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婚約者である姫君が真実の愛を見つけたと男爵に言っている件について
「勇者様いつか私たちが幸せに平和で暮らせる世の中のために頑張って! 私は旅についていけないけど、お城からいつでも貴方の無事を祈っているから。大好きよ勇者様」
ついに魔王討伐を終えた俺は王宮での盛大な魔王討伐記念パーティーに参加していた。
周りの兵士も喜んで酒を飲み、今まで食べたこともないようなご馳走をたくさん用意してくれている。あぁこんなみんなの笑顔のために俺は頑張ってきたんだと思え、その達成感と高い酒でガンガンに酔っ払っていた。
色んな女性が魔王討伐で与えられた賞金や名誉にあやかろうと群がってきたが俺にはたった1人の大切な女性がいたから全員の誘いを断り、ふらふらになりながらも俺は姫様を探しに行った。幼馴染の姫様は俺の婚約者だ。姫様はこの国の本家の人間で、俺は分家の人間なので一応は親戚にはあたるみたいだが余りにも遠い親戚すぎてそこはよくわからない。
姫様は会場から離れたテラスに1人で立っていた。月明かりに照らされた姫様の目はキラキラと輝いていて言葉にならない美しさだ。あぁ俺色々世界のためだとか国のためだとか思っていたけれども、この人のために俺は頑張っていたんだな。姫様俺のこと見たら嬉しく思ってくれるかな。正直祝賀会にいなかったの寂しかったけど、人混みとか苦手そうだもんな姫様。
「姫!」
「男爵様! 会いたかった」
「勇者の奴は……」
「今頃祝賀会でいい気分になっていると思います。人の気も知らないで……何で死ななかったのよ! 魔王に殺されちゃえば良かったのに! あんな奴……あんな奴……!」
「泣かないで姫様」
目の奥が燃えるように熱くて、頭はちぎれそうなほど痛いしガンガンとした頭痛がする。魔王に斬られた時よりも痛い。目の前の光景が揺れたかと思えば、揺れていたのは俺の体だった。力無くゆっくり崩れ落ちた。脳みそが溶けるように壊滅していきそう。どんな精神を揺さぶる魔法よりも、この光景は俺に効く。
「男爵様との真実の愛にようやく目覚めたのに、どうしてこんな……うぅ……勇者なんて死んじゃえばよかったのに」
「姫様、俺も気持ちは同じです。でも亡き王様たちが決めた婚約なのですから」
「お父様もお母様も勝手だわ! 私、私……今夜あいつのものになるぐらいなら死にます」
「駄目だ! 俺は姫様に死んでほしくない!」
「でもこうやって刻一刻とあいつのものになる時間が迫ってきているのよ!」
泣くほど嫌だったのか。
そうか、そうなのか。俺のことそんなに嫌いだったのか。胃から逆流してきたご馳走と酒が口から飛び出す。抑えようとしてもあいつらの顔を見るだけで吐き気が止まらないせいで辺りにビシャビシャと吐瀉物が溢れる。その音を聞き、ようやく姫様も男爵も俺に気づいた。2人の端正な顔が歪み青ざめ、俺を見つめる。
何で栄誉ある仕事をしたのに、こんな俺は最後情けない結末を迎えたのだろうか。これが勇者と祭り上げられた俺の末路なのか。そのまま俺はフラフラと2人に近づき、もう一度2人の目の前で大量に吐いてしまった。叫び声がする中で視界はだんだんと暗くなっていく。意識が朦朧とする。毒でも入れられていたのか? それとも。
「勇者様、勇者様。大丈夫ですか?」
「……僧侶ちゃん」
「はい。どうしました?」
暖かな布団に包まれた俺は僧侶ちゃんを見て飛び起き、そして辺りを見回す。ここは王宮内にある客室で、そして俺はいつのまにか綺麗な白色の寝巻きに着替えている。それに散々戻したはずなのに匂いもしないし綺麗だ。
「もしかして僧侶ちゃん」
「はい。私が綺麗にしましたよ。姫様と男爵様が慌てて私のところへ来て、勇者様が毒を食べたせいで倒れたと言ってきたので慌てましたよ。食べ過ぎ飲み過ぎですよ勇者様」
淡々とそう言いながらも俺のことをずっと見守っていてくれた僧侶ちゃんには感謝しかない。と言うか俺は食べ過ぎ飲み過ぎで吐いただけだったっけ? あれ、何か重要な記憶が……そうだ。そう姫様と男爵! 姫様は俺と言う婚約者がいるし、男爵はそもそも奥さんいなかったったけ? あいつもういいおっさんだぞ!
