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最前線の街ホリック

祭り

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 グレイはベットの上で目を覚ました。

 周りを見るとジークの家ではない。装飾は派手すぎないくらいに豪華でベットの大きさもグレイが三人分くらいある。

 次第に寝ぼけた思考がクリアになり何故自分がここにいるのかを思い出して来た。
 ジークが最後の魔獣を討伐したあと、見届けたグレイは疲労と魔力切れによって意識を手放したのだった。

 そうなるとロベドは勿論のことジークも痛み止めの効果が切れる為三人とも倒れたはずなのだ。二人は無事なのか気になったグレイはもぞもぞとベットから出ようとした。

 部屋の扉が開き果物をもったレイラが入ってくる。すぐにグレイが起きているのに気がついたレイラはベットまで駆け寄って抱きしめる。

「良かった……ほんっとうに良かった。目を覚さないんじゃないかって思った」

 瞳に涙を蓄えて豊満な胸をグレイの顔に押し当てる。対するグレイはと言うと嬉しさ?のあまりレイラの腕をパシパシと叩く。

「レイラ、胸で絞めてる。離す」
「エッ!?あっごめん、グレイ大丈夫だった?」

 解放されたグレイははぁはぁと息を整え首を縦に振る。筆談をしないのは魔力がまだ少ないからと言うのも一つ。

「む、どうやら邪魔したようだ」

 レイラ達が入って来た扉から領主ダイムが入ってくる。グレイが寝ていたのは領主邸の中にある客間であった。

「あ、いやそんなことないですよ。グレイを匿ってくれたことには感謝してます。何かあったんですか?」

(匿う?)

「今しがた連絡があってな。ジーク殿が目を覚ましたそうだ」
「ジークが!?…………良かった」
「大量出血で死ぬかと思った」

 ライラがなかなかに辛辣だが彼女なりにジークの事を心配しての言葉である。レイラ達はグレイの事をダイムに託しジークがいる治療院に向かった。

 ダイムはグレイがいるベットの横に腰掛けて話し出す。

「君には本当に世話になった。娘を助けてくれただけでなく魔獣討伐も君無くしては敵わなかったと聞いている。改めて感謝する」

 大切な人たちを助けにいっただけでそこまで感謝されるようなことはしていない。そうグレイは伝えたいのだが伝える手段がなかった。

「そうだ、君の持ち物だろうコレは」

 ダイムが差し出したのはジークに貰った白い板。すかさずグレイは『ありがとう』と書いて見せる。

「コレは娘のタリアが民の為にと文字を勉強する為に作った物なのだ。君がこれを持って来たことに私は驚いたよ」

『もし、これをジークに貰わなかったら多分来てなかった。ジークのおかげ』

「そうか、英雄殿には感謝しなければならないな。だが今はグレイ、君だ。我ら領主家は多大なる恩が出来た。それに報いなければならない。何か欲しいものはあるか?」

◇◇◇

 再びベットで目を覚ましたグレイは隣に誰かいることに気がついた。

『ジーク?』
「よく気がついたな。お互いにボロボロだ」

 包帯だらけの体を見せて笑うジークを見てほっと胸を撫で下ろす思いをしたグレイ。痛み止めのルーンとはそのままの意味ではなく遅延するのが本来の意味だ。後から来るダメージが心配だった。

 ジークの顔を見ていたグレイは白い板を使わないで質問する。

『何でみんな聞かないの?』
「お前の出自について、か?ダイムのおっさんはまぁグレイとの約束があるからだろうけど、俺はグレイがどこの誰だろうと関係ない。俺たちの命の恩人で仲間のグレイだ」

 グレイはまだ自分が何者なのか話す決心がつかない。だが、言わなくてもいいのかもしれないと思った。

 そんな時、外から騒がしい声が聞こえてくる。夜なのに窓からは明るい光が漏れ、ジークの顔を照らす。「動けるか?」とジークが尋ねるのでもぞもぞとベットを這い出る。ジークが見てる景色をグレイも見る。

 そこに広がっていたのは色彩溢れる光と笑顔。皆、笑い合い食事をしながらどんちゃん騒ぎ。一体何事か、とグレイはジークを見る。

「祭りさ!十年に一度の厄災を乗り切った宴が開かれてる。グレイも行こうぜ?」
『うん』

 ジークに連れられ領主邸の外に出たグレイは昼以上に明るい景色をみて心躍らせる。食って騒いで笑って泣いて、一夜の夢のような景色を目に焼き付ける。

「さぁて俺たちも混ざろうか!行くぞグレイ」

 先に祭りに参加していたレイラとライラに合流して食べ物や余興を楽しんだ。特に吟遊詩人が語る歌は何度か聞いた。吟遊詩人が歌ったのはジークの歌だ。そのうち、ジークが顔から火が出るほど赤くなった。

「あー楽しかった。こんなに楽しいなら毎日やって欲しいくらいだぜ」

 病み上がりだと言うのに腹を膨らませて横たわるジークを腰を下ろしたレイラが笑う。ライラはジークの腹をつんつんする。

 そこに近づいてくる足音。

「何言ってやがる、これは元々慰霊祭だって言ってんだろうが」
「ロベド!もう傷はいいのか?」

 ジークが飛び起きて足跡の主、ロベドに問いかける。

「問題ねぇ、俺よかお前の方が重症だろうが」
「だけどよぉ……」

 ジークの視線の先には赤かったはずの髪は白く変色し左目も視力を無くし眼帯をしているロベドが写っている。

 禁術の代償で命を使ったロベドは間一髪の所で踏み止まった。だが、もう冒険者としては死んだ。

「死ぬはずだったのにこうして生きてんだ。それでいいじゃねぇか。それにアイツらを供養しなきゃなんねぇからな」
『供養?』
「おう、今までに死んだ奴らの命日だからな。俺も祭りに参加しなきゃアイツらが心配すんだろ」

 この祭りは本来戦いで散った同胞を弔う祭りだとロベドは語る。静かに供養する形式張ったものはいらない。騒いで食べて飲んで笑って「俺たちは大丈夫」と伝えるんだ、とロベドは言う。

「と言うわけで酒飲んでくる。お前ら怪我人なんだから酒飲むなよーひっく」
「もう既に飲んでんのかよ……まぁロベドらしいか」

 そうして祭りは夜が明けるまで続いた。明日からはまた新しい明日が頭痛を堪えながら始まっていく。
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