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yukami

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第九話 餌付け…?

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フェンリルのジェットに咥えられて運ばれているのは幼生体のリザードだった。二足歩行のできる小さなリザードは動きが活発で、よく脱走したり問題を起こしたりと元気が有り余っている。

そのせいでいい感じのやりとりを邪魔されたがな…

『……いい感じだったのにテメェは』
『わー!やーだー!はーなーしーてー!』
『キュリエル!こいつまた脱走してんぞ!』
『ジェット?!もー!お前はー!』
『ひゃー?!』

リザードの幼体がキュリエルの部下に奥に連れていかれた後、キュリエルが謝ってくる。何の邪魔をしてきたのか聞いてきた。
キュリエルは施設内で働く仲間で、メーデルの契約獣のアイアンオウルだ。契約主以外の人種と話すには対応するスキルと念話の組み合わせが必要だ。そのスキルを使えば念話を覚えているので本来なら誰とでも話せるが、そう言うこととなると色々面倒な仕事を押し付けてくるのが契約者だ。
俺は絶対に必要な時以外は使わん。キュリエルからの問いかけに応えた。

『最近保護したての子供の観察だ。親なしで念話できねーんだ。更に人嫌いのかなり臆病な性格でな。今俺に慣らしてるとこ。』
『……ジェットが仕事…』

信じられないものを見ていると言う反応をするのでつい威圧を放つ。
『ああ”?』

『…それにしても親なし?念話もって。大変だな。』

すぐに切り替えて話を逸らすキュリエルに苛立ちを覚えるが、相手をしても無駄だな。

『こちらの言葉はわかるみたいだ。でも怖いという感情が一番みたいでな。警戒心が高い。』
『まあ、子供だしな。怖い目にあったなら尚更人は怖いだろう。』
『ま、俺に慣れたらここ連れてきてみるわ。』
『ん?なんで?』
『子供同士の方がわかることないか?』
『話せないことをいじめ対象にしないか…?』
『そんなことする奴がここにいるのか』
『お前が監視してりゃ問題ないだろうがな。』
『ふん。』

昼寝をしに戻ってみるが、アイツはまた地中深くに引きこもってしまったようだ。上がってくる様子がないので果物をもらいに行くことにした。

食事を分配する場所に着くと、主人がいた。
『あ、ジェット。報告くらい来なさいよ。何か変化あった?』
『めんどくせーな…』
「そのウルフが担当なの?アルトは?」

ん?なんだこの男は。悪魔族か。
訝しげな顔で男を見ていると、主人から説明が入る。保護してここに連れてきた男だという。保護したら終わり。が、冒険者のはずだ。金もらったら満足だと思ったら、こいつは通ってきているという。

『朝も顔だした。けど、バカな脱走坊主のせいで昼寝時間を邪魔されて引きこもった。坊主戻して出てきてなかったから食事取りに来た。』
『脱走って…』
『リザードの坊主だ』
『あー…』

「え、また脱走?」
『違うわ、違う子。他の保護魔物なんだけど常習犯なのよ。狩も覚えたからそろそろ卒業の時期ね。』
『元気有り余ってるんだからさっさと出してやれ』
「へー…そりゃ色々いるか。」

果物を受け取り、その場を離れようとすると悪魔族の男がついていっていいかと主人に聞いている。

『んー、見守るだけよ。今日は出てこないかもしれないわ。』
「夕方までならいいんだよな。見守るだけでいい。出てこなかったらその時だ。また来るし」
『そう?なら、ジェット。案内してあげて。』
『はぁ?人なんか連れて行ったら余計出てこなくなるぞ。』
『一応顔見知りよ。近づかないと約束させるから』
『…たく、知らねーぞ。』

不機嫌に鼻を鳴らして、付いてくるように目配せする。

『根はいい子だから。近づかないでね。』
「わかった」

人種を連れて元の場所に向かう。
すると、土から草が1つ出ていた。アレは…ふむ。頭だけ出しているようだな。俺たちの気配を察知して少し動いているな。
…ゆっくりとこちらを確認している。俺から男に視線が上がったら、全部引っ込んだ。
だから言ったのに…。

『お前、ここにいろ』
「へ?何?」
契約者じゃないと言葉は通じないから不便だよな。スキルを使うのは面倒なので、前足で場所を指示して、座ってみせる。

「え、あ、ああ!座って待ってろってことか。お前は何するんだ?」
聞いてもわからんだろ。見ていろ。

サーチで調べたがそんなに深く潜っていないようだ。近づくと流石に、少し下がった。
これ以上下がらないように足を止めて、亜空間から果物を取り出し地面に転がす。
夕方まで取ることがなかったら、回収して交換してもらいに行くか。

