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報酬とダメージ
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その四日後、紹介してくれた姉に依頼主から「桜の押し花」の占い料金が渡された。しかも、年配の男性とわざわざ花屋まで礼を言いに来たらしい。
「とても喜んでたわよ。降りて来ればよかったのに」
「ずっと寝込んでたんだ。今回の依頼はかなりハードだったから、忘却しないと心が壊れる」
「そうだね。君ってほんと不思議」
姉はそう言って人差し指を突き出して冷蔵庫からジュースを出して飲んでいる洋介のおでこを突いた。子供の頃から、洋介が何かをやり遂げるとご褒美のようにする仕草であるが、あまり褒められてる気はしない。
「近いからいつでも遊びに来て下さいと言ってたわよ。洋介の力が役に立って良かった。お姉さんも鼻高々だわ」
洋介は大学生の頃から占いでバイト代を稼いでいたが、今回のようなシビアな依頼を受けるのは初めてだった。しかしこの案件より洋介は危険な事件に巻き込まれ、更なる難問に挑む事になるのだがそれはまだ知る筈もない。
「じゃ、これ。多過ぎるって言ったんだけど金持ちは違うわね。きっと洋介のこと気に入ったんだと思う」
「いや、単に能力と結果の報酬だと思うけど」
姉がエプロンのポケットに入れていた封筒を出して、三万円抜き取ってから笑顔で洋介に渡した。けっこうな厚みが有り、二十万円も依頼主は払ったのかと驚いた。
「今月の食事代とマネージメント代貰うね。これで立派な現代の水の錬金術師の誕生だ」
「マネージメント?」
「そうよ。私は洋介の姉であり母親代わりだからね。貴方が変な事に巻き込まれず、ハッピーに生きていけるように見守っているんだ」
「もう、いい大人なんだけど。それに手紙も見ただろ?」
「もちろんよ。ラブレターみたいだった。吉川さん、綺麗だったでしょ?年上ってどう?洋介の好きなタイプってどんな女性なの?前の彼女とは別れたんでしょ?」
姉は洋介の顔を覗き込んで質問し、あまりに近いので両手で押し返した。
「僕は仕事に恋愛は持ち込まない主義でね。それに姉とはいえ、プライバシーの侵害は許されないと思うぜ」
「ふーん。ずいぶん生意気なこと言うようになったんだ?」
姉は洋介の髪を手で掻き回してボサボサにしてから、「髪切りなさい」と言って立ち去った。振り向き様に二度目の警告なので、許さないわよって感じで中指を突き立てて睨み付ける。
『いや、それは妄想か……』
まだ少し現実と空想が心の中で渦巻いているようだ。洋介は苦笑いして姉の後ろ姿を見送ると、キッチンを出て二階の部屋に上がった。
窓側にある机の上に封筒からお金を出してトランプのように少し重ねて並べ、一枚の手紙を取り出して読み始めた。部屋にはベッドと本棚とハンガーラックがあるだけだが洋介にとっては心をリセットする癒しの空間である。
『水樹洋介様。誠にありがとうございました。洋介さんが言ったように、毎年桜の季節になると来てくれてた庭師が私の父でした。気付かなかった私が鈍感だと、笑ってください。
京都の料理屋で会食をし、父と母が学生の頃に出逢ってから現在に至るまで、涙と笑顔を浮かべながら包み隠さず全部私に話してくれました。
洋介さんが言ったように、桜の押し花の封印が解けたのが秘密の終わりであり、父と私の始まりになりました。母は亡くなりましたが、二つの心から一つになった気がします。これも不二桜の押し花の想いだったのかも知れませんね。
つきましてはお話もしたいので、お茶でもいかがでしょう。いつでも訪ねて来てください。吉川弓枝より』
洋介はそれを読むと、ふと桜の押し花の栞が封筒の奥に入っているのに気づいた。それを手のひらに乗せて見つめていると、瞳が涙で濡れて押し花の上にしとしとと雨が降り、次第に心は晴れ渡り、心がクリアになってゆくのを感じた。
