聖女と言われた姉が堕ちていくまで

あんころもちです

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姉の最期

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衛兵たちは動かずに冷ややかな目をカールたちに向ける。馬鹿な人たち、私が無計画にこんなお祝い事を台無しにするようなことするはずないじゃない。私の評判は姉のせいで最悪だもの、普通だったら私の妄言だと言って誰も信じてくれるはずがない。絶対に勝てる時を狙って私はここにきたの。

「カール様、エリー様に聖女の力があると我々騎士団のものは思っていません。エリー様が聖女としての公務を行う際は必ずローズ様も来ておりました。しかしここ数年ローズ様が御同行されないようになってからはエリー様は何かにつけて公務を拒否しておりました」

「お前ら! エリーを疑うのか?」

「疑ってはおりません。エリー様は自分を聖女だと偽り、イヴァン様に呪いをかけるために呪術がかけられた食事をお渡ししておりました」

「そんなはずがないだろう!」

「魂を悪魔に売り飛ばし呪術を使ったものは銀の食器に触れることができません。さぁエリー様、そこに我々がご用意した銀のスプーンがございます。それを使って聖水で作られた粥を食べてください。それはローズ様が毎日飢える人々のために作った粥です」

騎士団がそう言うと使用人たちがカールとエリーの前に銀のスプーンと銀の皿に入ったミルク粥を置く。カールはせせら笑うように銀のスプーンを手に取った後、使用人に向かって投げ返した。次に騎士団に向かってはミルク粥が入った皿を投げつける。

「お前たち揃いも揃って馬鹿なのか? エリーを疑って恥ずかしくないのか騎士団の奴らまとめて首にしてやる! おい! ローズ! お前は死刑だ。聖女を愚弄し、俺の式典を台無しにした罪は重いぞ! なぁエリー」

震える姉を見て私は思わず鳥肌が立った。あの人のあんな怯えた顔は人生で二回目だろう。私に聖女の力があると分かった時もそんな顔をしていたねエリー。お父様とお母様に勘違いで自分が聖女だと思われた、でもローズが本物だって言うからって何度も何度も言っていたね。最後にお父様とお母様がいつまで経っても言わないエリーに腹を立てて国王様のところに真実を言いに行こうとした時、あなたは二人を殺したよね。

私にそれを告げた時エリーは“だって私の方が聖女に向いているじゃない? 私の方が綺麗だし、あなたはいつまでも私の役に立ってね“だって。

あの時はエリーの方が一枚上手だったから私の話をほとんどの人が信じてくれないように悪言をこれでもかってほど広められたけど、信じてくれた人のおかげでこうやって追い込むことができた。調子に乗って警戒を怠ってくれてありがとうエリー。

「おいエリー早く食えよ。何してんだよお前!」

カールがエリーの手を無理やり掴んで銀のスプーンを握らせると、エリーは凄まじい叫び声をあげてカールを払いのけ葡萄酒がたっぷりと入った水壺に手を突っ込む。エリーを押さえつけた騎士団がその手を見た時、会場からは悲鳴があ上がった。エリーの手は銀のスプーンが触れたところは真っ赤に爛れていた。

「はぁエリー……この魔女め! おい騎士団この嘘つき女を取り押さえよ! どうやら俺も操られていたようだ……すまなかったローズ、イヴァン兄様……俺は正気に戻りました。お兄様! 二人でお父様を支えていい国を作っていきましょう!」

カールが壇上から降りて私とイヴァンに握手を求めようとした時、騎士団の人たちがカールも取り押さえた。カールは驚きのあまり口をパクパクとさせていた。暴れようにも屈強な騎士団と、訓練すらサボっているカールでは力量の差が歴然としていて彼は何もできずにいた。

「おい! お父様に言いつけてお前ら全員死刑にしてやるぞ!」

「そのお父様もこのことは了承済みだよ。カール」

イヴァンがそう言った時のカールの顔はあまりにも間抜け面すぎて、思わず笑っちゃいそうになったけど私はなんとか耐えることができた。よかった、ここで笑っちゃったら悪女になっちゃうところだった。今から私は悲劇から脱出した聖女に、イヴァンは呪いから解放された王位継承権第一位の王子となる。迂闊なことはできない。完璧にやらなくちゃ私たちの悪い噂は消えやしない。

「カール、嘆かわしい」

国王様はゆっくりと私たちのところへやってくる。そう、私の話を信じてくれた一人は国王様。そしてイヴァンだった。ずっと昔から可愛がってくださった国王様と、いとこ同士仲良くしていたイヴァンが私のことを信じてくれたからこそ今日この場を作り上げられた。

「お、お父様!」

「今日もしお前がローズを選んでおけば私は我が子であるお前の処罰を軽くするつもりだった。しかしあろうことお前はエリーを選び、兄まで愚弄し見捨てようとした。我が子である温情でお前には国外追放を命じる。そしてエリーお前は聖女だと偽り、そして我が弟とその妻を殺し、我が子であるイヴァンを殺そうとした。いくら姪であったとしても許されるはずがない。王命によりお前には死刑を命ずる。明日断頭台で処刑を行う」

「待ってくださいお父様! なんで俺は被害者だ! その魔女に唆されて……」

「いいえ国王様! 全てはカール様が考えたことです! この人が私にこうやらないとお前の両親のように私を殺すって言ってきたのです!」

「おい! この糞女! 嘘つくんじゃない!」

「お前こそ!」

二人は最後まで醜い争いを続けながら引き剥がされていった。国王様が謝罪し、この式典の中止の案内を言っていたけど私の耳には言葉が入ってこなかった。ようやく、ようやく姉が消えた。私の人生から消えてくれた。嬉しい、嬉しい嬉しい!

イヴァンがそっと私の肩を抱いてくれた時、私は思わず目を瞑ってしまった。肩の力が抜け、今までの人生の生き甲斐にしていた復讐が、両親が殺された3年前からずっと準備してきたのにあまりにも一瞬で終わってしまった。心地よい安堵感と達成感、そして脱力感。




「あれ!」

起き上がった勢いで私は誰かに頭をぶつけてしまった。あまりの激痛に頭頂部を抑えていると、イヴァンも同じように頭を押さえていた。そして二人で目を合わせると少しだけ二人で笑った。もしかしたら私はまだ笑顔が不器用かもしれない。両親が殺されてから笑っているふりしかしてこなかったから、笑顔が下手くそになっていたかもしれない。

イヴァンは私の手を取り、ゆっくり頬に口づけをくれた。私が好きだったのを知っていたから両親に頼み込んでイヴァンと婚約を結んだエリーから、ようやくイヴァンを取り返すことができた。イヴァンは少し待ってって言ってから部屋の外へ出て、小さな籠を持って戻ってきた。そして籠の中からは私が飼っている白猫が飛び出し、私の胸の中に飛び込んできた。

「ローズ、幸せにするからね」

「私が幸せにするんですよイヴァン。これから忙しくなりますよね、失った信頼を取り戻すため一緒に進んでいきましょう」

長かったけれど、ようやく私の人生がここから始まる気がした。
あなたが死んでくれるおかげで私は今日から私の人生を生きることができる。

窓が突然開いて突風が部屋に吹く。
遠くから聞こえた気がする誰かの断末魔。

さようならエリー。
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