28 / 43
ハーブの女王
しおりを挟む
依頼者の名前は山崎知子、34歳。レトロ感のある淡いブルー地に白い花柄のワンピースを着て、大人っぽい落ち着いた雰囲気も有りながら、少女の輝きを失ってない可憐な美しさを漂わせていた。
姉が「ハーブの女王」と呼んだのも時を内包して、ラベンダー畑から未来に想いを馳せて駆け付けた感じがしたのだろう。
『時を越えて花屋に迷い込んだ?』
洋介はテーブルの上のラベンダーの花を見てから、質問を始めた山崎知子に微笑みかけた。
「水の錬金術師とは花を水に溶かして、その想いを読み解くのですね?占い師であり、探偵でもある?」
「ええ、花が見た風景と感じた事を映像化して蘇らせます。ですが、香水では無理ですよ。アルコールと香料を混ぜて作った物が香水ですからね。香りを追いかける程、鼻は利かない」
花と鼻で「シャレたの?」と姉が後ろでコーヒーを飲みながら笑いを堪えている。それにつられて山崎知子もリラックスしたのか、率直に相談事を投げかけた。
「実はこんな歳になったのに結婚を迷っているのです。学生の頃、遠距離恋愛で北海道に住む同じ歳の高校生と付き合い、卒業して東京で再会し、愛を語り合っていたのに、突然彼が別れを告げて消え去った」
山崎知子はその昔の彼の事が今も心に深く残り、現在付き合っている恋人にプロポーズされたが踏み出せないと告白した。
ラベンダーの香水は彼が最後に彼女にプレゼントした魔法の香りだった。知子は無くなると同じブランドの香水を購入し、それをバッグに常時忍ばせ、時折肌に付けてその香りに抱き締められた。
「なるほど、過去と香水。難問の連続ですね」
洋介はテーブルの上のラベンダーの香水を手に取り、客の了解を得てから蓋を開け、甘いフローラルと爽やかなハーブの香りを鼻腔に吸い込んで目を閉じた。
しかし心に引っかかる想いが有る筈が無い。単に癒された気分になっただけで、諦めて過去に囚われる嘆きを呟くと、テーブルの上のラベンダーの花が反応してアドバイスをしてくれた。
『時は感じた瞬間に過去になる?』
『そう……花は陽射しを感じるだけ。過去も未来も今を起点にすべきよ』
室内の棚に置かれたラベンダーの鉢植は、紫の花を咲かせた時からこの女性が現れる事を知っていたが、感じるべきは今の光りだと言った。
『月か太陽か?答えはそこから』
洋介はその囁きでゆっくりと目を開け、山崎知子をしっかりと見つめて提案した。幻聴かもしれないが、ハーブの香りで洗練された想いが浮かんだ気がする。
「過去の彼ではなく、現在の恋人についてなら占いますよ。もしその気があれば、彼が好きな花を持って再来してください」
姉が「ハーブの女王」と呼んだのも時を内包して、ラベンダー畑から未来に想いを馳せて駆け付けた感じがしたのだろう。
『時を越えて花屋に迷い込んだ?』
洋介はテーブルの上のラベンダーの花を見てから、質問を始めた山崎知子に微笑みかけた。
「水の錬金術師とは花を水に溶かして、その想いを読み解くのですね?占い師であり、探偵でもある?」
「ええ、花が見た風景と感じた事を映像化して蘇らせます。ですが、香水では無理ですよ。アルコールと香料を混ぜて作った物が香水ですからね。香りを追いかける程、鼻は利かない」
花と鼻で「シャレたの?」と姉が後ろでコーヒーを飲みながら笑いを堪えている。それにつられて山崎知子もリラックスしたのか、率直に相談事を投げかけた。
「実はこんな歳になったのに結婚を迷っているのです。学生の頃、遠距離恋愛で北海道に住む同じ歳の高校生と付き合い、卒業して東京で再会し、愛を語り合っていたのに、突然彼が別れを告げて消え去った」
山崎知子はその昔の彼の事が今も心に深く残り、現在付き合っている恋人にプロポーズされたが踏み出せないと告白した。
ラベンダーの香水は彼が最後に彼女にプレゼントした魔法の香りだった。知子は無くなると同じブランドの香水を購入し、それをバッグに常時忍ばせ、時折肌に付けてその香りに抱き締められた。
「なるほど、過去と香水。難問の連続ですね」
洋介はテーブルの上のラベンダーの香水を手に取り、客の了解を得てから蓋を開け、甘いフローラルと爽やかなハーブの香りを鼻腔に吸い込んで目を閉じた。
しかし心に引っかかる想いが有る筈が無い。単に癒された気分になっただけで、諦めて過去に囚われる嘆きを呟くと、テーブルの上のラベンダーの花が反応してアドバイスをしてくれた。
『時は感じた瞬間に過去になる?』
『そう……花は陽射しを感じるだけ。過去も未来も今を起点にすべきよ』
室内の棚に置かれたラベンダーの鉢植は、紫の花を咲かせた時からこの女性が現れる事を知っていたが、感じるべきは今の光りだと言った。
『月か太陽か?答えはそこから』
洋介はその囁きでゆっくりと目を開け、山崎知子をしっかりと見つめて提案した。幻聴かもしれないが、ハーブの香りで洗練された想いが浮かんだ気がする。
「過去の彼ではなく、現在の恋人についてなら占いますよ。もしその気があれば、彼が好きな花を持って再来してください」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
あなたへの愛を捨てた日
柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。
しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。
レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。
「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」
エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる