「水に溶ける恋」花と読み解く物語

田丸哲二

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事件簿その二・マドンナリリーの純潔

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 ジャムとジュースの空瓶、ピクルスのガラス容器にガーベラやライラック、ハーブやリキュウソウなどの草花が飾られた花屋の玄関前のウッドデッキ。その側面のガラスウインドー奥のスペースがパーティションで区切られ、白いテーブルと椅子がセッティングされた。

「このテラスが受付か?」

「うん。いい感じでしょ」

 姪の優花が作ったネームプレート【水の錬金術師・水樹洋介】がテーブルの上に置かれて、料金表も明記されたチラシが壁の掲示板に貼られている。桜の押し花の案件から、水の錬金術師による花にまつわる相談や人探しの占い探偵事務所がオープンした。

 優花は転校生宅の薔薇のデモンストレーションと桜の押し花の依頼を解決した事を知り、すっかり洋介の能力の信奉しんぽう者になった。

「私を弟子にしてください。オジニイ、お願いします」

 叔父さんからオジニイと呼ぶようになり、多少は格上げされたが弟子は取ってないので断っている。

「いや、教えられる能力じゃないんだ。それに水と花の世界は煩わしいもんなんだぜ」

 洋介は椅子に座ってテーブルに肘を付き、顎を突き出して冗談っぽく言ったが、それは本心であり、この数日間、店番をしていると花の囁き声が聴こえて悩まされた。

「カ、カッコつけてる……」

 優花は洋介の態度に少し引いたが、どんな修業にも耐えてみせると「鬼滅の刃」に影響されて滝修行や呼吸法なんてどう?と提案している。

「優花。無理言わないの。遊びじゃないし、洋介は特別なのよ」

 姉の由香里がそう言って優花を追い払い、椅子に座った洋介の首にタオルとビニールシートを巻いて霧吹きで水を髪にかけ、エプロンからハサミを取り出して伸びた髪をカットし始めた。

 その翌日から仕事が舞い込んできたが、斬新な切り込みを髪の両サイドに入れられた洋介はキャップをして公園で迷子になった猫を探していた。

「センシティブな状態だと花の声が聴こえるんだ……」

 洋介のその嘆きを聞き、優花が「それなら花を水に溶かさなくても聴こえるのね?」とペット探しの項目を料金表に書き込んだのである。

「仕事の幅を広げるのは良いことだわ」

 商売上手な姉も賛成して、下記のチラシが作られて花屋の店内の棚にも置いてある。


【占い探偵事務所】

・迷子になった猫や犬の捜索。(二千五百円)
・花と水による恋占い。(20分三千円より)
・水の錬金術師への特別な依頼。(五万円からとなりますのでご相談ください。)

 可愛い猫の写真を手にして、公園の花壇の花に何度か話しかけ、付近の子供連れの奥様が怪しい人物を見るように遠巻きにしていたが、洋介は遊具のトンネルの中に隠れていた猫を捕獲した。

『ニャーゴ、ニャ~ン……』(二千五百円なり)と耳鳴りのように猫が鳴いている気がして、洋介は自由を満喫した猫を胸に抱いて公園の花と一緒に微笑んだ。
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