聖女と言われた姉が堕ちていくまで

あんころもちです

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復讐の狼煙

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「ローズ、君のお父様からは君と結婚するように言われていたけれども……わかってくれるよな?」

私ローズは第二王子カール様との婚約発表会当日、控室でいきなり婚約を無かったことにしてくれとお願いされた。
王子は亡くなったお父様とお母様と、王子の父親である国王との取り決めの文章を改竄して私と婚約ではなく姉であるエリーと婚約だと発表しようとしていた。

お父様とお母様の遺産を使い尽くした姉は王子の隣でにやにやと下品な笑いを浮かべている。母親譲りの金の髪が揺れ、青い瞳はキラキラと輝いている。姉はいつも私を貶めるときは笑っていた。

幼い頃に好きだった子を奪った時も、私が飼っていた猫を毒殺しようとした時も、そしてお父様とお母様を亡きものにした時もずっと姉は笑っていた。

「ごめんねローズ」

「いいえ、お姉様は聖女に選ばれましたものね。お姉様を選ぶのは当然だと思います」

そう言うと二人は間に受けたのか大きな声で笑っていた。私が何を言っても姉を選ぶ気であったのは一目瞭然だった。だって姉は婚約発表会の時、婚約者しか着ることのできない白いドレスをもうすでに着ていたのだから。

「ねぇカール、第一王子も病弱で死にかけてるんだし私たちが次の王様と女王さまになれるわよね」

「当たり前じゃないか。兄上はどうせすぐ死ぬよ。楽しみだ、あぁローズこのことは黙っておくんだぞ。ほらお前親の金を使い尽くしたらしいしな。こんな小銭でもありがたがるだろうよ」

カールはカーペットの上に何枚かの銀貨を撒いた。それをみて姉はクスクスと扇子で口元を隠して笑っている。口元隠したって、その意地悪な目つきだけで姉が笑っているのなんて分かりきっている。

そのまま私は控え室に入った時のボロボロの使用人が着るような服のまま銀貨を拾わずに出て行った。カールと姉のバカにしたような笑い声が響く中、私は真っ直ぐと彼の元へ向かう。

ギィと音が鳴る大きな木製の扉を開けると、何度も咳き込みながらベッドに横たわっている彼の髪をゆっくりと撫でる。姉は元々第一王子イヴァンと婚約していたのだが、イヴァンが病弱だったことに加え金銭の管理をきちっとする方だったので嫌気が差し弟であるカールを選んだのだ。

「イヴァン様、とうとうこの日が来ました」

「……この声はローズか」

「はい、姉はやはり書類の改竄をしてカールとの婚約発表の場に向かいました」

「あの女狐、カールなら贅沢な暮らしをし続けれると思ったのかな。ごめんねローズ、俺みたいな奴と婚約だなんて辛いよな。ローズのためにも精一杯生きたいと思っているのだけど、体が言うことを聞いてくれなくて」

何度も咳き込み、血を吐くイヴァンの背中を私は撫でた。
この日を私は待っていた。お父様とお母様を失った日から、どれだけ辛いことが起きても高慢でプライドだけは高い姉を打ちのめす絶好の機会を狙っていたのだ。





「カール様万歳! エリー様なんてお美しいの」

「お二人は輝いているな。美男美女のご夫婦だし何より聖女であるエリー様とご一緒になられるなんて羨ましい限りだ」

「エリー様ご両親を失っても健気に妹さんと慎ましい生活を送ろうとしていたらしいのよ。でも妹さんお金遣いが荒くて……」

「まぁ何て可哀想なのエリー様は。悲劇のヒロインも幸せになれるんだってエリー様みていたら感じるわね。エリー様幸せになってくださいねー」

姉を称える声がこの王宮に響き渡る。何も知らないで勝手な噂ばかり信じる人たちに姉は喜んでいるだろうな、可哀想なエリー。もうすぐこの幸せが終わるって言うのに。

私は勢いよく扉を開け、ズカズカと会場の真ん中を歩いていく。他の貴族たちもあまりのことに驚いたまま、目を丸くしている。当然だよね、だって一人で歩くこともできないような第一王子イヴァンが堂々と私と一緒に歩いてきているもの。

エリーとカールの幸せ層に笑っていた顔もこちらを見た途端歪んでいった。
カールには申し訳ないけれども姉を選んだから仕方ないよね。私は姉のこの歪んだ顔を見る日をどれだけ楽しみにしていたか。

「おい! なんで兄上がこんな場所に来れるんだ! あの病弱で一人じゃまともに生活もできない男がこんな場所に来れる訳ないだろ!」

「黙れカール! ローズの聖女の力がなければ俺にかけられた呪いは解けなかった。肉体を蝕み、生気を吸い取る恐ろしい呪い。かけたのは貴様だなエリー!」

イヴァンから名指しで呼ばれた姉は激しく狼狽していた。笑顔こそ無理やり作っていたものの、綺麗な顔もそうやってひきつっていては台無しね。

「何言ってるのイヴァン様、私聖女ですよ。そんなことできるはずがないわ」

「なら聖女の奇跡を今ここで見せろ。聖女が祈れば空からは降るはずのない小麦の雨が降り、水はたちまち葡萄酒へと変わるのだろう? ここにある水を今すぐ変えてみせよ」

イヴァンはそう言って水がたっぷり入ったガラスでできた水壺を指さす。エリーが助けて欲しそうにこちらを見ていたけど、私は無視してやった。散々利用された妹がまさか自分を裏切るなんて思っても無かったのかな。馬鹿にも程があるでしょ。私はそんなお人好しでもなければ、両親を殺した人を許せるような人間じゃないの。

周りの貴族たちも是非見てみたいだの、聖女様だのとエリーを呼んでいて馬鹿みたい。あの女がこんなことできるはずがないのに。

「今激しく動揺しているせいで、奇跡が起こせないようです」

「おかしいな。文献では死の間際でさえ聖女は奇跡を起こせるんだぞ?」

「あ……イヴァン様! あなたが病気から立ち直ったのが聖女の奇跡です! 私の祈りが届いたんですよ」

「そんなことがある訳ないだろう。俺はさっき目の前でローズがやってくれた奇跡のおかげで助かったんだ。ローズ見せてくれないか、その力を」

イヴァン様に言われ私は天に祈りを捧げる。すると水壺の水はみるみるうちに赤紫色した液体へと変わっていく。そしてイヴァン様が杯でそれを一掬いして飲むと大きな声で言った。

「これは葡萄酒である! エリーは本当の聖女がローズだと知っておきながら聖女を騙り、俺を殺そうとした国賊だ!」

「ちょっと待ってください! い、今私の奇跡が起きたんです。ローズは嘘つきです! そしてそれに騙されお祝いの席を台無しにしたイヴァン様は最低です! やはり次期国王はカール様がふさわしい! ね?カール様」

「お、おう! そうだ! 嘘つきどもめ衛兵! 衛兵!」

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