「水に溶ける恋」花と読み解く物語

田丸哲二

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花言葉より団子

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 山崎知子は少し考えてみますと言って去り、店先まで見送った姉がテラス席に戻って空いた席に着くと、少し興奮した様子で洋介と話し始めた。

「また来ると思う?」

「かなりの確率で現れるだろうな。姉貴もそう感じただろ?」

 洋介は道具箱の出番はなかったが、中身が見えるようにラベンダーの硝子花瓶の横に置き、残ったカップのコーヒーを味わうように香りを吸い込んで姉の返答を待つ。

「ラベンダーの花言葉は沈黙。ハーブの女王はそれに答えてくださいと、水の錬金術師に依頼しに来るわね。思い過ごしかも知れないけど、テーブルの花がそう言ってる気がする」

「いや、姉の考えはこのラベンダーもお見通しだ。さっき紫の花でフレーバーコーヒーにしたからね……」

 それは嘘だったが、洋介は口に含んだコーヒーを心に流し込み、花の想いを読み取るように目を閉じてからゆっくりと姉を見つめた。

「次回彼女が来店すれば、久しぶりに大金が入るわ。寿司かステーキ、美味しいケーキも食べたいわね。って考えてるだろ?」

 そう占うと姉は暫し洋介を睨んでいたが、すぐに吹き出して笑い。洋介の頬を両手で挟み込んで揉みくちゃにした。

『まったく、洋介の奴め』

 その日の夕食、被害に遭ったのは洋介だけでなく、優花も弟子として同罪とみなされご飯のおかずは相模湾で獲れたイワシが一匹とぬか漬けの胡瓜に豆腐の味噌汁という質素な団欒となった。

「な、なんかあったの?」

「いや、冗談が過ぎたらしい」

「ふーん、でもお母さん。今回の依頼、楽しみにしてるみたいだよ。バツイチだから、結婚の選択がどうなるか気になってるみたい」

 キッチンから追加の料理を持って来た姉がテーブルに皿を置いて、優花と洋介の会話に参加した。玉子焼きと大根おろしであるが、それをみて洋介が姉の真意を感じた。

「あの頃のご馳走か?」

「そうよ。お母さん直伝のだし巻き卵、洋介の大好物だったよね」

「ふーん、師匠のお母さんって病気で亡くなったんでしょ?」

「ああ、だから姉の味とも言えるね」

「父は再婚だったのよ。武闘派の父に繊細で綺麗なお母さん。血は繋がってなかったけど、身に染み入るような愛を感じた。私が花屋を目指すきっかけを作ってくれたのも母だったし、料理も生け花も全部教えてもらったからね」

 洋介が姉の想い出話を聞きながら、飛魚の出汁で作った玉子焼きを味わって微笑んでいる。それを見て優花も箸を伸ばして頷いた。

「めちゃ美味しいじゃん。お母さん、今度私にも作り方教えてよ。母は洋介のお母さんが師匠だったってことだね」

「いいわよ。そして洋介はハーブの女王が再来したら、水の錬金術師として最高の働きをしてあげなさい。だって、貴方の言葉で彼女の結婚という道が決まるかもしれないわ」


「凄いプレッシャーだな。でも、僕は花が見た想いを伝えるだけだよ。選択するのは依頼者であり、川の流れが上に向かうわけじゃないからね。未来で間違いと思うのもその人次第さ」

「でも、知ってるわよ。君が後でテーブルのラベンダーの花をコップの水に入れたのを目撃したからね」

「実は姉が言ったラベンダーの花言葉が気になった。昔の恋人が突然消え、沈黙が彼女を恋の迷い子にしたんだからね」

「それで何かわかった?ハーブの女王は幸せになれそう」

 優花がそう質問して、姉も玉子焼きの出来栄えを確認しながら洋介を見つめ、味は変わってないと母の笑顔を思い出した。

「一言だけ、彼女は何も知らない。つまり、沈黙の香りに包まれている」

「そりゃまた、意味深な答えだね~」

 優花がそう言って嘆くと、姉は玉子焼きを自慢するように食べ物の話題を繰り返した。それはある意味、洋介の冗談への嫌味を込めていたが名言であった。

「やっぱり、花言葉より団子だわね。美味しい料理は香りと映像まで思い出す。沈黙じゃなくて雄弁だよ」

 その言葉で、洋介は幼い頃に姉が家族が暗くならないように明るく振る舞い、母がいない食卓に美味しい料理を並べていたシーンを思い浮かべた。

「頑健な父だったけど、僕には寂しそうなイメージしかない。でも、玉子焼きが家族を幸せにしてくれたな」

 そしてその夜、洋介が姉に敬意を表して最善を尽くす事を誓い。四日後の午後に、ハーブの女王が花束を持って正式に依頼をしに現れたのである。
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