亡霊サミット

田丸哲二

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第二章・亡霊サミット

アマテラス計画

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「この計画を立案した当初に話した事でありますが、アマテラス計画は太陽を岩戸に隠すと云う意味合いがあり、アマテラスガンと名付けられていますが決して武器ではなく、核兵器を無効化する防衛装置であると声高に言いたい……」

【Amaterasu's gun】
Amaterasu・central deity of Shinto; goddess personifying the sun and ancestress of the rulers of Japan.(アマテラス・神道の主神。太陽と日本の統治者の先祖を象徴している女神。)

 アインシュタインのスピーチに合わせてメインモニターに展示ケースの名称と説明文の字幕が流れ、画面下部に亡霊科学チームのメンバー、アインシュタイン、エジソン、ニュートン、コペルニクス、湯川秀樹のプロフィールと顔写真が紹介される。

「アマテラスガンのレシーバーにはウクライナの戦地で育った霊植物が移植され、死者の血と怨恨が金属に同化している。下部に装備されたブラックボックスは沈静化させた廃棄物を蓄え、核爆弾を鉄のゴミに変えてしまうのです」

 日本語に訳したヒミコの声が片耳のイヤホンから聴こえ、「なるほど、だから天照逆霊波なんだ」と福子が大袈裟に頷き、チラッと視線を向けたヒミコが全身を光らせて宙を飛び、福子の目前に現れて「ちょっと、うるさいわよ」と注意し、キーボードを叩く和也も顔を上げて福子を睨む。

 しかし福子は気にせずに「ちょっといいですか?」と挙手して席を立ち、ザワザワと会場が騒つくのを見て拓郎が座らせようとする。

「福子、やめろ」
「でも、私も拓郎も原子爆弾の被害者だよ。発言する権利はあるだろ?」

 情報部の幹部・大久保剛が四階の警備員を引き連れて5階フロアに押し寄せ、阿武源治も眉を吊り上げて立ち上がった福子を怒鳴ろうとしたが、福子の言い分は最もであり、原爆ドーム周辺に集まった亡霊の霊気で会場は静まり返り、ネクタイを緩めた阿武は大久保と警備員を元の配置に戻し、和也に指示をして福子の発言を字幕で英訳させる。

[She says she was a victim of the atomic bomb dropped on Hiroshima and has the right to speak out.(彼女は広島に投下された原子爆弾の被害者であり、発言する権利があると言っています。)]

 メインモニターに福子の上半身が映り、[Fukuko Shimazu.(島津福子)と紹介され、ヒミコは気分を害して同時通訳を放棄したが、アンネフランクは笑顔を浮かべてカタコトの日本語で歓迎した。

「フクコ、ドウゾ。お話しください」
「サンキュー。別にこの計画に反対するわけじゃないけどさ。どうしても言っておきたい事があるの……」

 福子のスピーチが始まると、ビルの建ち並ぶ近代的な生者界の風景が薄れて、原子爆弾が投下されて廃墟と化した悲惨な光景が幻影のように現出し、血塗れの亡霊が陽炎のように浮かび上がって、悲壮な表情で原爆ドームを眺めた。

「平和記念資料館のパネルにも載っているけど、1939年アメリカ大統領フランクリン・D・ルーズベルトに宛てた、原子爆弾の開発を求める書簡にアインシュタインは署名し、広島、長崎に投下された原爆の開発『マンハッタン計画』が始まったんだ」

 拓郎、和也、阿武、警備員の中にも原爆の犠牲者が数人存在し、霊界ゾーンに棲む亡霊たちの痛みと怨恨で霞む黒煙を覗き込み、爆心地から半径2kmの焼け崩れた地域を見て呆然と立ち尽くす。

「しかもアマテラスガンは未完成だし、武器じゃないって言ってたけど。あとで『大きな誤り』だったと反省するのがオチじゃないのか?」

「手厳しい意見ですな。もちろんこの計画が成功したとしても、私や科学者たちの罪が消える筈はなく、改めて原子爆弾の被害者へ謝ります。ごめんなさい」

 アインシュタインは素直にこうべを垂れて謝罪し、露出した脳がこぼれ落ちそうになって隣りのエジソンが両手を添えると、会場から笑い声が漏れて福子も微笑み、阿武源治は原爆ドーム周辺の黒い霊気が晴れるのを見て、湯川博士が何故島津福子をサミットに参加させろと言ったのか理解した。

『自由奔放な福子の発言が、広島に漂う亡霊の怨恨を鎮めたか……』

(日本霊界研究所・所長湯川秀樹 (74歳)は公の場所に出るのを嫌い、サミットには出席せずに研究所の一室でモニター視聴し、予想通り福子が亡霊の怨恨を感じ取って発言したと、ウイスキーのグラスを口に運ぶ……。)

「まっ、反省しているならいいよ。会議を進めてください」
「おお、許してくれるか?」
「うん。だって私達が一番、核爆弾の使用を心配しているからね。これ以上、核兵器の被害者を出したくないさ」

 福子がそう言って席に着き、項目通りに会議が進められて、エリザベス女王 (英)、ジャンヌダルク(仏)、ガリレオ(伊)、アンネ・フランク(独)、ヒルデガルト(EU)、ガンジー(印)、メヌード(カナダ先住民)の順番で『アマテラス計画』が承認され、協力は惜しまないと各国の代表者が約束した。

 しかし問題はアマテラスガンは未完成であり、物理的に霊界の装置を生者界で使用できる筈がなく、休憩を挟んで話し始めた阿武源治の説明に出席者は固唾を呑み、ミッションのリーダーに指名された大和拓郎は困惑した。
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