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34. 10月31日 冬の離宮裏の庭園
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翌朝、カーテンを開けて窓の外を見ると、氷の花畑が朝日を浴びて輝く景色が目に飛び込んできた。
わたしは城の庭を散策するために部屋を出た。田舎の散歩服に着替えて、髪型はゆるくまとめるだけ。帽子もなしだ。王都パールモルネと違って、空気が澄んでいて気持ちがいい。どんな悩みも晴れそうだ。
城の裏側にある庭は自然に見えるよう緻密に計算され、川や山々の雄大な背景に見事になじんでいた。五分ほど歩き、城の農場に差し掛かると人影が見えた。ダークカラーのツイードに身を包んだ見覚えのある後ろ姿に、わたしは昨夜の出来事を思い出し、みるみるうちに体中から熱を感じた。
ヘンリー・クラーク。わたしの気配を察知したのか、彼はゆっくりと振り返った。
「おはよう。アリーも散歩?」
ヘンリーは長い脚であっという間に近づいていた。朝の日差しを受けて彼のさわやかな笑顔が輝く。そのまぶしさにため息がこぼれる。
「おはよう。この見事な庭をちゃんとみておきたくて早起きしたんだけど、まさかヘンリーがいるなんて思わなかったわ」
わたしは片手でおくれ毛を直すふりをして、ヘンリーから顔を隠した。ヘンリーに会えた嬉しさで頬が緩んでいる気がする。
ヘンリーはわたしを見ると、一瞬まぶしそうに目を細めてから、「お手をどうぞ」と言った。
わたしは差し出された手を取るのを躊躇した。誰かに見つかって、とんでもないゴシップを流されたら面倒だ。
わたしの考えを見透かしたように、ヘンリーは断る理由を潰しにかかる。
「アリーを守るために必要なことなんだ。転んでけがをしないように、いたずらな魔法植物や生物に足元をすくわれないようにね」
わたしはくすくす笑った。
「あなた冒険のしすぎじゃない?危険なんてそうあるものじゃないんだから」
そう言ったそばから、わたしは足を踏み外した。軽く悲鳴をあげそうになると、ヘンリーはわたしを一瞬にして抱きとめた。
わたしは一体どうしてこうもどんくさいのだろう。離れてお礼を言わなくてはと、頭ではわかっているのに動けない。それは、ヘンリーのしっかりとした腕に包まれていることも無関係ではないのかもしれない。わたしは童話に出てくるナイトに守られるお姫様になったような、むず痒い心地よさを感じていた。
ふいにヘンリーは体を離すと両腕に込めた力を緩めた。わたしと目を合わせ、優しく言った。
「だいじょうぶ?」
「ええ、ありがとう」
わたしがつぶやくと、ヘンリーはほほ笑んだ。
わたしたちは再び歩き出した。今度はわたしの肩を抱きながら。ヘンリーの温かい体温が、秋の早朝には心地いい。背の高いヘンリーの横顔は、見上げないとわからない。一体どういう表情をしているのだろう。わたしは横顔を盗み見る。力強い青い目にはいつも以上に精気が宿り、熱を帯びたように潤んでいる気がするのはわたしの見間違いだろうか。
わたしたちは橋の手前まで歩いてきた。緑のトンネルを抜け、一気に視界が開けると、まばゆいクリスタルの光に包まれた。小川の向こうには日の光を受けてきらめく《氷の花》が咲き、そのきらめきが小川の水面に映っている。おとぎの世界のように幻想的だ。
ヘンリーが辺りを見回し、わたしにそっとささやいた。
「アリー、そこに《ハミングローズ》が咲いているよ」
わたしは《ハミングローズ》に近づき、香り高いその薔薇の匂いと、かすかな歌声を喜び噛みしめた。
「だから朝の散歩って大好き。こんなに素敵な場所があるなんて、まだ夢の中にいるみたいだわ」
《ハミングローズ》はわたしの喜びを感知して、天使のような歌声でハーモニーを奏でてはじめた。その声につられて《木琴草》や《鈴根虫》が現れ、小さなオーケストラが出来上がった。
演奏を聞きながら橋の中腹に差し掛かる。いつのまにかヘンリーの腕に自分の腕を絡めていた。そのことに気がついたのは、ヘンリーにもたれかかった顔を上げて、ヘンリーを見たときだった。ヘンリーはひどく心地悪そうに、そしてどこか不安な表情をしていた。わたしは腕をそっと離し、ロマンチックな状況に浮かれすぎてしまったことを悔やんだ。わたしはまだ自分の気持ちを伝えていない。わたしの心でくすぶっているいくつかのことも尋ねていない。
そろそろはっきりしないといけない時期だ。ぐずぐずし過ぎてヘンリーの心がわたしから離れてしまう前に。もしかして、もう遅すぎた?
