放ちながら飛ぶ。目標を切り終えれば緑の粒子となり自然に溶け込む。
1つの大木が私の目の前に倒れてきます。
それを片手で受け止め、軽く宙へと弾き、風魔法で更に細かく斬り刻み、魔法袋に入れていきます。
後で加工しておきましょう。
「今のが初期魔法、ウィンドカッターの真の力です。みなさんが今まで使っていたのは風魔法ではなく無属性魔法の中のスラッシャーに近いかと思われます。」
「「「「「ーー」」」」」
全員が口を開けて驚き固まっていました。
懐かしいですね…昔の魔物達を思い出します。
【魔女様のおかげで我らの中の限界が変わったのが懐かしい】
【限界などまだ到達すらしてなかったんじゃからのぅ】
思い出に浸るような様子に微笑ましい気持ちで見守っていると、早速ウィルさんが動き出す。
「……アンさん。」
「はい、なんでしょう?」
「…今日泊めてもらっていいか。」
「おや、お泊まりですか?そうですね…支度に時間かかりますが…まあできないことはないです。」
「そんで頼む…俺に魔法を教えてください!」
「魔王様が外泊って大丈夫なんです?」
「大丈夫だ。いつものことだ。」
「陛下…本来はダメです。ですが、ここはある条件を呑むなら許しましょう」
おや、ルドさんがダメと言ってますよ?条件とはなんでしょう?
「なんだよ…」
「私も泊まります。魔法を使いこなせていると思っていた私を鍛えなおさないと気が済みません。」
「ええ!ルドまで?!…私は騎士にゃ。魔王様の護衛だから一緒に居るのにゃ」
「僕も!専属シェフですから!残ります!」
「……じゃあ私も…」
「誰か1人は城に戻らねーとダメだろ?」
「……ぇ」
「そうですね。セルマ、城に連絡を入れて来てください」
「……仲間外れ…」
「いやいや!戻って来ればいいからな?!だから…」
「む。ここから城までどのくらい距離があると思ってるんですか!行きは魔王様の背に乗られて来ましたが!私の翼じゃああんなスピード出せません!」
「うっ…す、すまん」
仲間外れは良くないですねぇ。
「ウィルさんが一度帰って来たらいいのでは?」
「いや、俺は一度帰ったらなかなか出られん。この世界にもう勇者は居るからな。守りが頑なになっている。」
そんな時にここに来て大丈夫だったのでしょうか?
「しかし、ここでしばらく泊まり鍛えれば勇者なんで怖くない。」
「そうですか?」
「アンさん、よく聞いて来れ。今あんたの立場はゲームの中の賢者クラスだ。」
「え?」
「この世界に広まっている魔法ってのは、俺たちがしたくらいができたら普通なんだ」
「そうなんです!無属性魔法ってそもそもなんですかって感じなんです!」
「ええ?いや、流石にそんなことは…」
だって、私が魔法を学んだのって、城の書庫の魔導書を読んでですし…あれが一般的な魔法の使い方ではないんですか?あの書物は一般的に置いているものだと…
「どこでそれを学んだのか教えてもらうか。アンさんに師匠になってもらうかどっちかになる!」
どこというのは無理ですね。過去を話す事になります。それにしても師匠にですか…?
「私教えるのそんなに得意じゃ…」
「「そこをなんとか!!」」
「えぇ…?」
うぅーん、これは予想外ですね。彼らの宿泊がいつまでというのがわかりませんし、彼らのみを鍛えるとなると勇者という存在が絡んできますよね…そうだ。ちょうどアバンさんとガレンスティードさんがいるではないですか。
「アバンさん、勇者についての情報はどうですか?」
【おお、そうであった。今回の勇者はある国の王子に決まったようだ。】
おや、召喚されるのが普通かと思いましたが違うんですね。
「…俺らより情報持ってるのな…なかなか調べられてなかったのに」
「彼ら魔物は探りやすいですから」
「そこら中にいるもんな…」
【ふむ、それでその国の名はアズルーン】
え?
