血と肉とあばら骨のキーボード

田丸哲二

文字の大きさ
16 / 35
第四現象・皮膚に刻まれた血の呪い

3

しおりを挟む
 地下の資料室に置いてあった四角い物は事務員の本条順子が立会人となり、宇佐美と大塚が手袋をして慎重に一階の教室に運ばれた。


「あの二人に任せて大丈夫なのか?」

 グレーのワンボックスカーの運転席でハンドルを握る安堂刑事か助手席に座った圭介に聞いたが、後部席で子猫を抱いた美加が代わって答えた。

「オカルト・オタクのウサポンとポンタだよ。アイツら、あれは血と肉とあばら骨のキーボードだって言ってるぜ」

 美加がスマホのLINEに書き込まれたコメントを見て、絶妙なネーミングセンスに眉間に皺を寄せて笑ったが、圭介と安堂刑事は胸を詰まらせたように咳き込み、青ざめた表情で助骨の使い道が判明した事を理解した。

「これで……全てのパズルが揃ったな」

「ええ、ですが……完成図は見えてない。病院へ行けば何か分かると思いますけどね」

「やっぱ、呪いなんだろ?」

 美加が後部席から子猫を抱き上げて、圭介と安堂刑事に向けて手で引っ掻く仕草をさせている。

「実はお前に言われて、本条家の事を調べた。過去に家紋を争って霊媒師同士の戦いがあったそうだ。それに本条道成の事故死を調べてみたが、不審な点がある」

 三年前、本条家の当主道成は愛人とドライブ中に事故に遭って死んだ。七十八歳であったが自らベンツを運転して、若い女性と温泉旅館へ行く途中、運送トラックと激突して即死だった。

「衝突したトラックの運転手の直前の映像を手に入れたんだが……」

「痣ですか?」

「ああ、後で見せるわ」

「もう、安堂さんも歌姫のメンバーだからな。私らにも見せろよな」

「わかったよ。圭介の彼女はキツいな」

「いや、彼女じゃないすよ」

「そこは、嘘でも彼女って言えよ。圭介」

 パソコンスクールでは、事務員の本条順子が通路を歩きながオーナーに連絡し、安堂刑事から言われた事を伝えた。

「順子です。今、変な物が資料室で見つかりまして、警察に授業を中止にするように要請されました。ええ、病院に見舞いに行っていると伝えてありますので、そちらでお話しください」

 安堂刑事は警察署に連絡し、鑑識をパソコンスクールへ向かわせる手筈を進めていた。スクールのオーナーには休講にして、教室は警察で使わせて貰うつもりだ。


 そして順子は宇佐美と大塚が教室で『血と肉とあばら骨のキーボード』と名付けた物を調べているのを覗いてから、誰もいない事務室へ入って微笑みながらデスクに着いた。

 順子は刑事達が去った後、『血』『肉』『骨』のキーワードをそれとなく発して、そう名付けるように誘い込んだ。

『それは恐怖への招待状でもあるからね』


「骨っぽいキーボタンに英数字が刻まれている」

「ここにUSBの接続端子があるぜ」

 宇佐美と大塚は最初は気味悪いと怖がっていたが、透明のアクリルケースの奥蓋を開けて内部を調べたり、外観の装置やキーボタンを触っているうちに好奇心が湧き上がり、オタク魂を発揮した。

「血が固まって、黒い瘡蓋になってるが、焦がして殺菌したんじゃね?」

「アルコール臭もするぜ」

「すげ~、肉の弾力で微妙なキータッチを作り出している」

「あばら骨が押されて、銅線のコイルに電流が流れるんじゃねーか?」

「細い骨もいっぱいあんな~。これ、猫とか犬の骨かもよ?」

「と、とにかくモニターとパソコンに繋いでみようぜ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...