「水に溶ける恋」花と読み解く物語

田丸哲二

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踏みにじられた心

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 接客の手伝いを終えた優花はリビングへ入ると、ソファに座ってスマホのLINEに書き込まれたコメントと写真を見直した。

[ごめん、優花。もうムリ。ユキヤくんのイジメは止められないよ。]

 親友の奈々子からで、幸哉くんをイジメる側になった事のお知らせだった。もちろん本人は傍観者で罪はないと思っているけど、優花にはそれも許せなかった。

「みんな最低だよ。私は一人でも戦うからね」

 写真は休日に幸哉くんが母親と一緒に街で買い物しているショットで、キャップをしてメガネを掛けていたが女装していると偶然見かけたクラスの生徒にバレた。

 そして証拠写真がLINEで拡散し、幸哉くんはイジメの対象になってクラスの生徒だけでなく部活動でも無視されている。もちろん優花は味方をして守ろうとしたが、これで完全に孤立してしまった。

『守ってやりなさい。友だちとして』

 優花は洋介に薔薇の花で占ってもらった時から、その言葉を使命として転校生の幸哉くんと仲良くなる努力をした。クラスの友だちを紹介し、LINEに登録すると自分から心を開いて親密な会話をした。

[母が離婚して、こっちで花屋を始めたんだよ。今は元気だけど、あの頃は泣いてばっかだった。]

[僕の両親も仲悪くて、父が帰って来るのは週末くらい。母は僕を女の子のように可愛がり、父親から遠ざけている。]


 そしてある日、突然クラスでイジメが始まった。幸哉くんは男子トイレ禁止になり、パンツの中に濡れた砂を入れられ、教室を逃げ出した幸哉くんを追いかけた優花は女装について意見をした。

「お母さんの言いなりじゃなくて、もっとユキヤくんの好きでいいと思うけど?」

「僕が好きでやってることなんだ。何も知らないくせに、母を悪く言うんじゃない」

 下駄箱で靴を履き替えた幸哉くんが背中を向けてそう言い、肩を震わせて泣きながら玄関を出て行くのを優花は茫然と見送るしかなかった。

 現在、LINEは外され、「ごめんなさい」という優花のコメントだけが既読になって残っている。

 でも、優花は諦めてなかった。ファンタジーの世界ではもっと凄い危機が何度も主人公に訪れるからね。

 孤立してイジメられても構わない。自分の想いがクラスのみんなと幸哉くんに伝わるまで、最終章を信じて頑張ってみせる。

『太陽に向かって咲く花だって、踏みにじられる。それを冷静に見つめるのが水の錬金術だ』

 師匠、それが自然の世界ってもんですよね?

 優花は洋介の弟子になってから、そんな印象深い言葉を頂戴している。それは母と自分が合言葉にしていたライフスタイルがあるからだ。

「向日葵みたいに、太陽に向かって生きよう」

 ニ年前に離婚した母は、小さな花屋とマイホームを手に入れ、「これからは向日葵のように笑って暮らそう」と一人娘に宣言し、優花も一緒に心に誓ったのである。

 離婚の原因は洋介が占うまでもなく夫の浮気で、一時期、家族は悲しみに濡れて喘いでいたが、母は優花を新天地に導いて笑顔を取り戻し、家族の絆と強い心を育んだのである。
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