「僧侶ちゃん!」
「は、はい」
「姫様と男爵を呼んできてくれる?」
「わかりました勇者様」
そう言ったらすぐに立ち上がって僧侶ちゃんは姫様と男爵を呼んできてくれた。バツが悪そうな2人を目の前にすると何もない胃がまた逆流しそうになる。でも昨日よりはマシだ。なんだかもう気分が晴れているような気さえする。
「姫様、男爵といつから好き合っているのですか?」
「え? な、なんのことかしら」
「とぼけないでください。正直に言ってくれたら婚約破棄しますよ。俺は国を出ますので」
「え! 本当に? 実は三ヶ月前からなんですけれどもお父様もお母様も亡くなり、ひとりぼっちで頑張る私に優しく声をかけてくださったのが男爵様なんです! その時からずっと優しくしてくださってそこから私たち惹かれあって愛し合うようになりました! 勇者様これで満足ですか? いつお出になります? あ、祝賀会はもう私と男爵様の婚約披露宴に変更してもいいですか?」
もう脳味噌が爆発しそうだった。え、正直に言えばって言ってここまで暴露するバカいる? そうか、姫様は純粋だから正直にと言われたらこう答えちゃうんだな。隣で男爵が引きつった笑顔を見せているし、姫様の馬鹿みたいな正直さのせいでこんな目にあったんだろうな。
僧侶ちゃんは唖然としていて開いた口が塞がらないようであった。俺も気持ちは同じだよ僧侶ちゃん、ましてや俺に関してはこいつが“元“婚約者だからな。もっと悲惨な人生だ。何より、こいつのことをずっと好きでいたし好きでいてくれていると信じた俺が一番悲惨だ。馬鹿にも程がある。
「分かりました。もう荷物をまとめてこの国を出ます。今までお世話になりました姫様」
「勇者様ありがとう。男爵様と幸せになるわ」
「はい。どうぞ」
俺はそう言って着替えを取るために僧侶ちゃんに管理してもらっていた荷物を手に取り颯爽と国を後にした。最後まで笑顔だった姫様に対して男爵はずっとぼーっとしていたように見える。今からあいつ奥さんになんて言うんだろう? 姫様を婚約者から奪ったから離婚してくれとかかな? はぁ他人の心配事している場合じゃないよな本当に。
「勇者様。どうして何もやり返さなかったのですか?」
「……僧侶ちゃん、別についてこなくてもよかったのに。魔王討伐終わったんだし」
「私孤児院出身でいく当てがないんです。それにもうあんな姫様が統治する国にいたくありません」
「でも俺今から最低なことして復讐しようとしているから、俺について来ない方がいいよ」
「いつまでも一緒にいたいんです」
多分僧侶ちゃん俺のこと好きだよな。熱視線すごいし、確かに姫様のことずっと僧侶ちゃん嫌ってたしな~うーん俺も婚約者がいなくなった途端僧侶ちゃんを好きなれたらいいんだけど、やっぱり旅の仲間って意識だし女の人のこと暫く信頼できそうにもないしな~。
ちらっと僧侶ちゃんの顔を見たが僧侶ちゃんはただ俺の目を見つめていた。俺は僧侶ちゃんの手を握るとワープ魔法を使い、魔王城の最深部へと向かう。流石に勇者がまたきたと言うことで周りの魔物たちも怯えているし、誰も襲ってこない。相変わらずこの城はおどろおどろしくて好きにはなれないけど、俺好みに改装していこう。
魔王を封印したクリスタルは煌々としており、魔王が座っていた椅子の少し上を浮いていた。半分ドラゴンで半分人型の魔族だという魔王は眠っているのか目をつむったままだ。大きなツノが頭の左右に生えており、豊満な肉付きで男を惑わしそうな見た目をしている。確かに歴代勇者たちが倒せなかったのも無理はない。
