血と肉とあばら骨のキーボード

田丸哲二

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第六現象・数字のナイフ

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 左腕の四角い傷線は胸と首元辺りまで広がり、更に体一面の皮膚に増殖するという恐怖の感染を想像させた。

 圭介はその四角いセルの連なる赤い傷線を冷静に観察し、鈴子の左手首に触れて脈をとるように血の流れを感じた。

『血の中に、何を仕込んだ?』

 目を閉じて、呪われた者の血霊チダマを見つけて呪いを解く鍵を探す。

 呪力は血の重力とエネルギー作用を変質させ、幻影をリアル化させて自滅させる。

 抗体が自らを傷付け、アレルギー症状を起こすのと酷似しているが、これ程のパワーがある呪いが実在するとは圭介も想定外であった。

『数字のナイフ……』

 三浦鈴子=IF(痣が凶だったら、1の数字のナイフで切り刻まれて死ぬ。)

 圭介は血霊チダマの中に1の形状のナイフが回転する妄想シーンを映し出したが、それを止める方法は分からなかった。

 血霊チダマが弾けて、1のナイフが現出して血管と肉を切り刻み、更に分裂して増殖した血霊チダマが波となって押し寄せる。

 血肉の中に立って圭介がそれを眺めていると、自分を見つけて襲いかかって来た。


「安堂さん……スクールの生徒に数字について心当たりがないか聞いてみませんか?」

 目を開けた圭介が、三浦鈴子の手首から手を離し、現実の世界で呆然と立ち尽くす。

「わかった。すぐに手配する」

「俺は結界を張ってみますが、効果は期待できない。唯一の方法は呪った者に止めさせるしかない」

 血の盛り塩が病室の四隅に盛られ、圭介の血による結界が張られたが、数時間後、三浦鈴子は呪い殺された。

 ベッドの上で顔の皮膚まで四角い傷線のセルが増殖し、左腕は内出血で真っ赤に腫れ、首や頬の傷線も裂けて肉が覗き、場所によっては四角く皮膚が剥げ落ちて大量の血が流れている。


『呪い済み』とチャットに書き込みがあったが、圭介はまだ見ていない。

 眠りから目覚めた鈴子は痛みや苦しみよりも恐怖からショック死した。悲鳴を上げて顔を歪める前に、呆けたように血の涙を流して命を閉じた。


 その惨状を病室のドアを開けたまま、安堂刑事と圭介が立ち尽くして眺め、室内の白い壁側に椅子を置いて座っていた医師が力なく呟く。

「失血死と思われますが、現代医学では対処不能の傷が発生し、悪魔の仕業と言われても仕方がないと思ってますよ」

 しかしその言葉を否定する者が安堂刑事と圭介の背後から現れた。
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