ゴーストに恋して

田丸哲二

文字の大きさ
84 / 84
最終章・MOMOEとの別れ

エピローグ・物語の行方

しおりを挟む
 翌日の午後、『Bi-hún』に松田と景子と連と文子と順也と久美子が集まり、マスターと由美もテーブルに置いたタブレットを囲み、カメラがブラックホールに落ちた時の映像を観た。

「凄い。司祭が魔剣を突き刺して爆発が起きたのか?」
「不思議ですね。カメラの映像はブラックホールに入ってから鮮明になった」
「心霊現象?」
「きっと、ブラックホールが霊的世界だからでしょう」

 店をクローズにして昨日の戦いの結末について興奮気味に話す。連はMOMOEを抱えて穴の中を覗いていたが、文子と順也と久美子と景子は初体験だ。

 カメラは回転して風圧でブレていたが、剣を前に突き出した司祭がブラックホールの中心コアへ落下し、突然、爆発が起きて光の波が押し寄せ、一瞬ではあるが狭い穴の亀裂から飛び出した少女のシルエットを映し出す。

「見て、MOMOEさんだ」

 ハレーションになり、すぐに消えたが誰もがMOMOEは暗黒の扉から脱出したと思った。

「やっぱ、抜け出してたんだよ」
「よかったね。レンくん」

 この時、連は笑顔を見せたが何故か口数は少なく、ガッツポーズをしたりナイアガラの涙を流すパフォーマンスもなく、文子も優しく連に寄り添っている。

「何かあったんですかね?」

 カウンターに戻ったマスターが由美に質問し、コーヒーとケーキの用意をしながら連と文子を眺めている。

「センシティブな年頃なんだよ。前から友だちと恋人の線引きで悩んでたからね」
「なるほど、ゴーストへの想いが大人の恋へと成長させたか?」

 実際はマスターと由美の想像よりも二人はファンタスティックな関係だったが、それに気付くのはもう少し先の事である。


 松田からの報告はもう一つあり、ゴーストへのメッセージとライブ動画がクリエイターを刺激し、エディバーのサイトの登録者が増えてスポンサーも安心し、ネットトラブルで発表の遅れたコンテストの受賞が決定した。

・最優秀作品賞 賞金300万円 書籍化(復元次第)

【ミレフレ】作者:Len & Momoe
『見て、触れて、世界は鮮やかに輝き出す』

 タブレットにエディバーサイトの発表を映し、松田が胸の前に掲げて全員に見せる。

「連くん、おめでとう」

 景子は自慢の生徒だと喜び、更に連から意外な発言があって驚きと感動で気絶しそうになった。

「ありがとう。でも、MOMOEが書いた作品だから、賞金は難病センターに寄付します」

「連くんが、そんな……」
「景子先生、驚き過ぎ」
「フミちゃんの意見だから」
「最後まで連くん抵抗してた」

 連は久美子と順也に口を挟まれて苦笑いし、テーブルの下で文子に足を踏まれて話を続けた。

「もちろん印税もです。でも書籍化は未定ですよね」
「ええ、残念ながら一部のデータは取り出せたのですが、まだ完全には復元されてません」
「それで提案なのですが、私も連に協力してミレフレを完成させたい。松田さん、ダメですか?」

 文子が立ち上がってそう言うと、連も横に並んで「リアルなゴーストライター」と肩を組んで微笑み。

「もちろん、OKです」と松田が答えると、全員が二人に拍手喝采をして幕は閉じた。

 それから三ヶ月後……。

 学園は夏休みになり、文子は剣道部の練習の合間に『Bi-hún』に寄って連と順也と久美子に会ったり、連の家に行ってミレフレの小説執筆の協力をしている。

「フミちやん、大丈夫?」
「えっ……」

 テーブル席の前に座った久美子に注意され、文子は空になったグラスのストローを吸っている事に自分でもびっくりした。

「まさか、霊感体質?」
「フミちゃんらしくない」
「連に影響されてないですか?」
「何言ってんだ。ミレフレを書くので、想像を膨らませてるの。レンと同じにしないでよ」

 順也からも変だと言われ、文子はそう反論して誤魔化したが、実は戦いを終えた日からずっと気になっている事があった。

 戦いの達成感と喪失感で住宅街の路地を二人でとぼとぼと歩いて家に近付いた頃、連が意味深な視線を文子に向け、首を傾げてジーッと見つめてから唇に軽くキスした。

「レン、な、なに……?」
「やっぱ……ミステリー」

 連はそれ以上は何も言わず。文子も質問せずに家の前でいつもの感じで別れ、背を向けて一人で歩き出してから不思議な感情が湧き上がった。

『まさか、MOMOEさん?』

 文子はその時、『ゴーストに恋して』のラストシーンを思い出し、『自分が書いた小説がリアルになったのか?』と思った。

 少女は『僕』のガールフレンドの心の中にゴーストになって残り、友だちから恋人に変化するのを楽しみ、初めてキスした時に『僕』は恋人の中にゴーストが生きていると感じる。

『嘘でしょ?もしあの時、私に憑依したとしたら?』

 文子はブラックホールから脱出したMOMOEが自分の中にいると疑い。時々、妄想に駆られたが連に聞くことも答えを求める事もしなかった。

『私は私でしかない』

 連の部屋で一緒に『ミレフレ』の小説を執筆するのは楽しく、連も文子の顔を覗き込む事なく、お互いを尊重し合っている。

「ねっ、ラストシーンだけど、少女がフクロウのペンで向日葵を描いて、王子と黄金に輝く向日葵畑を歩いて行くなんてどう?」

「いいね。手を繋いで未来へ向かう二人」

 連は文子の手を握り、ベッドの上に乗って足踏みして想像を膨らませた。

 すると部屋の壁一面に向日葵の花が咲き、フクロウのペンが宙を舞い、リアルに立体化した花畑が青空の下に輝いて見えた。

 マジックボーイとゴーストに憑依されたかもしれない文子。二人のファンタジーを信じる気持ちが一致した幻影かもしれないが、夏休みの終わる頃には『ミレフレ』の小説は完成し、エディバーのサイトにもアップして書籍化か進む。


 そして連は一度だけMOMOEの夢を見た。ネットサイトてアバターになり、小説の世界を飛び回って不思議な浮遊感を感じたと文子に話した。

 文子も『ミレフレ』を書き終えた時、『ありがとう』と夢の中でMOMOEに言われ、ハグして顔を見合わせて微笑んだ。

 それを最後に連も文子もMOMOEを見る事はなく、今度こそ本当にゴーストは消えたと思ったが、『Bi-hún』に集まって久美子と順也とあの戦いの話をすると、連と文子はいつもこう主張した。

「心の中に永遠にゴーストはいます」
「うん、物語は終わってないんだ」


(三年後、連と文子は同じ大学に入学し、出版された『ミレフレ』はベストセラーになったが、二人の恋物語については不明である。)


【完結】
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

ハニーラブ
2022.02.20 ハニーラブ

独特ゥ。

解除
スパークノークス

お気に入りに登録しました~

2021.08.18 田丸哲二

ありがとうございます。感謝!

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。