亡霊サミット

田丸哲二

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第二章・亡霊サミット

亡霊サミットの代表者

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 22日深夜零時 (日本時間)亡霊サミットは厳重な警備体制の中で始まり、原爆ドーム5階フロアの席に着く阿武源治 (62歳)は鉄骨剥き出しの原爆ドームから満点の星空を眺めて、暫し広島の地で開催された感慨に耽り、同時通訳のヒミコの声を聴いて、壁に設置された大型モニターに映る各国の代表者に視線を移す。

『米国より、アインシュタイン博士とトーマス・エジソン』

 紹介されたアインシュタイン博士はお馴染みの舌を出す仕草をして見せたが、それよりも参加者が驚いたのは開頭手術で脳が露出している事であり、同じく米国代表のエジソンがアインシュタインの頭を撫でて呆れている。

 壁端の席に着く福子もモニターを指差して「脳が丸見え……」と呟き、隣りの拓郎が包帯をした左腕で福子の手を押さえて、「亡霊は死後のイメージを引きずる」と耳元で囁く。

(アルバート・アインシュタインは地上に何も残す事のないよう、死体を火葬して欲しいと言い残したが、プリンストン病院の医師チームは脳を取り出し、『科学的研究のため』という名目で秘密裏に脳を冷凍保存した。)

 インカムをしたヒミコが壁の大型モニターに映し出される各国の代表者を紹介し、坂本和也がキーボードを叩いて日本語の字幕を画面に入れ込む。

(語学が堪能な小野氷見子はヒミコと呼ばれて同時通訳や司会を担当しているが、落雷事故で死亡した影響で霊体の固定が希薄で、時折、電波の中に吸い込まれる事があった。)

 エリザベス女王 (英)、ジャンヌダルク(仏)、ガリレオ(伊)、アンネ・フランク(独)、ヒルデガルト(EU)、ガンジー(印)、メヌード(カナダ先住民)の上半身が大型モニターに映し出され、簡単な挨拶が終わるとすぐに日本代表の阿武源治のいかつい顔がモニターに映り、広島亡霊サミットの課題として立案された会議が始まる。

「通常であれば、経済、安全保障、気候変動などの幅広い議題で自由闊達な意見交換を行うのですが、今回の亡霊サミットはロシアのウクライナ侵攻より、プーチンが原子爆弾を使用する危険性がある事を問題視し、具体的な対抗策として発案したアマテラス計画を議題とします」

 
 阿武源治が席に着いたままスピーチして、白髪を両手で掻き分けて団子鼻を指で摘み、メインモニターに映る展示ケースが月光に照らし出されると、米国代表のアインシュタインに説明を求めた。

「では科学チームのリーダー・アインシュタイン博士、ウクライナより届いた神器と計画について、改めてお話しください」
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