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第六章・ミレフレ vs. 禁断の書
魔王の幻想
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黒い蛾の集団に襲われて江国則子に変貌した香奈江は闇の中に意識を囚われ、ある絶大な力を持つ者に動かされる感覚だけがあった。必死に黒い泥沼の池から抜け出そうとするが、胸の辺りまで身体は沈み込み、泥に塗れて死ぬ恐怖で暗黒の支配者に抗う事を諦める。
『従えば楽になるぞ』
魔王は単なる黒いエネルギー体に過ぎず、人間の憎悪や欲望から造られた存在であり、暗黒の書物そのものが魔王の世界を具現化する力であった。
『鮮やかな世界をモノクロームに塗り潰せ。闇こそが平穏と調和である』
人間の魂の暗部が魔王を形成し、香奈江も闇の幻想に囚われて、子供の頃に本や映画で目にした悪魔を頭の中に創り出す。鴉の眼と蝙蝠の鼻に頬まで裂けた口。頭部に牛と羊の角が生え、全身は獣の毛と皮膚に覆われている。形状は人間で二足歩行であるが、黒い翼が背中にあり、筋肉と骨格は魔物の不自然な構造をし、王冠と剣のみが鮮血で赤く輝いて、それ以外は真っ黒な魔物の存在。
『お前に血の王冠を与えよう』
香奈江は黒い泥沼に沈み込み、波紋の広がる水面の黒い膜を突き破って、血の滴る赤い王冠を被って浮上し、黒い泥を無骨な体から流しながら魔王の分身となって登場した。
「ありがとうございます」
夢遊病者のように学園から江国則子の家に帰り、和室に入って仏壇のガラスの割れた写真を立てかけ直して手を合わせ、シャワーを浴びて髪が濡れたまま洗面台の前に立ち、赤い王冠を被っている自分の姿を鏡の中に見て呟く。
「貴方様に私の肉体を提供します」
この時、香奈江は魔王の仮の姿として働く事が自分の使命だと感じ、体と魂を捧げる密約を交わそうとしたが、頭の中に別のイメージが現れて声を掛けられた。
『あんた、江国先生じゃないだろ?』
「えっ、誰?」
『なんで王冠なんか被ってるんですか?』
その声は霊的なヘッドセットをして江国家の空間に現れた連であった。自分の部屋でフクロウのペンを使う練習をしていて、一瞬ではあるが、洗面台の前で体にバスタオルを巻いて赤い王冠を被った江国の後ろ姿を霊視し、コンタクトを試みたのである。
『あれっ、接続エラーか?』
香奈江がその声に驚いて振り向いたが、連の霊体は消えて声も聴こえなくなった。しかし疑問を投げかけられた事で、魔王に操られた魂が反応して意識が目覚め、鏡に映る姿が幻想だと疑う。
「違う。これは私ではないわ」
すると赤い王冠と魔物の形相は黒い泥になって流れ落ち、江国則子の顔が露わになるが、香奈江はそれも違うと両手で頬の肉を掴み、苦痛に顔を歪ませる。
「貴方でもない。私は湊香奈江だ」
必死に皮膚を剥ぎ取り、黒い蛾が手の中で暴れ、剥がした部分に真の姿が見え、数時間前に学園長室で江国則子が黒いマスクを被り、顔と体と服装までも自分と瓜二つに変貌したのを思い出した。
「う、嘘でしょ⁈」
あの時、声に出せなかった悲痛の叫びを上げ、襲いかかる黒い蛾を手で振り払い、もがき苦しみながら床に倒れて気絶したが、魔王の幻想からは逃れて元の姿に戻っている。
ヘッドセットをした連はチューニングを変え、さっき見た空間に再度コンタクトを試みるが二度と霊的な映像を映し出す事はできず、赤い王冠を被った者が誰か知り得なかった。
「何者だったんだろ?」
連はMOMOEとゴースト職人との通信を終えると、部屋の机に向かってフクロウのペンのアドバイスで初歩的な霊的交信の練習を始めた。クルミに「MOMOEを守る為に頑張って」と言われ、全力でフクロウのペンの操作に取り組んでいる。
『偶然にしても、才能ありです。暗黒の気配を感じ取りましたね?』
「しかし、どうやって変身してるの?」
フクロウのペンはフクロウに変身する事と、ゴースト職人との交信機能を利用してヘッドセットに変身する仕様があった。
『ボディを湾曲させただけですよ』
まんまるの目がマイクロホンになり、白い翼がスピーカーになって連の両耳に被さり、チューニングを頭の中でイメージして、瞑想する感じで意識を飛ばせば、霊体が霊界の磁力に引き寄せられると教えられた。
