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想い出の再現
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依頼主は吉川弓枝。三十代後半の憂いのある美しい女性で、亡き母が大事にしていた本に桜の押し花が挟んであり、それが誰から届けられたか知りたがっていた。
広い豪邸は街の高級住宅地の中でも一際目につき、洋介が約束の十分前に門の扉の前で呼び鈴を押すと、お手伝いさんに中庭の見える離れの一室に通された。
六畳間の畳と襖の和室に無垢一枚板のテーブルと椅子があり、依頼主の女性がスウェードのロングスカートに白いブラウスを着て現れた。
洋介は髪をきっちりセットして、ジャケットを着て対面する形で居心地が悪そうに座っている。
姉からの情報では依頼主の女性の母親は昭和の有名女優で、プライベートな事については芸能界では触れない約束事になっていたが、引退するとシングルマザーで女優業を続けながら一人娘を育てたと一時期世間を騒がせた事があったらしい。
吉川弓枝はこの桜の押し花が、誰から母にプレゼントされたか知りたがっていた。現在、証拠となりそうな物はこれしか残ってないと言われた。
「これですか?」
洋介は再度そう聞き返した。桜の押し花は、かなり色褪せて形も崩れている。
「幼い頃、毎年のように贈られたと思うのですが、母はそれを宝物のようにしていて、決して誰からのプレゼントかは教えてくれなかった」
吉川弓枝は桜の押し花を洋介に渡すと、母親との思い出を語りながら嘆いた。
「母の昔のことは何も知らないのです。子どもながら、母が好きだった人からのプレゼントじゃないかって思ってました。だから、私その恋をなんとしても知りたいのです」
「もしかしたら、お父さまからだと思っているのですね?」
「はい。母はシングルマザーで、恋も結婚にも興味を示さず仕事一筋で人生を終えました。それを間近で見ていた私は男性不信になり、恋の運気を逃している気がしてます」
頑なに過去を秘密にされ、負の思考に陥り父に捨てられたと思ったのか?洋介はこの桜の押し花に秘密が隠されているのなら、それを解き明かして追い風の気運になればと願った。
「手がかりはそれしか無いのです。過去の痕跡を消すように母は死ぬ前に手紙や写真など全部処分したみたいで」
小さな飾り箱の中にべっ甲の櫛とかんざしとこの本があり、ページに挟まれた桜の押し花を見つけて吉川弓枝は微かな希望を感じた。
「やってみますが、押し花は初めてです」
洋介は道具箱をテーブルの上に置いて、用意してもらったガラスのコップにミネラルウオーターを注いだ。
そして慎重に押し花のビニールシートをゆっくりと剥がし、崩れかかった桜の押し花を一欠片残さず全部コップの水の中に入れる。
道具箱の硝子容器を二つ選び、白とピンクの粉を銀のスプーンでひと匙ずつコップに入れていく。その粉が水の中でジュワッと泡立ち、桜の押し花にも泡が付着した。
暫しそれを観察してから慎重にガラス棒でかき混ぜ、その水をゆっくりと口に含んで心の中で呟く。
『花は想いを感じ、その恋は水に溶ける』
しかし、いつもの澄み切った感覚には程遠く、ザラザラとした違和感が舌の上に残り、桜の押し花が話す事を拒否していると感じた。
苦々しい水を喉に流し込んではみたものの、花の精霊の声が聴こえる筈がない。寧ろ、拒絶しているのではないかと思って閉じた目を開けた。
「まるで蕾のように口を噤んでいる。結界のように秘密を封印した押し花……」
「えっ?」
「あっ、すいません。お母様は有名な女優で、 シングルマザーで一人娘を育てた事も秘密になっていたと聞きました」
「その通りです。母は女優としてプライベートを公表する事を嫌ってました。マスコミに騒がれて、私に迷惑をかけたくなかったのでしょう」
「しかし、桜がその秘密の誓いを見守ったとしたら?この桜の押し花は秘め事の証に贈られた事になる」
広い豪邸は街の高級住宅地の中でも一際目につき、洋介が約束の十分前に門の扉の前で呼び鈴を押すと、お手伝いさんに中庭の見える離れの一室に通された。
六畳間の畳と襖の和室に無垢一枚板のテーブルと椅子があり、依頼主の女性がスウェードのロングスカートに白いブラウスを着て現れた。
洋介は髪をきっちりセットして、ジャケットを着て対面する形で居心地が悪そうに座っている。
姉からの情報では依頼主の女性の母親は昭和の有名女優で、プライベートな事については芸能界では触れない約束事になっていたが、引退するとシングルマザーで女優業を続けながら一人娘を育てたと一時期世間を騒がせた事があったらしい。
吉川弓枝はこの桜の押し花が、誰から母にプレゼントされたか知りたがっていた。現在、証拠となりそうな物はこれしか残ってないと言われた。
「これですか?」
洋介は再度そう聞き返した。桜の押し花は、かなり色褪せて形も崩れている。
「幼い頃、毎年のように贈られたと思うのですが、母はそれを宝物のようにしていて、決して誰からのプレゼントかは教えてくれなかった」
吉川弓枝は桜の押し花を洋介に渡すと、母親との思い出を語りながら嘆いた。
「母の昔のことは何も知らないのです。子どもながら、母が好きだった人からのプレゼントじゃないかって思ってました。だから、私その恋をなんとしても知りたいのです」
「もしかしたら、お父さまからだと思っているのですね?」
「はい。母はシングルマザーで、恋も結婚にも興味を示さず仕事一筋で人生を終えました。それを間近で見ていた私は男性不信になり、恋の運気を逃している気がしてます」
頑なに過去を秘密にされ、負の思考に陥り父に捨てられたと思ったのか?洋介はこの桜の押し花に秘密が隠されているのなら、それを解き明かして追い風の気運になればと願った。
「手がかりはそれしか無いのです。過去の痕跡を消すように母は死ぬ前に手紙や写真など全部処分したみたいで」
小さな飾り箱の中にべっ甲の櫛とかんざしとこの本があり、ページに挟まれた桜の押し花を見つけて吉川弓枝は微かな希望を感じた。
「やってみますが、押し花は初めてです」
洋介は道具箱をテーブルの上に置いて、用意してもらったガラスのコップにミネラルウオーターを注いだ。
そして慎重に押し花のビニールシートをゆっくりと剥がし、崩れかかった桜の押し花を一欠片残さず全部コップの水の中に入れる。
道具箱の硝子容器を二つ選び、白とピンクの粉を銀のスプーンでひと匙ずつコップに入れていく。その粉が水の中でジュワッと泡立ち、桜の押し花にも泡が付着した。
暫しそれを観察してから慎重にガラス棒でかき混ぜ、その水をゆっくりと口に含んで心の中で呟く。
『花は想いを感じ、その恋は水に溶ける』
しかし、いつもの澄み切った感覚には程遠く、ザラザラとした違和感が舌の上に残り、桜の押し花が話す事を拒否していると感じた。
苦々しい水を喉に流し込んではみたものの、花の精霊の声が聴こえる筈がない。寧ろ、拒絶しているのではないかと思って閉じた目を開けた。
「まるで蕾のように口を噤んでいる。結界のように秘密を封印した押し花……」
「えっ?」
「あっ、すいません。お母様は有名な女優で、 シングルマザーで一人娘を育てた事も秘密になっていたと聞きました」
「その通りです。母は女優としてプライベートを公表する事を嫌ってました。マスコミに騒がれて、私に迷惑をかけたくなかったのでしょう」
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