「オイ! ユウシャカエレ! ナニシニキタ!」
「魔王の封印を解除にしにきたんだよ!」
そう言って封印を解除すると魔王はゆっくりと玉座に降りてきた。夢半ばなのかうとうととしていた魔王は暫くするとハッと目を覚まし、俺と僧侶ちゃんを見て叫び声をあげ玉座の後ろに隠れてしまった。
「何でまだ勇者と僧侶がここにいる! お前らまだ妾を攻撃するつもりか! お前ら魔王より魔王じゃ!」
「いや魔王、俺たちは王国を出た。俺隣国の聖教国へいくんだけど、そっち攻めないって約束してくれたらお前の封印ずっと解除するけどどうする?」
「え? 王国出るの? 何で?」
「……」
俺が黙っていると僧侶ちゃんが魔王に耳打ちでことの顛末を伝える。魔王は一瞬眉を顰めて俺の顔色をジロジロと見てから「御愁傷様」と一言だけくれた。余計惨めになるわ魔王に同情されるとか。
「まぁ妾も調子に乗ってお前ら倒せると思っていたけどこれだけ力の差があったら何もできし、言うこと聞かなかったら妾のHPカンストしたダメージ食らわせてくるんだろうなと思っている」
「うん、しかも俺たち魔王討伐してまだ一日しか経ってないから全盛期の力だ。どうする?」
「いや言うことを聞くわ! 勇者と僧侶がいなくなったとわかれば王国攻略も容易い! お前らを聖教国までワープさせてやろう、あと資金もやる。存分に隣国を楽しめ! 妾がこの国を統一した暁にはきてやったら歓迎せんことはないぞ」
ふふんと笑いながらそう言った魔王にたくさんのお土産をいただいて俺と僧侶ちゃんは隣国の聖教国へとワープさせられた。これだけ資金になりそうなものがあれば僧侶ちゃんと2人で慎ましい生活も送れるな、王政にも興味はあったけれども聖教国の辺鄙な場所で田舎暮らしってのも悪くないよな。たまに村の子供達に稽古つけたりして、僧侶ちゃんなら治癒魔法でどこでも働けるしいいよな。
「勇者様」
「何僧侶ちゃん」
「私これからガンガン行こうぜで攻めていきますのでよろしくお願いしますね」
『勇者様
私が馬鹿でした。あなたの大事さに気づかず婚約破棄をしてしまったのも全て男爵の口車に乗せられたせいです。真実の愛を間違えていたの。勇者様あなたのことを私本気で愛しています。今その事実にようやく気がつき、泣きながらこの手紙を書いています。
あなたがいなくなり魔王が攻めてきたこの国はあっという間に占領され、私は身分を剥奪されました。男爵様は奥様と別れさせられたことを根に持っているのか私に暴力を振るったりするのです。その時ようやく目が覚めたんです。きっとこれは男爵が私に魅了の魔法などをかけていたのでしょう。私も被害者なのです。
今私が頼れるのはあなただけ。あなただけなんです。勇者様、愛しております。私を迎えにきてください。
いつまでもあなたを待っています』
「まさか三ヶ月もしなうちにこんな手紙を寄越すとは……というか俺の住所どこから聞いたんだろう」
「まぁ勇者とその仲間が住んでいる町としてここ有名になっちゃいましたし。どうしますか勇者様? 返信には大量の剃刀でも入れましょうか?」
「ちゃんと返信を出すよ。あの時魔王を倒さなければよかったのにと言ったあなたの願いを叶えた未来がこれですよって」
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