「水に溶ける恋」花と読み解く物語

田丸哲二

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祝福は厳かに

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 その日の夕食、姉は奮発して高級な葉山牛のすき焼きを作り、洋介の健闘と優花の頑張りを祝福した。しかし、何故か優花は学校から帰って来てから部屋に閉じこもり、今もスマホを見てはため息を漏らしている。

「幸哉が学校に来て、師匠に礼を言ってたよ」とリビングで洋介に報告したが、それっきり会話が弾まない。

 いつもの優花スマイルは何処いずこへとキッチンへ行き、飲み物の用意を手伝いながら姉に聞く。

「どう言うことだ?」

「それが、幸哉くん。男の子として目覚め始めたらしいんだけど、奈々子ちゃんに興味があるらしいのよ」

「なるほど。友だちとしては深まり、恋人としては遠ざかる」

「でも、すぐに元気になるわよ。だって、私の子だものね」

「その強さが仇になったか?」

「どう言う意味よ?洋介」

 冷蔵庫からビールを出した洋介のおでこを姉が指で突いて微笑み、幼い頃、歳の離れた姉が母代わりになって守ってくた事を思い出した。

『母は僕を産んだから、死んだんだね?』

 小学校の入学式で他の生徒の母親達が囁き合うのを聞き、幼い洋介は雨の降るグランドに飛び出してびしょ濡れになって泣いた。

 傘を投げ捨てて歩み寄った姉は水溜りに跪《ひざまず》き、洋介を背中から抱きしめて一言だけ耳元で囁いた。

「おい。私じゃ、不満だって言うのか?」



[第三話、紫陽花の悲しみ。完了]
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