ヘンリーの深く青い目に影が潜んでいることに気がつき、わたしは背筋が冷たくなった。ヘンリーに愛想をつかされちゃったのね。ひどく喉が渇いてきて、擦れた声でヘンリーに話しかけた。
「どうしたの?」
「ああ、考え事をしていて」
ヘンリーは思案する顔で空を仰ぎ、意を決したようにまっすぐわたしを捉えた。目には影が消え、代わりに強い意志が感じられた。
「そろそろアリーの気持ちを聞かせてほしい。僕はアリーが好きだ。何よりも大切に想っている。長い間、待たせたことも申し訳なく感じてる。
だけど僕は以前の僕とは違う。フィンチシブ海から戻ってきて、かなりの経験を積んだし、君を養えるだけの資産を蓄えることもできた。今度こそ僕と結婚してほしい」
わたしは言葉につまってしまって、ただヘンリーを見つめ返すことしかできなかった。ああ、嫌われたわけじゃなかったんだ。わたしはずっと心にひっかかっていることを口に出した。
「あなたにどうしても聞きたいことがあるの」
「何だろう。僕に答えられることなら」
「以前のあなたをほとんど知らないの。わたしが知っているのは、冒険家として英雄のようになって帰ってきたヘンリーなの。恋人のようにわたしを扱うあなたよ。でも以前のあなたは素っ気なくて、わたしに一切の関心がないように感じられたわ。
それが一体どうして、急にわたしに優しくしてくれるようになったの?わたしのこと、興味ないんだと思ってたわ」
ヘンリーは傷ついた顔で言った。
「アリーは僕の気持ちを信じられないの?」
「違うわ。ただ、律儀にわたしの婚約者に戻らなくても、あなたならいくらでもきれいな人が寄ってくるでしょうに。それなのに、どうしてわたしなの?」
ヘンリーはわたしから目をそらすと深く息を吐いた。
「確かに以前の僕は何も成し遂げられず、君のご実家の援助を受けるしかなく、親から爵位を受け継いだだけの男だった。悔しさでいっぱいで、アリーのことまで気が回っていなかったかもしれない。
何でもいいから自らの力で成し遂げたいと思って、騎士団に入った。初めて騎士団の仕事が入って結婚式の前日にホームズ家を訪れたとき、アリーが泣きそうな顔で僕に言葉をかけてくれたんだ。
覚えてるかな?どうぞご無事でと、言ってくれたんだ。そのとき、僕は一秒でも早くアリーのもとへ帰ろうと決めた。だから他の誰でもなく、僕はアリーがいいんだ」
覚えている。忘れるわけがない。あれは最悪な日だった。結婚式を明日に控えた夜遅くにヘンリーがやってきて、うちの書斎で話をした。
騎士団の討伐を理由に一方的に結婚式は出来ないと言われて、泣かないように必死に目をしばたかせながら、悪態をつく代わりに皮肉のつもりでかけた社交辞令だ。それがヘンリーに一切通じていなかったとは。いっそのこと平手打ちでもしておけばよかったのかもしれない。
さらに驚くことに、ヘンリーはわたしの言葉を素直に受け取ったばかりか、一年以上ずっとわたしを想っていたらしい。わたしはヘンリーはもう戻ってこないかもしれないと考えていたのに。
「ヘンリーが考えているほど、わたしは健気でもないわ」
「他の男のところへ行かずに、僕の帰りを待っていてくれただろう?」
それはわたしが社交の場が苦手な上に、実家が経済的に困難な状況に陥ったせいだ。それに、ジムといいかんじになったこともある。まあ、絶妙のタイミングでヘンリーが帰ってきて、わたしの気持ちをかっさらっていったのだけど。
「アリーが僕を心配してなかったとしても、実際のところ僕は構わないんだ。こうして僕は戻ってきて、アリーが目の前にいてくれるんだから」
