魔女様は平和をお望みです

yukami

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12.魔女様の「家」は…

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訓練場に移動、とりあえず王妃様は窓から覗くだけとなった。

当分体を横にしていたから筋力が落ちているだろうし、無理は良くない。
それにしても彼らを見る目が私の中で変わった気がするなぁ。
苦しんだ場所なのに、今は空にも城にもちゃんと色がある。少し広く感じる空間に今居る。


「では魔法を教えましょう」
「待て」
「はい?」
「…名前は」

おや、勘のいい子は嫌いだよ。今は大人しく話を聞く時間だ。質問は後にしてくれ。

「どう呼べばいい…でしょうか」
王様にひと睨みされ敬語をつなげた勇者くん。

「魔女様でも、魔女殿でもお好きなように」
「……以前会ったことはありますか」
「いえ?」
「……じゃあ、あの子は本当にアンヤだった…?」
「そういえば、アンヤが平原地帯で勇者にあったと言ってましたね。」
「…!!」
「ユーリ、アンヤに会えたのか!」

「その日彼女はひどく疲れた顔でしたが…何か言いましたか?」
「……」
「…アンヤと暮らしているのだろうか?魔女殿」
「私は職人として雇われているようなものですから。今は神託が来ましたのでお休みをいただいております。」

「おぉ…職人とな。何を作っているのだ?購入を考えよう。」

「ふふ、私は衣服を作っています。」
「衣服?ポーションかと思ったが」
「あの子は今幅広いジャンルの商人ですから。最近有名になっていると聞きましたね。タランダドーアという街を起点に、各国に噂が広がっていると聞きますよ?聞いたことがあるのではありませんか?」
「タランダドーア?…!秘境に一番近い大きな街だったか。最近はその話は聞いておらんでな…後で確認させよう。」
「えぇ、そうしてくださいな」

魔法についての話に戻らせていただき、指導をしていれば、あっという間に暗くなってしまいました。
そういえば明日には街に行かなくてはなりません。リストを取りに。そろそろお暇しましょう。

「王様、申し訳ないのですが、今日はここまでとさせていただきます。帰らねばなりません。」
「おぉ、もうこんな時間か。……今日は泊まっていくのはどうか?」

そういう誘いは断らせていただく。あの子の料理が食べたいからという理由で。

「アンヤは料理もできるのか…もっと話を聞きたいのだ。」
王様がどうしても残って欲しいというが、私は長時間ここいるというのにはやはり慣れない。
騎士達の立ち回りが少し変化する。まるで逃がさないとでも言っているかのように。

「……陛下、私は帰らねばなりません」
「一泊するだけではないか」

なんでだろう。このままではまずい。いやそれ以前に少し、震えまで出てきそうだ。ここでジルくんを置いてきてしまったことの弊害が出てきてしまいましたね。ラトくんに連絡を入れなくては…

「魔法は使わせませんぞ、魔女…いえ魔人よ」

魔人?ちょっとちょっと、なんなのです。危険な展開がぷんぷんしてます!

周りを取り囲むように騎士が徐々に近づいてきて王様に何をする気だと声をかけた瞬間、後ろからガツンとやられてしまいました。

意識が遠のく前に、
「……忌々しい、気絶しても魔法を解かんか。」
「父上、魔法を教わった後様子がおかしいと思ったら急に態度を変えてどうしたんです。」
「暗部から、各種族の中のどこに教えていったか報告を聞くと、魔族にも教えているのだ。」
「!…つまり我々を…」

そこで完全に途切れました。
嗚呼、ウィルさんに教えるの最初じゃなくて最後にしたらよかったですね。
しかし彼らにも誓約はしています。覚えたての魔法を使い、私を襲えば…天罰が降ると思います。神には頼んでいますからね…でもあの子は動いてくれるのでしょうか?