【名前はストラード・アズルーン・ユーリだ。】
「……そ、ですか」
【む?魔女様?】
「…あの人ですか…あー絡まれたくないです…絶対に嫌です。なので、皆さんはおかえりください。申し訳ありませんが、貴方方の望む師になることはできません。…………気分が優れないので休みます。」
【魔女様?】
「え、アンさん?」
ふらふらしながら家に入って鍵を閉め閉じこもります。
……あの人がうろちょろしているのですか?引きこもりなのに?いや、女たらしの方でしょうか?どっちにしろなぜ彼らの中のどちらかなのですか?神の運命ダイスは私に不幸しか望まないのですか?会いたくない。当分…街に行くのは…いや、7日ごと伝えてしまったし、商人なら信頼が第一です。私はもうあの国と関係はありません。
ただの魔女アンなのです。…………もし彼に出会っても知らないふりをすればいい。関わらなければいいのです。
コンコンコン。
窓を控えめに叩く音が聞こえて顔をあげます。
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「……ありがとう」
メゼルさんは小さな妖精です。コップを抱えて持つくらい小さいです。
コップを受け取り、中に誘います。
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「……彼らは帰りましたか?」
【魔族達?心配そうに帰っていったわよ。】
「…悪いことをしてしまいました。」
【いいのよ、急に弟子にしてくれなんて図々しいわ】
「……いえ、魔法を教えることに関してはいいかなと思ったのです。でも、彼らと関わればどこかで勇者とつながってしまうことが嫌なのです。」
【今世の勇者は嫌い?】
「……関わりたくありません。」
【嫌いなのではないの?】
「…嫌い…と言いますか…そもそも見たくないんです。声も聞きたくない。」
【………そんなになのね。何があったとかは聞かないほうがいいかしら?】
「……本当は自分の中で消してしまいたかった。けれど無理そうなので…聞いてくれませんか?少しは楽になるかもしれません。」
【えぇ、もちろんよ】
私は勇者と同じ国の王族で姫をやっておりました。しかし姫というのは嫁ぐ以外に城にとって、彼らにとって意味をなさないものだったようで酷い毎日でした。
朝から晩まで監視がつき、淑女の嗜みを学ぶに関しては問題ありませんが、テーブルマナーを学んだ後必ず毒の入った料理が一品混ざるのです。
それ以外にも、暗殺者の存在を感じ、怯えながら苦しみながら生活。
兄弟と話す時間など、与えられもせず、監禁状態。
私は影で飾り姫と呼ばれていたようです。顔も知らない貴族に嫁ぐか、魔王にさらわれるか…そんな二択の中、生き続けることが嫌だった。だから国を出てここに来ました。人のいない場所、人と関わりを持つことが嫌なわけではありません。しかし、当分は私の存在を隠すべきだと考えた。
だから、引きこもりました。皆さんと仲良くなるうちに1人孤独という感覚もなくなり、楽しい毎日が送れればいいと思い今に至るのです。
【……】
「すみません、こんな気が重くなる話…」
【いえ、よく頑張ったわね】
メゼルさんが顔に抱きついて頭を撫でてきます。我慢していたものが決壊し、泣いて、そのまま眠ってしまいました。
【私達の魔女様を傷つけた存在が勇者?】
【我等の魔女様を泣かせたやつが勇者?】
【許さない】
【あの国の噂は良くないものばかりである】
【なくなってしまったほうが世のためだ】
【しかし一応故郷でもあるのは確か】
【なくなったと聞けば魔女様はどうなる?】
【王家だけ潰せばいい】
【彼らの言い分を聞くだけ聞こう】
【慈悲を与えてやらねば公平ではあるまい】
【魔女様には楽しく、笑って、生きていてもらいたい】
【魔女様のために】
“魔女様のために”
秘境に住む最強種の14の魔物達は話し合い、勇者の動向とアズルーンの動きを細かく調べ尽くすこととした。
魔女様に笑ってもらうため、魔女様に泣いてもらわないため、守るために。
今は健やかに眠る彼女に起きた時、笑顔で挨拶されるために、彼らなりに考え、商品を増やしていった。
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