連はビギナーズラックなのか、数回のトライで暗黒のエネルギーが現出する江国家の室内へ接続されたが、その後は何度やっても上手くいかなかった。
『従えば楽になるぞ』
魔王は単なる黒いエネルギー体に過ぎず、人間の憎悪や欲望から造られた存在であり、暗黒の書物そのものが魔王の世界を具現化する力であった。
『鮮やかな世界をモノクロームに塗り潰せ。闇こそが平穏と調和である』
人間の魂の暗部が魔王を形成し、香奈江も闇の幻想に囚われて、子供の頃に本や映画で目にした悪魔を頭の中に創り出す。鴉の眼と蝙蝠の鼻に頬まで裂けた口。頭部に牛と羊の角が生え、全身は獣の毛と皮膚に覆われている。形状は人間で二足歩行であるが、黒い翼が背中にあり、筋肉と骨格は魔物の不自然な構造をし、王冠と剣のみが鮮血で赤く輝いて、それ以外は真っ黒な魔物の存在。
『お前に血の王冠を与えよう』
香奈江は黒い泥沼に沈み込み、波紋の広がる水面の黒い膜を突き破って、血の滴る赤い王冠を被って浮上し、黒い泥を無骨な体から流しながら魔王の分身となって登場した。
「ありがとうございます」
夢遊病者のように学園から江国則子の家に帰り、和室に入って仏壇のガラスの割れた写真を立てかけ直して手を合わせ、シャワーを浴びて髪が濡れたまま洗面台の前に立ち、赤い王冠を被っている自分の姿を鏡の中に見て呟く。
「貴方様に私の肉体を提供します」
この時、香奈江は魔王の仮の姿として働く事が自分の使命だと感じ、体と魂を捧げる密約を交わそうとしたが、頭の中に別のイメージが現れて声を掛けられた。
『あんた、江国先生じゃないだろ?』
「えっ、誰?」
『なんで王冠なんか被ってるんですか?』
その声は霊的なヘッドセットをして江国家の空間に現れた連であった。自分の部屋でフクロウのペンを使う練習をしていて、一瞬ではあるが、洗面台の前で体にバスタオルを巻いて赤い王冠を被った江国の後ろ姿を霊視し、コンタクトを試みたのである。
『あれっ、接続エラーか?』
香奈江がその声に驚いて振り向いたが、連の霊体は消えて声も聴こえなくなった。しかし疑問を投げかけられた事で、魔王に操られた魂が反応して意識が目覚め、鏡に映る姿が幻想だと疑う。
「違う。これは私ではないわ」
すると赤い王冠と魔物の形相は黒い泥になって流れ落ち、江国則子の顔が露わになるが、香奈江はそれも違うと両手で頬の肉を掴み、苦痛に顔を歪ませる。
「貴方でもない。私は湊香奈江だ」
必死に皮膚を剥ぎ取り、黒い蛾が手の中で暴れ、剥がした部分に真の姿が見え、数時間前に学園長室で江国則子が黒いマスクを被り、顔と体と服装までも自分と瓜二つに変貌したのを思い出した。
「う、嘘でしょ⁈」
あの時、声に出せなかった悲痛の叫びを上げ、襲いかかる黒い蛾を手で振り払い、もがき苦しみながら床に倒れて気絶したが、魔王の幻想からは逃れて元の姿に戻っている。
ヘッドセットをした連はチューニングを変え、さっき見た空間に再度コンタクトを試みるが二度と霊的な映像を映し出す事はできず、赤い王冠を被った者が誰か知り得なかった。
「何者だったんだろ?」
連はMOMOEとゴースト職人との通信を終えると、部屋の机に向かってフクロウのペンのアドバイスで初歩的な霊的交信の練習を始めた。クルミに「MOMOEを守る為に頑張って」と言われ、全力でフクロウのペンの操作に取り組んでいる。
『偶然にしても、才能ありです。暗黒の気配を感じ取りましたね?』
「しかし、どうやって変身してるの?」
フクロウのペンはフクロウに変身する事と、ゴースト職人との交信機能を利用してヘッドセットに変身する仕様があった。
『ボディを湾曲させただけですよ』
まんまるの目がマイクロホンになり、白い翼がスピーカーになって連の両耳に被さり、チューニングを頭の中でイメージして、瞑想する感じで意識を飛ばせば、霊体が霊界の磁力に引き寄せられると教えられた。
連はビギナーズラックなのか、数回のトライで暗黒のエネルギーが現出する江国家の室内へ接続されたが、その後は何度やっても上手くいかなかった。
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