起きたら鎖につながれ、荷物は奪われていますね。魔法は…魔力封じの鎖でしょうか。ちぎるのは簡単そうですが…
そんなことより、みんなが暴走しなければいいですね…
みんなに1日泊まってから帰るといってますから…まあ、大丈夫かな。今何時でしょう。

拷問というのを初めて受けました。
痛いふりをするのも大変です。
この体、怪我も病気も毒も効きません。
私の体を傷つけるのは無理なのですが、魔人だから超絶な回復力を持ってるとあちらは考えているのか。どんどん過激になっていきます。

また日が暮れてきました。
一泊するとは話してあるから…これ以上はまずいんですよね…

「どうしましょうかね…」
「バケモノは黙っていろ!」

お姫様からバケモノに変わり果てましたか…
この国心から嫌いになって欲しいみたいです。
このまま寿命死を待つのも手ですかねぇ。

『ちょっと!早く出なさいよっ。』
やる気でないです。
『魔物達がヤバイのよ!』
そうですか…

『月の王が迎えに飛んでるわよ!』
ルナオーガンが?……人では敵いませんね。

『平原からは数多の秘境の魔物が押し寄せていて!』
へー…もういっそのことどうにかなるでしょう。
『…でも、いいの?関係ない人まで殺させるの?』
……家族全員で私を殺しにかかってきて…なぜ私は生まれたのでしょう…

『そりゃ…』
「やはり…私なんてにも生まれてはいけない存在だったですかね」
『そんなこと!!』

グルオァアアアアアーーーーー!!!!!

地面が揺れるほどの雄叫びが国の上空から響き渡る。真っ暗な暗闇に煌めく銀の光。
ぼんやりとその光を鉄格子の間から見上げる。

その大きな光の中の瞳が私の視線と交わった。
すぐに一筋の小さな光がその鉄格子の外側から顔を覗かせる。

「…ラトくん。」
(離れて)
「うん…」

蹄で石造りの壁は砕かれ、オーガホースのラトくんがその穴から入って私に擦り寄る。地面に垂れている鎖は踏み砕いてくれる。

「…あったかい」
(…お腹すいた?)
「うん…」
(ルナオーガン様が帰ったらご飯作ってくれるって。早く帰ろう)
「うん…」
(立てる?)
「んー…」
【私が運びます】

影の中から現れた影の塊のような魔物のドッペルゲンガーのジープが私をラトくんの背中に乗せる。
体に力を入れるのもやる気が出ずにいるのを後ろから支えてくれる。

「……ありがとう…」
【少しお眠りください。目が覚めたらみんながいます】
「…うん…」
暖かな優しい力に包まれてうとうとする。
ラトくんが空を駆けているのはルナオーガンが風魔法で運んでいるのか、それともジープなのかはわからない。

【……人の子よ。これは一体どういうことか】
「ソレが貴殿の望むものだったというのか!それは邪悪なる魔人ですぞ!」
【魔人?何を言っている、自らの子すら見分けがつかないか。老録したな人の子よ】
「自らの…!?違う!ソレはアンヤなんかじゃ…」

狼狽え始める王に興味をなくしたように警告の言葉を言い放つ銀の龍。

【子のことを理解できぬ親など親ではない。この子にも二度とこの土地に近づかぬように伝え、逆に貴様らがわれの土地に近づいたときは死を覚悟しろ】

「待ってくだされ!その魔女が私の子だとしたら!何故身分を隠す必要が!それにそんな傷も毒も効かないバケモノが私の娘など…絶対にありえない!!」

【…それ以上話せば、この土地ごと今すぐ我の力で消しとばしてくれようぞ!!!】
「つっ!」
【良いな?不用意に我が土地に近づかんことだ。この国の住人の匂いは覚えさせた。少しでも領地に踏み込めば我が支配下の配下達が無残に殺しに行く。ここでこの国が滅ばないことを喜んでおくことだ。……帰るぞ。皆の者。…ラト、アンを我が背に】
(はい!)
【食事を与えてもらえられてないようです。体に力が入ってないから、私が支えましょう】
【頼む】