ヘンリーはわたしの手を取った。手袋越しなのに、ヘンリーに触れられて胸が高鳴る。わたしはヘンリーの手を握り返す。
「パーティーで再びあなたを見たときから、わたしはヘンリーのことがずっと頭から離れなかったの。わたしもあなたのことが好きみたい」
ヘンリーは目を丸くして驚いた。わたしはさっそく不安になる。
「どうしてそんな反応なの?」
「いや、もう途中から無理かなって気がしはじめてたから」
わたしが睨みつけると、ヘンリーは笑いながら「ごめん」と言って、わたしを抱きしめた。
わたしはヘンリーの腕にすっぽりと収まりながら、「結婚式はいつがいいかしら?」と尋ねた。
「そうだな、僕の帰還発表があるから、それが落ち着いてからかな」
「わたしは冒険家の妻になるのね」
「そういうことになるかな。僕は冒険の褒美として君をもらえるわけだ」
わたしはくすくす笑った。
「帰還の発表まで時間がないから、このあと王都に戻ったらホームズ家に伺ってもいいかな。ご家族に報告しないと」
「ええ、ヘンリーが来ることを伝えておくわ」
ヘンリーがわたしの髪をなで、わたしは顔をあげた。今まで見たどの表情より男らしい顔をしている。ホームズ家に報告に行くことがそうさせているのかもしれないし、わたしに対して新たに発生する責任がそうさせているのかもしれない。または単に雄大な自然がそう見せているだけかもしれない。
わたしは城の庭を散策するために部屋を出た。田舎の散歩服に着替えて、髪型はゆるくまとめるだけ。帽子もなしだ。王都パールモルネと違って、空気が澄んでいて気持ちがいい。どんな悩みも晴れそうだ。
城の裏側にある庭は自然に見えるよう緻密に計算され、川や山々の雄大な背景に見事になじんでいた。五分ほど歩き、城の農場に差し掛かると人影が見えた。ダークカラーのツイードに身を包んだ見覚えのある後ろ姿に、わたしは昨夜の出来事を思い出し、みるみるうちに体中から熱を感じた。
ヘンリー・クラーク。わたしの気配を察知したのか、彼はゆっくりと振り返った。
「おはよう。アリーも散歩?」
ヘンリーは長い脚であっという間に近づいていた。朝の日差しを受けて彼のさわやかな笑顔が輝く。そのまぶしさにため息がこぼれる。
「おはよう。この見事な庭をちゃんとみておきたくて早起きしたんだけど、まさかヘンリーがいるなんて思わなかったわ」
わたしは片手でおくれ毛を直すふりをして、ヘンリーから顔を隠した。ヘンリーに会えた嬉しさで頬が緩んでいる気がする。
ヘンリーはわたしを見ると、一瞬まぶしそうに目を細めてから、「お手をどうぞ」と言った。
わたしは差し出された手を取るのを躊躇した。誰かに見つかって、とんでもないゴシップを流されたら面倒だ。
わたしの考えを見透かしたように、ヘンリーは断る理由を潰しにかかる。
「アリーを守るために必要なことなんだ。転んでけがをしないように、いたずらな魔法植物や生物に足元をすくわれないようにね」
わたしはくすくす笑った。
「あなた冒険のしすぎじゃない?危険なんてそうあるものじゃないんだから」
そう言ったそばから、わたしは足を踏み外した。軽く悲鳴をあげそうになると、ヘンリーはわたしを一瞬にして抱きとめた。
わたしは一体どうしてこうもどんくさいのだろう。離れてお礼を言わなくてはと、頭ではわかっているのに動けない。それは、ヘンリーのしっかりとした腕に包まれていることも無関係ではないのかもしれない。わたしは童話に出てくるナイトに守られるお姫様になったような、むず痒い心地よさを感じていた。