果物を置いたらすぐに離れて男の隣に行き、伏せる。

「…?」
何してるんだ?という顔だが答える気はない。見て、成果があれば見られる。

しばらくして、少しずつ躊躇いながらもゆっくりと上がってきた。土が盛り上がりその穴から草がゆっくり生えて、隣の男が息を止める。辺りを見渡し、俺たちの位置を確認。また、男を見てビクビクと頭を下げるが、俺の隣で動かないことを確認し、さらに辺りを見渡す。

地面に置かれた果物に反応したが、チラチラと俺たちの方向を見るので、出るに出られそうにないようだ。
やはり、男が邪魔だ。追い出すか。

『おい』
「うお?!なんだ?どした?」
『ちょっと立ってどっかいけ。』
グイグイと頭で背中を押して移動を促す。
「え、何々?」
『いーから動け』

少し唸れば、男が飛び上がりわかったからといい離れていく。
目視できないところまで追い出しそこで待てと伝える。

ゆっくり俺だけが戻りまた同じところに伏せる。

俺が唸ったことで引っ込んでいたようだが、男の存在がいないとわかったらすんなり出てきた。
近くに転がる果物を見て、手に取り、穴付近に運ぶ。
これで今日の飯は大丈夫だな。と昼寝を再開させようとすると気配がゆっくりこちらに近づいてきた。
ん?

目が合うと複数のツルが伸びて防御態勢になるが、しっかりとひとつだけ果物を持つツタを必死に伸ばしてくる。

『……?くれるのか?』
震えながらツタで丸を作り、俺に返事を返す。
本当に念話が使えないようだが、言葉はわかるのだな。

『怖かったら、近くに転がすだけでいいぞ。』
と言うと、そっと足元に置いてコロコロ転がって穴の中に入っていった。

転がすだけでいいと言ったのだが、頑張ったようだ。まあ、アレから見たら俺は大きいからな。まだ怖いだろう。
慣れるまで時間をかけるか。

もらった果物を咥えようと口を近づけると、何やら視線が。
その方向を見ると羨ましいという感情が漏れ出している悪魔族の人種がいた。

「……」

これは俺がもらったものなので関係なしに食べる。お前が貰えるかは根気の問題だ。通い続けられたらいつかは叶うだろうよ。

食べ終わったら昼寝を再開する。



先ほどはびっくりしたけど、気配は全くなくなったので頭をひょこりと出してみる。まだお昼ですから、もう少ししたいです。
ふにゃー…幸せのひと時…

しばらく幸せな時間を過ごしていると、気配が近づいてきました。
警戒を高めます。

あ。狼さんです。狼さんは怖くな……なんでまた貴方なのですか?!
うぅ、狼さんの隣に座らないでいいんです!
すぐに頭を引っ込みます。
ひとつだけ気配がこちらに向かってきます。
私はここから動かないですからね?!

少し地面に潜って様子見です。
離れたところに何かを落としたようです。少し地面が揺れたのを感じます。
気配が離れていったので、ゆっくりと顔をのぞかせます。
狼さんはお昼寝。悪魔はこっちをじっと見てきます。悪魔は放置しましょう。
何か落としていったはずです。それを少し確認します。

はっ!果物です。
……危険察知は反応ありません。
食べられるものばかりです!でも、出たら確保!!なんてことがあるかもしれません。あの悪魔はしそうです。ですが果物欲しいです。甘いもの欲しいです。
あぅあぅ…
右往左往していると狼さんが起き上がり、悪魔を追い出そうとしてくれます。
狼さん!やはりいい人だ。人ではないですが…

悪魔はなかなか動かないので狼さんが低く唸る声が聞こえ、体が条件反射で穴の中に引っ込みます。
本能が怖いと判断してしまったみたいです。

しばらくして、ひとつ反応が範囲内から消え、ひとつだけが戻ってきます。ゆっくり覗くと狼さんがお昼寝を再開していました。

悪魔はいません。
今のうちですっ!
果物を穴の近くに運び入れます。結構いっぱいあります。これなら明日まで持ちますね。
これを持ってきてくれたのは狼さんのはずです。お礼を言わねばなりません。
ひとつだけ果物をツタで持ち上げてゆっくり狼さんに近づきます。

私が近づいたことに気づいたのかゆっくり顔を上げこちらを見ます。
やはり近寄ると大きいです…朝も、突然のお客の対処もしていただいたこともありますし逃げることはしませんが…怖いものは怖いです…ツタが震えるのは許してくださいっ。

くれるのか?という問いかけに丸を作り答えます。怖かったら転がしていいと言いますが、そんなことしたら土まみれです。それに傷んでしまいます。
頑張ってそっと足元に置いて、コロコロ転がり、マイホームに向かいます。

地中は愛しのマイホームです。でも今日は進展ありました。狼さんは敵じゃないことがわかりました。果物くれるいい狼さんです。お腹が空いていたわけではないと思うのですが、甘いものはすぐになくなってしまいました。少し貯めようと思ったのですが、明日からにしましょう。……明日も来てくれるでしょうか?

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