「水に溶ける恋」花と読み解く物語

田丸哲二

文字の大きさ
27 / 43

事件簿その四・ラベンダーの香水

しおりを挟む
 その女性は散歩中にお洒落な花屋を見つけ、風の流れに背中を押されてドアを開け、森の番人のような女店主を横目でみながら、ラベンダーの香りに誘われて棚の上のチラシを手に取った。

「水の錬金術師?」

「ええ、そちらのテラス席で依頼を承っております。興味がお有りなら呼びましょうか?」

「相談だけでもいいのでしょうか?水の錬金術師の探偵なんて、意味不明ですし」

「もちろんです。占うかどうかは後で決めてください。最初は皆さん、からかい半分なんですよ」

「それならお願いします」

 女性は花を買う事よりも「花にまつわる相談や人探しの依頼、承ります」というチラシのコピーが目に入り、もしかして私が悩みを抱えていたから自然と導かれたのかしら?と、思った。

 由香里は棚のラベンダーの鉢植えから紫の花を一輪抜き取り、女性をテラス席に案内してテーブルの上の硝子花瓶に花を挿した。

「いい香りですね?」

「ええ、お客様もラベンダーの香りがする。もしかして、香水ですか?」

 由香里がそう聞いたが、女性は微笑みを浮かべただけで答えず。「少々お待ちください」と言って洋介を呼びに行く。


 洋介は二階の部屋で道具箱から硝子容器を取り出し、机の上で慎重に天秤で計測した着色済みの重曹とクエン酸を混合し、それぞれの色の容器に粉を補充をしていた。

 最近大きな仕事の依頼はないが、女学生の恋占いが定期的に入るようになり、粉が減っていたのである。

 そして姉の呼び声が聴こえたので、道具箱を持って階段を降りて行くと、キッチンでコーヒーの用意をしていた姉が丁寧な口調で洋介に告げた。

「ハーブの女王さまのご来店でございます」

「はっ?」

「ふっふ、事件の香りがする。テラス席で待たせてるから。お願いね」

「わ、わかった」

 洋介が慌ててテラス席へ向かい、先に席に着いていた女性に挨拶をして席に座ると、コーヒーを持って来た姉がテーブルの上を見て微笑みかけた。

 女性がバッグから香水の小瓶を取り出し、さっき問われた答えのようにラベンダーの花が飾られた硝子花瓶の横に置いたのである。

「香水?」

「ええ、今日はつけてなかったのですが、いつも持ち歩いてます」

「まさか、それで占うのですか?」

 水の錬金術師がそう呟くのを女性は憂いのある眼差しで見つめ、姉は壁側の丸椅子に腰掛けてコーヒータイムにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

あなたへの愛を捨てた日

柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。 しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。 レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。 「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」 エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...