ゴーストに恋して

田丸哲二

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最終章・MOMOEとの別れ

MOMOEが消えた

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「MOMOE!」

 連は両手と両膝を床に突き、ナイアガラの涙を頬に流して演台の崩れた床へ叫ぶが、司祭と共に消失した空間からMOMOEの返事は無く、書物の紙屑もさえも消えている。

 疲れ切った順也と久美子は肩で息をして座り込み、文子は周囲を眺めて深呼吸をしてから連に告げた。

「ゴーストが消えた」

 安堵と寂しさを込めて、順也と久美子も状況を伝える。

「フクロウのペンもだ」
「うん、魔文字も黒い蛾もいない」

 連はMOMOEが暗黒の世界から逃げ遅れたと思ったが、穴底の亀裂が狭まり本が復元された時、文子たちを支えていた四人のゴーストも一瞬で消え、最後尾の久美子の足に掴まっていたフクロウのペンも消え、ゴースト隊も空中潜水艦エアサブマリンも見えなくなった。

「僕らの霊力が無くなったのか?」

 連が涙を手で拭って立ち上がり、文子の横に立つと順也と久美子も集まって肩を叩き合って健闘を讃えた。

「どうかな?両方な気がするけど」
「つまり、元の世界に戻った?」

 連と文子と順也と久美子はステージから呆然と体育館の隅々まで見渡し、暗黒世界との戦いの名残なごり、それと共に戦ったゴーストへの想いを心にしたためる。

 壇上の演台は崩れて幕は剥がれ、窓ガラスはひび割れガラス片が散乱し、椅子や机は乱雑にコートに転がり、壁の時計と道具室の扉や出入り口のドアは傾き、壁や床を這っていた魔文字の痕跡は無く、黒い蛾は一匹も見当たらない。

「私だけじゃないのね?」

 景子が壇上に上がって連たちに歩み寄り、空中潜水艦エアサブマリンの陰でステージを見た時の、目が眩む程の衝撃的なシーンを興奮気味に話す。

「書物の亀裂から光が溢れて嵐が去ると、突然ゴーストが見えなくなった。一瞬の出来事だったけど、本の中で爆発が起こって助かったのね」

「じゃーMOMOEは?」

 項垂れていた連が顔を上げて、潤んだ瞳を輝かせて景子先生を見つめる。

「そうね。光と共にブラックホールから抜け出した可能性があるわ。MOMOEさんなら、それぐらいはやってのけたでしょ?」

「レン、希望がミレフレのテーマだったのを忘れたか?最後まで司祭を救おうとした勇気あるゴーストを信じようじゃないか」

 文子にそう言われた連が三度頷いて微笑み、順也と久美子はいつもの連に戻ったと喜んだが、壇上を降りて松田にスキップして近寄ったので嫌な予感がした。

 野上、松田、深野、石塚、長谷部、安川、角田が集まって立ち話をし、連が加わって身振り手振りで何か説明している。

「まさか、賞金を諦めてないのか?」
「きっとミレフレの共作者だと主張しているんだよ」
「希望を低俗化させてますね」
「まっ、無事に終わったんだ。好きにさせておこう。レンの活躍は最高評価に値するだろ」
「フミちゃん、やっぱ連くんのこと大事に思っているんだね」

 文子は久美子にそう言われて苦笑いしたが、MOMOEをブラックホールから救おうとした連はカッコ良かったと思い返す。それに司祭ではなく『禁断の書』を剣で切った事で世界は救われた。

「学園長と教師の洗脳は解けたけど、記憶が曖昧なようです」
「不思議だ。みんなキョトンとしているよ」
「さっきまで、司祭に操れていたのに覚えてないのか?」

 体育館の隅に集まった洗脳者の意識は正常に戻ったが、この場所へ来て何が起きたかの記憶はなく、夢から覚めたように「ここはどこ?」と若者たちに質問している。

「とにかく戦いは終わった。レン、外へ出よう」

 文子の呼び声に連が笑顔で振り向き、仲間が壇上から降りるのを迎えに来た。

 五条霧笛学園の上空に渦巻く黒い雲と鴉と蝙蝠の群れは消え去り、澄み渡る青空に街全体が穏やかな空間に包まれ、体育館とグランドを暖かい陽射しが照らし始めている。

 警察官や救急隊員は体育館のガタついた扉をバールでこじ開け、人々をグラウンドへ避難させて怪我人は救急車で病院へ、生徒たちは保護者に付き添われて家路に向かう。

 湊家族は車に乗り込み教師たちに見送られたが、香奈江は学園長として景子と一緒に警察の事情聴取に対応した。しかしイベントの最中に校舎が激しく揺れ、事故が起きたとしか答えられない。

 景子は真実は書物と共に消え、暗黒の宇宙ソラに記されたと想像し、改めて暗黒の世界の恐ろしさに震え上がった。

 香奈江や教師たちに江国先生の記憶は無く、ブラックホールに落ちた者の存在は時間が切り取られたように消滅し、警察は事件性はないと判断したのである。


 野上と長谷部たちは駐車場へ戻り、ネットワーク機材をワゴン車の荷台に積み込み、安川と角田がモニターの電源を入れて録画を確認すると、体育館で紛失したカメラから送信された映像が記録されていた。

「連くん。明日、会える?みんなに見せたいものがあるのよ」

 渋谷のエディバー社に着くと編集部の席で松田が笑顔で連に電話し、野上と深野と石塚も疲れ切っていたが微笑んで聴いている。

「奇跡的に光の爆発が起きた瞬間をカメラが捉えてたのよ」
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