ふいにヘンリーは体を離すと両腕に込めた力を緩めた。わたしと目を合わせ、優しく言った。
「だいじょうぶ?」
「ええ、ありがとう」
わたしがつぶやくと、ヘンリーはほほ笑んだ。
わたしたちは再び歩き出した。今度はわたしの肩を抱きながら。ヘンリーの温かい体温が、秋の早朝には心地いい。背の高いヘンリーの横顔は、見上げないとわからない。一体どういう表情をしているのだろう。わたしは横顔を盗み見る。力強い青い目にはいつも以上に精気が宿り、熱を帯びたように潤んでいる気がするのはわたしの見間違いだろうか。
わたしたちは橋の手前まで歩いてきた。緑のトンネルを抜け、一気に視界が開けると、まばゆいクリスタルの光に包まれた。小川の向こうには日の光を受けてきらめく《氷の花》が咲き、そのきらめきが小川の水面に映っている。おとぎの世界のように幻想的だ。
ヘンリーが辺りを見回し、わたしにそっとささやいた。
「アリー、そこに《ハミングローズ》が咲いているよ」
わたしは《ハミングローズ》に近づき、香り高いその薔薇の匂いと、かすかな歌声を喜び噛みしめた。
「だから朝の散歩って大好き。こんなに素敵な場所があるなんて、まだ夢の中にいるみたいだわ」
《ハミングローズ》はわたしの喜びを感知して、天使のような歌声でハーモニーを奏でてはじめた。その声につられて《木琴草》や《鈴根虫》が現れ、小さなオーケストラが出来上がった。
演奏を聞きながら橋の中腹に差し掛かる。いつのまにかヘンリーの腕に自分の腕を絡めていた。そのことに気がついたのは、ヘンリーにもたれかかった顔を上げて、ヘンリーを見たときだった。ヘンリーはひどく心地悪そうに、そしてどこか不安な表情をしていた。わたしは腕をそっと離し、ロマンチックな状況に浮かれすぎてしまったことを悔やんだ。わたしはまだ自分の気持ちを伝えていない。わたしの心でくすぶっているいくつかのことも尋ねていない。
そろそろはっきりしないといけない時期だ。ぐずぐずし過ぎてヘンリーの心がわたしから離れてしまう前に。もしかして、もう遅すぎた?
ヘンリーの深く青い目に影が潜んでいることに気がつき、わたしは背筋が冷たくなった。ヘンリーに愛想をつかされちゃったのね。ひどく喉が渇いてきて、擦れた声でヘンリーに話しかけた。
「どうしたの?」
「ああ、考え事をしていて」
ヘンリーは思案する顔で空を仰ぎ、意を決したようにまっすぐわたしを捉えた。目には影が消え、代わりに強い意志が感じられた。
「そろそろアリーの気持ちを聞かせてほしい。僕はアリーが好きだ。何よりも大切に想っている。長い間、待たせたことも申し訳なく感じてる。
だけど僕は以前の僕とは違う。フィンチシブ海から戻ってきて、かなりの経験を積んだし、君を養えるだけの資産を蓄えることもできた。今度こそ僕と結婚してほしい」
わたしは言葉につまってしまって、ただヘンリーを見つめ返すことしかできなかった。ああ、嫌われたわけじゃなかったんだ。わたしはずっと心にひっかかっていることを口に出した。
「あなたにどうしても聞きたいことがあるの」
「何だろう。僕に答えられることなら」
「以前のあなたをほとんど知らないの。わたしが知っているのは、冒険家として英雄のようになって帰ってきたヘンリーなの。恋人のようにわたしを扱うあなたよ。でも以前のあなたは素っ気なくて、わたしに一切の関心がないように感じられたわ。
それが一体どうして、急にわたしに優しくしてくれるようになったの?わたしのこと、興味ないんだと思ってたわ」
ヘンリーは傷ついた顔で言った。
「アリーは僕の気持ちを信じられないの?」
