秘密の書生

御堂どーな

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謎② 雛の本能

2-6

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 お風呂から上がって、寝室のレトロな鏡台のところで、髪にドライヤーをかける――文明の利器があると驚いたら、脇腹をくすぐられた。
 適当に乾かして、ぼーっとする。
 浴衣はなんだかスースーして、居心地が悪い。

 自称・カラスも驚くカラスの行水だという先生は、5分もしないうちにお風呂から上がってきた。
「待たせたね」
 振り返ると、先生は濡れた髪をぼさぼさと拭いていて、俺の隣にすとんと座った。
 目が合う。
 先生の浴衣姿は、ざっくりと小慣れている感じでかっこいいなと思った。

「何を見惚れているんだね?」
「え、いや。文学的に考えたら、こういうのを『水もしたたい男』とかいうのかな、って」
 素直な感想を告げると、先生は、不自然に口をとがらせたまま俺の顔をじっと見た――笑いのごまかし方が雑だ。

「笑いたいなら笑えばいいですよ。もうちょっと慣用句の勉強しますから」
 恥ずかしくなってぶっきらぼうに言ってみたら、先生は、盛大に眉間にしわを寄せて変なことを言い始めた。

「……先に言い訳させてもらうと、きょうはこんなことを教えるつもりじゃなかったんだよ? でもいま僕は、ただただ君の向学心に関心している。だからひとつ教えてあげよう」

「え? 何ですか?」
 言っている意味が分からなくて首をかしげると、先生はまじめな顔で聞いた。

「君が1番尊敬する作家は、江戸川乱歩だと言ったね?」
「はい、そうです」
「乱歩は優れた推理作家でありながら、男色と少年愛のプロフェッショナルでもあった。これは知っていたかな」
「えっと、よく知らないです」

 先生は畳に片手をついて、ずいっと顔を近づけてきた。
「優れたミステリーは、人の業が生むんだ。分かるかい、大河」

 初めて名前を呼ばれた。と思ったら、先生はさらに顔を近づけてきて……そのまま。

「……っ!?」

 空いた片手で後頭部を押さえられて、キスされていた。
 身を引こうとしたけど、力が強い。

「大河」
 くちびるをくっつけたままささやかれて、完全に気が動転する。
「せんせ、」
「いいから。じっとしていなさい」
 低い声で言われて、首をすくめたまま固まってしまった。

「目を閉じて、感触だけをよく覚えて。あとで文章に書き起こしてもらうから、きちんと日本語で考えるんだよ。いいね?」
 声も出ないまま、こくりとうなずく。

 ふにふにと、何度かやわらかくくちびるを当てられる。
 両手で耳の後ろの辺りを支えられたと思ったら、顔の角度を変えて、ちゅ、ちゅ、と音を立ててキスされた。

「ん」
 びっくりして、ちょっと声が漏れてしまう。
 叱られるかと思って片目をそっと開けたら、先生はちょっと笑って、「可愛い」と言った。
 どう答えていいか分からなくて、またぎゅっと目を閉じる。

「大河、少し口を開けてごらん」
 言われた通りにすると、先生の舌が入ってきた。
「ぁ……っ」
 ちょっとパニックになりながらも、必死に覚える。
 先生の舌が俺の舌を探り当てて、ゆっくりと触れてきた。
 あったかくて、やわらかくて、でもたまに先っぽを固くしてつつかれて……。

 うまく息ができなくて顔を離そうとしたら、先生の息も少し上がっていた。
「まだする? 覚えきれてなかったら、同じようにしてあげる」
 どうしようかと思ったけど、いまのところ、全然書ける気がしない。
「あの、もうちょっとだけ、してください」

 先生は、真面目な顔で俺の真正面に座り直し、片手で頬を包んだ。
「大事なのは、五感の繋がりだよ。いいね?」
「分かりました」
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