あふれる愛に抱きしめられて

雨の救世主

　日本各地で雨の被害にあった人々が東京の割烹に集まり、紗織を招いて励ましている。自分が訪れた場所で、雨の被害を被った人達であるが何故か雨女の紗織に感謝した。

「それ聞いて、私だってびっくりだよ。だって不幸な雨女だとずっと嘆いてたでしょ？」

「みんな紗織さんに助けられたんです。必死になって、躊躇していた私たちを避難させた」

「川に溺れそうになったこの子を助けてくれたのは紗織さんですから」

「足の悪い夫を運んでくださいましたよね」

「屋根の雨漏りまで治してくれた。貴方は凄い女性ですよ」

「天気予報より、雨が降る時間を正確に把握し、川が溢れる場所を的確に教えてくださいました。そして落ち込んでいる被災者を励まして、名も告げずに去ってしまう」

「おねーちゃん。カッコいい」

「私たちにとっては命の恩人ですからね。もっと自信を持ってください」

　豪華な料理が運ばれ、お酒もテーブルに並ぶと紗織への感謝の言葉は絶え間なく続き、紗織は困惑して本心を告げた。

「あの～、でも違うんです。私は雨の振り方を知り、水の流れで危ないポイントも分かるので、ボランティアをしていますが、私が被害を招いていると思うと申し訳ない気持ちでいっぱいなんです」

「お姉ちゃん。今回、SNSや地方紙を利用して雨女の功績を呼びかけてくれたのは神野さんなんだよ」

　妹にそう言われて、紗織は食べ物を喉に詰まらせて咳き込んだ。正直、その人物は苦手だった。そもそも紗織が雨女アメジョと呼ばれるようになった因縁の男である。

「もう、27歳なんだからさ。結婚してあげなよ。ずっとプロポーズされてるでしょ？」

「まさか、来てるのか？」

　紗織は神野洋介が店の奥から花束を持って現れるのではないかと警戒し、中腰になって周囲を見回し、隣りの妹に押さえ付けられた。

「来てません。まったく、なんでそんな嫌ってるの」

「ふー、驚かせないでよ」

　紗織は少し安心して、お酒と料理に手を伸ばし、人に囲まれて美味しい食事をするなんて久しぶりの事だと微笑む。

「アイツのことはともかく、なんか少し楽しくなってきた。正直、この数年間ひとりぼっちで生きてたからなー」