「違うわ。ただ、律儀にわたしの婚約者に戻らなくても、あなたならいくらでもきれいな人が寄ってくるでしょうに。それなのに、どうしてわたしなの?」
ヘンリーはわたしから目をそらすと深く息を吐いた。
「確かに以前の僕は何も成し遂げられず、君のご実家の援助を受けるしかなく、親から爵位を受け継いだだけの男だった。悔しさでいっぱいで、アリーのことまで気が回っていなかったかもしれない。
何でもいいから自らの力で成し遂げたいと思って、騎士団に入った。初めて騎士団の仕事が入って結婚式の前日にホームズ家を訪れたとき、アリーが泣きそうな顔で僕に言葉をかけてくれたんだ。
覚えてるかな?どうぞご無事でと、言ってくれたんだ。そのとき、僕は一秒でも早くアリーのもとへ帰ろうと決めた。だから他の誰でもなく、僕はアリーがいいんだ」
覚えている。忘れるわけがない。あれは最悪な日だった。結婚式を明日に控えた夜遅くにヘンリーがやってきて、うちの書斎で話をした。
騎士団の討伐を理由に一方的に結婚式は出来ないと言われて、泣かないように必死に目をしばたかせながら、悪態をつく代わりに皮肉のつもりでかけた社交辞令だ。それがヘンリーに一切通じていなかったとは。いっそのこと平手打ちでもしておけばよかったのかもしれない。
さらに驚くことに、ヘンリーはわたしの言葉を素直に受け取ったばかりか、一年以上ずっとわたしを想っていたらしい。わたしはヘンリーはもう戻ってこないかもしれないと考えていたのに。
「ヘンリーが考えているほど、わたしは健気でもないわ」
「他の男のところへ行かずに、僕の帰りを待っていてくれただろう?」
それはわたしが社交の場が苦手な上に、実家が経済的に困難な状況に陥ったせいだ。それに、ジムといいかんじになったこともある。まあ、絶妙のタイミングでヘンリーが帰ってきて、わたしの気持ちをかっさらっていったのだけど。
「アリーが僕を心配してなかったとしても、実際のところ僕は構わないんだ。こうして僕は戻ってきて、アリーが目の前にいてくれるんだから」
ヘンリーはわたしの手を取った。手袋越しなのに、ヘンリーに触れられて胸が高鳴る。わたしはヘンリーの手を握り返す。
「パーティーで再びあなたを見たときから、わたしはヘンリーのことがずっと頭から離れなかったの。わたしもあなたのことが好きみたい」
ヘンリーは目を丸くして驚いた。わたしはさっそく不安になる。
「どうしてそんな反応なの?」
「いや、もう途中から無理かなって気がしはじめてたから」
わたしが睨みつけると、ヘンリーは笑いながら「ごめん」と言って、わたしを抱きしめた。
わたしはヘンリーの腕にすっぽりと収まりながら、「結婚式はいつがいいかしら?」と尋ねた。
「そうだな、僕の帰還発表があるから、それが落ち着いてからかな」
「わたしは冒険家の妻になるのね」
「そういうことになるかな。僕は冒険の褒美として君をもらえるわけだ」
わたしはくすくす笑った。
「帰還の発表まで時間がないから、このあと王都に戻ったらホームズ家に伺ってもいいかな。ご家族に報告しないと」
「ええ、ヘンリーが来ることを伝えておくわ」
ヘンリーがわたしの髪をなで、わたしは顔をあげた。今まで見たどの表情より男らしい顔をしている。ホームズ家に報告に行くことがそうさせているのかもしれないし、わたしに対して新たに発生する責任がそうさせているのかもしれない。または単に雄大な自然がそう見せているだけかもしれない。
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