銀の体の国を簡単に暗闇に落とせる大きな体の龍は背中に小さく冷たくなってしまったアンを魔力で包み込み、風が当たらないように守る。
飛んで秘境に戻りつつ、アンの状態を探る。

【アンは眠ったのか?起きてるときはどうだった?】
(石造りの牢屋に閉じ込められて魔力封じされてた。食事も与えられてない様子だった。服が破れてるから…多分拷問があったんだろうけど…アンは特殊だから。)
【とりあえず、冷めきっていてラトと私がそばに寄ったら温もりを感じて嬉しそうだった。おそらく長時間あの暗闇に閉じ込められていたのでしょう。】
【……やはり滅ぼすか。】

ルナオーガンの力になれば離れていてもそこに魔法を放てる。座標さえ分かっていれば簡単に世界を壊せるのだ。

【そんなことは後回しだ。冷え切った体を温めるのと、温かい食事を与えないと】
(それにそんなに一気に殺しても他の者達も参加したがるに決まってるし、僕らだって許せられない。じわじわと嬲り殺したいんだ)
【うむ、そうだな。全員と話し合ってからにしよう。ともかく家に帰ろう。】



眼が覚めると、銀髪の人に抱え込まれていました。じっと顔を見てようやく状況が理解。

そういえば、牢屋に閉じ込められて、夜にお迎えが来て、帰ってきたんでした。
この人はルナオーガンですね。完全に人になりきってます。本来はこの森の地下に住む古代龍なのですが、私のことがかなり気に入ったらしく、私が最初に名付けをした方です。
この秘境の王又は月の王とも呼ばれていますね。

「……ルナオーガン、起きてください。」
【…む。起きたのか?】
「おはよう。お腹すきました…」
【うむ、すぐに食べられるようにしてある。運ぶから私の首に手を回すのだ。】
「そこまで弱ってないですよ…?」
【良い。ほら】
「もー…」

自分ではよく分かってなかったみたいで力があまりはいりません。やる気とかそういう問題じゃないようです。

【…力が入らぬのか?】
「すみません…よくわからないんですが…力が入らなくて」
【良い、無理をするな。】
魔力封じの呪印でも移りましたかね…

【むぅ…座るのも難しそうだな。】
「すみません…」
【謝ることはない。疲れがたまっているのだ。膝に乗せよう。寄りかかるといい。】
「………………ルナオーガン、」
【んぅ?どうした?】
「……私は何故生まれたのでしょう」
【!】
「生まれて来なければ…よかったのでしょうか…」
【…不安になっとるのだな。もうあそこには行くな。お前は必要とされておるから生まれてきたんだ。】
「誰に…?」
【我々では不十分か?】
「そうではないです…ですが…親にバケモノと言われてしまいました。」
【…うむ、アンは強いからな。弱い彼らから見たら強すぎているのかもしれん】
「強すぎる…?」
【我らのことも彼らはバケモノと呼ぶ。我らと共に生きるのが嫌でないのなら同じ呼び方では嫌か?】
「みんなと…おなじ」
【どうだ?】
「嫌じゃないです。」
【そうか。ほら、飯が冷めてしまうぞ】
「はい」

彼らと共に生きること。彼らが家族だと分かっていたはずなのに。家族だと分かり合えると思い、嫌な思いが増えてしまった。生きる楽しみが私の中のどこかでは、いつか…と考えてしまっていたのかもしれません。
バケモノと突き放されたとき、私は全てを失ったと思った。全て失ったのではなく。再度確認ができたのですよね。

「私は皆さんが大好きです」
【そこは我だけでもいいがな】
「ふふ、独占は良くないですよ?」
【やっと笑ったな】

私はもうあの国のことは考えません。
勇者も、関係ありません。

私はただの商人なのです。
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