ゴーストに恋して

田丸哲二

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第九章・ダーク司祭との戦い

MOMOEの決断

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 工房のゴースト職人は薄暗い室内で固唾を呑み、図書館での会話を聴いて司祭の企みに顔を顰めた。異次元プリンターからエネルギーを送らないとアイテムの使用は限られ、司祭との戦いは不利であった。

「図書館に蛾の群れ?」

 松田にも黒い蛾は見え、逃げ出そとしたが文子が傘を上段に構えて叩き落とすと、連が本棚の分厚い本を手に取って挟み込む。

「魔文字から生まれた蛾だ。本に戻れ」

 連のユニークな発想が意外と効果があり、久美子と順也、景子と松田も本を手にして応戦した。

 MOMOEはフクロウのペンを虫取り網に変え空中の黒い蛾を掬い取るが、司祭は更に蛾の群れを送り込み、久美子と順也の顔に蛾が纏わり付き鱗粉を振り撒く。

 松田と景子、文子までもが鱗粉を吸い込んで咳き込み、連だけは息を止めて本をカスタネットのように鳴らして追い払ったが、このままでは敗戦は濃厚だ。

「弱ったら、心臓を掴み取って魂を吸い込むぞ。MOMOEよ、どうする?」

 司祭は余裕で椅子に座り、祭服を開いたまま身を乗り出し、暗黒のエネルギーが満ちている事を見せつけた。

「人間を始末する前に、捕らえたゴーストを処刑して見せようか?」

 MOMOEは司祭を睨み、フクロウの虫取り網を持つ手を緩め、網の中の蛾の浮力で手から離れて司祭の方へ向かう。

「モモ……」とフクロウのペンに戻って振り返るが、司祭が立ち上がって宙を舞うフクロウのペンを捕まえ、「適正な判断だ」と告げて黒い蛾を祭服の中に回収する。

 MOMOEはテーブルに近寄って手引書を手に取り、「MOMOE……」と呼んで息を吸い込んで近寄る連を手で制し手引書を投げた。

 連はキャッチした手引書を厳重に全員のクリップで封じるが、文子と順也と久美子と景子先生がMOMOEが取り引きに応じる事に反対する。

「ダメだよ。MOMOEさん」
「そうだよ。僕らはまだ戦えます」
「気にせず、逃げてください」
「私たちが援護しますから」

 しかし殆どの者が鱗粉を吸って咳き込み、膝に手をついて弱りきっている。松田に至っては座り込んで動けなかった。

 騒ぎを聞き付けた図書員が階段を駆け上がり、何事かと遠巻きに人も集まり、司祭が眺め回して黒い蛾を襲うポーズをして脅かす。

 MOMOEは囚われたゴーストの身も心配し、涙目になって司祭に「私が身代わりなる」と告げた。

 図書員に「なんでもありません」と景子が対応し、本を整理して黒い蛾も消えた事で騒ぎは収まるが、ゴーストの攻防はこれからが本番だった。

 司祭が勝利を確信し、フクロウのペンを裏返したり逆さまにして調べ、黒縁の眼鏡を外してまん丸の目を覗き込む。

「暗黒のエネルギー源で使えそうだな。その前に、これを作ったゴーストの仲間を捕らえるか?」

「約束が違う……」

 MOMOEの声を無視して、司祭はフクロウの目のレンズに映る薄暗い工房を調べ、顔を近付けて微笑むクルミと目が合った。

『ハロー、ダーク司祭』

 その声が合図になり、ゴースト職人が全機器のスイッチを一斉に入れて電流が異次元プリンターに流れ、クルミの微笑みが明るくなった瞬間、まん丸の目から光の衝撃波が放射された。
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