ゴーストに恋して

田丸哲二

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第一章・幻の小説

スピリチュアルな波長

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 順也と久美子は体育館へ向かう逞しい文子の背中に手を振って見送り、肩を並べて連を追いかけて廊下を歩き出す。二人はメガネコンビの親友で、高校生になって付き合っているが公表はしてない。

 連は途中の水飲み場で立ち止まり、顔で水を浴びるように水をゴクゴクと飲んで少し気分を落ち着かせた。

 もともと変な性格だから、友だちに説明しても真面目に取り合ってくれなかったが、連はあのiPhone9を異常なくらい渇望していた。

『あれが必要なんだと、脳が言っている』


「連くん。もっとちゃんとしてればモテるのにね」

「ホント。男から見ても残念だよ」

「以前はもっとシャキッとして、文ちゃんよりリーダーシップあったでしょ」

「中学で追いつかれ、高校に入学して追い越され、ユニークさだけはトップを維持している」

 連はスポーツも得意でサッカー部とバスケ部に誘われたが、自由過ぎて先輩と揉めて帰宅部でまかり通している。しかも性格が自由奔放で、先生からも問題視されているが、その愛されキャラは昔も今も健在だった。

「ところで連の小説読んだ?」

「うん。悪くないと思うよ。でも賞はムリ」

「順くん。そんなこと言うと、連くん自殺するよ」

「騒ぐだけのな」

「文ちゃん、カスパフォーマンスっ言ってるよね」

 そんな会話が聴こえる距離ではなかったが、連はふと耳に手を当ててキョロキョロししてから、宙に何かが見えるみたいに突然走り出す。

 教員室で教材の整理をしていた国語教師・藤枝景子は疲れたように端の席に着き、お茶を飲んで一息ついていると、東野連がドア付近に現れた。

 連は少し落ち着きを取り戻し、服装の乱れを直して、深呼吸してから礼をして教員室へ入った。

「失礼します」

 明瞭な声で挨拶し、行進するように手を振り、真っ直ぐに景子先生の席へ向かう。

「また連が何かやったんですか?」

「ええ、いつものことですが」

 景子の隣の年配の教師が景子と話していると、それに割って入るように連が景子の前に立った。

「先生。一生のお願いであります。我が愛機、iPhone9を返してください」

 そう言って深々と頭を下げ、手を合わせて懇願する。

「東野連、得意の一生のお願いだな?」

「いや、今回はマジですから」

「それも何回も聞いている」

 周りの先生達も連を茶化し、教員室には何度も呼ばれているので、顔馴染みという感じで対応された。

「とにかく、別室で話しましょう」

 景子がそう言ってデスクの引き出しから連の携帯電話を出すと、連はそれを見て思わず手を伸ばしたが軽く叩かれて撃退される。

「こっちに来なさい」と、景子は席を立って歩き出し、連は離れて行く愛機を見て、ヨレヨレと手を伸ばしながら後ろからついて行く。
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