嘘から恋が芽生えた場合

御堂どーな

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5嘘から恋が芽生えたふたり

5-2

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 昼ごはんは3分でかきこみ、文系棟の隅の踊り場で、藤堂くんが来るのを待った。

 遠くの方では生徒たちの談笑が聞こえるけれど、ここに人が来ることはない。
 何かこっそり話したいことでもあるのだろうか……と思いつつ、話があるなら夜電話すればいいだけなので、これは単純に会いたいということでいいのか?

 悶々としながらひざを抱えていると、パタパタと足音が聞こえてきた。
 顔を上げる……と、思わず目を細めたくなるような、キラキラした男子生徒がいた。
 もちろん、藤堂くんなのだけど。
 改めて学校で見たら、こんなに王子さまみたいなひとが恋人なのかと、少し信じられない気持ちになる。

「あ、ちゃんとブレスレット外してるね」
「いや……それはそうでしょ。チェックをくぐり抜けたからって堂々とつけるような度胸はないっていうか、」
「あしたからもダメ。休みの日だけ。俺と一緒のときだけ」

 藤堂くんは、おれの手首を掴んで動きを封じると、そのまま流れでキスしてきた。

「ん……っ」
「口開けて」
「は、ぁ……っ、」

 強引に舌がねじこまれて、呼吸ができなくなる。
 手首を押さえつける力はより強まり――こんなときに興奮しそうになってしまう自分を、頭の中で叱る。

「ん、ゃ……、誰か来たらバレちゃぅ」
「バレても平気だよ」

 うまく嘘をつくから?

 思考がぼやけ、熱に浮かされたように、本能のままに舌の感触を味わう。
 藤堂くんの息も弾んでいて、なんだか止めどころが分からない。
 正直、本当にしてはいけない反応を体がしてしまいそうで、軽く身をよじった。

「……とぅど、く、だめ……ん、」
「声可愛い。どうしたの?」
「はぁっ、……んぅ」

 藤堂くんが顔を離したので、ぼーっとしたままガラス玉のような瞳を見つめていた……と、そのとき。

「あれ? とーどー? 何してんの?」

 女子の声。心臓が止まりかけた。
 驚きのあまり、背中に氷水をぶっかけられたように、大きくドキッと鳴った心音が一拍詰まる。
 こんな状況、言い訳できない。

 おれが泣きそうになる一方、藤堂くんは落ち着き払った様子で振り返ると、のんきな声で「ああ」と言った。

「なんだ、吉瀬きちせか」
「いや……え?」

 吉瀬と呼ばれたひとは、目を丸く見開いている。
 でも藤堂くんは一切動じていないから、きっとうまい嘘をついてくれるんだと安心した。

 ……その安心は、0.5秒も続かなかった。

「野暮だなあ。キスしてたんだよ」
「はあッ!?」
「どう見てもいいムードでしょ。邪魔だからあっち行って」

 う、嘘つかないの!? ここで!?

 相手は絶句。
 しかし藤堂くんは笑っているだけ。
 おれは半泣きになりながら、サマーニットのすそをくいっと引っ張った。

「ちょ……藤堂くん、なんで、」
「だって、仲良くしてるとこ見られていやだったから」
「ぃゃ、そういう問題じゃなくて……」

 相手の様子をうかがう。
 吉瀬さんは驚愕の表情で、おれと藤堂くんの顔を何度も見比べている。
 そして、困惑を浮かべたまま尋ねてきた。

「えーっと、それは、あんた、ソッチ……的な?」
「ソッチとやらが何を思い浮かべてるのか知らないけど、これは俺の好きな子なので、あんまり見ないでください」
「うそ…………マジか……」
「人生で1回も嘘ついたことないけど」

 そこで嘘つくの!?
 と、もはや開き直ったツッコミが、口をついて出てそうになる。
 吉瀬さんはおれの顔をチラリと見たあと、小さくうなずいた。

「まー、別に自由だね。でも、あんま学校で盛り上がっちゃダメだよ。こんなとこでキスなんかしてたらバレる」
「別に隠してない。マナーとして物陰でしてだけで」
「……ふーん」

 吉瀬さんはひょいと肩をすくめると、ニヤニヤしながら去って行った。
 おれは力が抜けて、藤堂くんにしがみつく。

「い、いまのひと、知り合い? バレちゃったけど……」
「うん、中学から同じ。吉瀬は口がふわっふわに軽いから、すぐ広まると思うよ」
「ええっ!?」
「裏表ゼロな性格だから。すごく仲が良さそうだったとか言ってまわるんじゃないかな」

 藤堂くんの笑顔は、なんとも幸せそうだ。
 怖くないのだろうか?
 噂をされたり、悪口を言われたりするんじゃないのか、とか。

「でもまあたしかに、盛り上がりすぎはよくないね。これ以上可愛い反応されたら、俺も困っちゃうかも。あはは」
「うう……可愛い反応ってなに……」

 分かってるけど。

 もじもじしていると、さっと立ち上がった藤堂くんが俺の手をとって、引き上げてくれた。
 そのままの流れで、ぎゅうっと抱きしめられる。

「ふみ? 大好き。告白とかされたら、藤堂くんと付き合ってるから無理ってちゃんと言ってくれる?」
「こ、告白なんてされないと思うけど……でもまあ、もし聞かれたら、うん。言うね」

 藤堂くんの手首には、お揃いのブレスレットがついている。
 おれは、交わるように彼の手の形をなぞるふりをしながら、細いチェーンをもう1本、その手首に掛けた。

 あの日――新宿の夜に盗んだ、あのブレスレットである。

 片手でフックを開けるのは、盗るのもつけるのも、大して変わらない作業だ。
 熱っぽくキスされながら、藤堂くんの腕の感触を確かめる。

 うん。ちゃんと二重になった。
 見たら驚くだろうな。

「ん……、永遠にキスしちゃいそう」

 そっと顔を離した藤堂くんは、自分の左腕を見て、「え!?」っと声を上げた。

「あれ、え? なんで? え?」
「ふふ、逆再生。初めて会った日の」
「……もうっ、なんでそんな可愛いことするんだよ。我慢したのに」

 思い切り腕を引っ張られて、藤堂くんの胸の中にすっぽりおさまって――おれたちは本鈴を無視して、いつまでもいつまでも、むさぼるみたいにキスをした。


(了)
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