『雨に濡れるは我が想いなり、か……』
[第一話、桜の押し花。完了]
「とても喜んでたわよ。降りて来ればよかったのに」
「ずっと寝込んでたんだ。今回の依頼はかなりハードだったから、忘却しないと心が壊れる」
「そうだね。君ってほんと不思議」
姉はそう言って人差し指を突き出して冷蔵庫からジュースを出して飲んでいる洋介のおでこを突いた。子供の頃から、洋介が何かをやり遂げるとご褒美のようにする仕草であるが、あまり褒められてる気はしない。
「近いからいつでも遊びに来て下さいと言ってたわよ。洋介の力が役に立って良かった。お姉さんも鼻高々だわ」
洋介は大学生の頃から占いでバイト代を稼いでいたが、今回のようなシビアな依頼を受けるのは初めてだった。しかしこの案件より洋介は危険な事件に巻き込まれ、更なる難問に挑む事になるのだがそれはまだ知る筈もない。
「じゃ、これ。多過ぎるって言ったんだけど金持ちは違うわね。きっと洋介のこと気に入ったんだと思う」
「いや、単に能力と結果の報酬だと思うけど」
姉がエプロンのポケットに入れていた封筒を出して、三万円抜き取ってから笑顔で洋介に渡した。けっこうな厚みが有り、二十万円も依頼主は払ったのかと驚いた。
「今月の食事代とマネージメント代貰うね。これで立派な現代の水の錬金術師の誕生だ」
「マネージメント?」
「そうよ。私は洋介の姉であり母親代わりだからね。貴方が変な事に巻き込まれず、ハッピーに生きていけるように見守っているんだ」
「もう、いい大人なんだけど。それに手紙も見ただろ?」
「もちろんよ。ラブレターみたいだった。吉川さん、綺麗だったでしょ?年上ってどう?洋介の好きなタイプってどんな女性なの?前の彼女とは別れたんでしょ?」
姉は洋介の顔を覗き込んで質問し、あまりに近いので両手で押し返した。
「僕は仕事に恋愛は持ち込まない主義でね。それに姉とはいえ、プライバシーの侵害は許されないと思うぜ」
「ふーん。ずいぶん生意気なこと言うようになったんだ?」
姉は洋介の髪を手で掻き回してボサボサにしてから、「髪切りなさい」と言って立ち去った。振り向き様に二度目の警告なので、許さないわよって感じで中指を突き立てて睨み付ける。
『いや、それは妄想か……』
まだ少し現実と空想が心の中で渦巻いているようだ。洋介は苦笑いして姉の後ろ姿を見送ると、キッチンを出て二階の部屋に上がった。
窓側にある机の上に封筒からお金を出してトランプのように少し重ねて並べ、一枚の手紙を取り出して読み始めた。部屋にはベッドと本棚とハンガーラックがあるだけだが洋介にとっては心をリセットする癒しの空間である。
『水樹洋介様。誠にありがとうございました。洋介さんが言ったように、毎年桜の季節になると来てくれてた庭師が私の父でした。気付かなかった私が鈍感だと、笑ってください。
京都の料理屋で会食をし、父と母が学生の頃に出逢ってから現在に至るまで、涙と笑顔を浮かべながら包み隠さず全部私に話してくれました。
洋介さんが言ったように、桜の押し花の封印が解けたのが秘密の終わりであり、父と私の始まりになりました。母は亡くなりましたが、二つの心から一つになった気がします。これも不二桜の押し花の想いだったのかも知れませんね。
つきましてはお話もしたいので、お茶でもいかがでしょう。いつでも訪ねて来てください。吉川弓枝より』
洋介はそれを読むと、ふと桜の押し花の栞が封筒の奥に入っているのに気づいた。それを手のひらに乗せて見つめていると、瞳が涙で濡れて押し花の上にしとしとと雨が降り、次第に心は晴れ渡り、心がクリアになってゆくのを感じた。
『雨に濡れるは我が想いなり、か……』
[第一話、桜の押し花。完了]
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