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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略
第456話 迷宮都市 『製麺店』のボーナス支給&寂しい夜
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母子が発表する木琴の演奏も確認出来たし、ボーナス支給も済んだので私達は『肉うどん店』を後にした。
その後は、『製麺店』に寄る事にする。
「こんばんは」
店内に入ると、従業員達が丁度夕食を食べている所だった。
『肉うどん店』は、子供達がいるので食事の時間が早いのだろう。
「オーナー、食事中ですみません」
そう言いながら、席を立ったバスクさんに謝られてしまった。
突然行った私達のタイミングが悪いだけなので、こちらの方こそ申し訳ない気分になってしまう。
「あっ、どうかそのまま食事を続けて下さい。空いているテーブル席を貸してもらいますね」
現在時刻は19時だ。
兄達もそろそろお腹が空いている頃かしら?
どうせこの後、飲みに行くだろうから量は少しでいいか。
私はアイテムBOXに収納してある、『ナン』を使用したカツサンドを取り出しそれぞれ皿に2枚ずつ置いた。
『シチュー』をスープ皿に入れ、紅茶と一緒に私達も夕食を食べる事にする。
先に食べていた従業員達と簡単なメニューにした私達の食事は、ほぼ同時に食べ終わる事が出来たようだ。
「皆さん、店の従業員としてよく働いて下さりありがとうございます。今日は、『ボーナス』を支給しにきました」
「『ボーナス』ですか? それは一体何でしょう?」
聞きなれない言葉に、従業員一同が顔を見合わせる。
「店の利益から、従業員に一部を還元する制度です。給料とはまた別なので、好きに使用して下さいね」
そう言って、私から銀貨20枚(20万円)入った小袋を一人一人手渡す。
『肉うどん店』と『製麺店』の給料は月額10万円なので、2ケ月分だと20万円だ。
来年の4月には昇給も考えている。
働いた経験から、1年後に昇給がゼロだとやる気が出ないしね。
異世界での給料事情は知らないけど、私が経営する店は好きにさせてもらおう。
兄達も、口を挟んだりはしてこないだろう。
受け取った小袋の中身を見て、従業員の1人が突然涙を流し始めた。
「オーナー……。俺をこの店に雇ってくれて、本当にありがとうございます。正直、利き腕を失くした所為でまともな仕事に就けず、一生路上生活になるかと覚悟をしていました。それなのに、住み込みで俺にも出来る新しい仕事を与えてくれた。麺職人という仕事が今では誇りになり、毎日やりがいまで感じるようになったんです。同じ境遇の仲間と一緒に働く事が、どれほど助けになっているか……。同室のこいつがいるお陰で、俺は何ひとつ不自由を感じる事がありません」
そう言って、頭を下げる。
足の不自由な人と手の不自由な人を同室にしたので、お互い出来る事を助け合いながら生活しているんだろう。
でも大丈夫だよ。
ちゃんと全員、失った部分を治してもらえるから。
そう考えた所で、あれっ? となる。
身体の欠損は、切り離された部分が残っていない状態では兄達には治せない筈だ。
どうして治療が可能だと思ったんだろう?
なんだか最近、記憶が曖昧になっている感じがする。
確か、ガーグ老が製作した天蓋付きのベッドを見た時にも妙な既視感があった。
これはリーシャの記憶だろうか?
「オーナー。従業員一同、お礼を言わせて頂きます。毎日食事を取る事で、冒険者時代と同じくらい体力も戻りました。そろそろ製麺の量を増やしても問題ないと思いますので、お任せ下さい」
リーダーのバスクさんに続いて、皆が頷きを返している。
最近はダンジョンを攻略する冒険者達も購入しているので、住人さん達の分が不足しているかも知れないな。
「では、無理をしない範囲でよろしくお願いしますね」
「はい、これからも頑張ります。お前達、頂いた『ボーナス』は全部使うんじゃないぞ!」
最後にバスクさんから皆に注意が飛ぶ。
まぁ、冒険者時代に貯金をしてこなかった人達だからね。
あれば路上生活はしなかっただろう。
用件を済ませ、私達はホームの自宅へと戻った。
兄達を車と一緒に希望する居酒屋に送り届けた後――。
私は何故か急に寂しくなり、リビングに2匹を入れてブラッシングをしていた。
なんだろう突然。
2人が飲みに行く事を、引き留めたいと思ってしまった。
傍にいてほしいなんて、異世界にきて8年が経つというのに……。
今頃、ホームシックになったのかしら?
でもここは自分の家だし、兄も旭もいて独りじゃないのになぁ。
もう直ぐ会いたかった両親にも会う事が出来る。
何を寂しく思う必要があるんだろうか……。
その夜、私はどうしても独りで寝るのが耐えられず、シルバーとフォレストの間に挟まり尻尾を毛布代わりにしリビングで一緒に眠る事にする。
もふもふの毛を触りながら、あの子達の体はどんどん大きくなるので育てるのが大変だったなぁと思いながら意識が薄れていく……。
うんん?
これは双子達の事かしら……。
子供の成長は早いけど、あの2人はそんなに大きく育ったと感じない。
容姿も体型もどちらかというと女性に近い。
この記憶の齟齬はいつから?
考えようとすると、頭に靄がかかったようになる。
2匹の体温で体がポカポカする事もあり、私はそのまま眠りに落ちてしまった。
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お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
これからもよろしくお願い致します。
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その後は、『製麺店』に寄る事にする。
「こんばんは」
店内に入ると、従業員達が丁度夕食を食べている所だった。
『肉うどん店』は、子供達がいるので食事の時間が早いのだろう。
「オーナー、食事中ですみません」
そう言いながら、席を立ったバスクさんに謝られてしまった。
突然行った私達のタイミングが悪いだけなので、こちらの方こそ申し訳ない気分になってしまう。
「あっ、どうかそのまま食事を続けて下さい。空いているテーブル席を貸してもらいますね」
現在時刻は19時だ。
兄達もそろそろお腹が空いている頃かしら?
どうせこの後、飲みに行くだろうから量は少しでいいか。
私はアイテムBOXに収納してある、『ナン』を使用したカツサンドを取り出しそれぞれ皿に2枚ずつ置いた。
『シチュー』をスープ皿に入れ、紅茶と一緒に私達も夕食を食べる事にする。
先に食べていた従業員達と簡単なメニューにした私達の食事は、ほぼ同時に食べ終わる事が出来たようだ。
「皆さん、店の従業員としてよく働いて下さりありがとうございます。今日は、『ボーナス』を支給しにきました」
「『ボーナス』ですか? それは一体何でしょう?」
聞きなれない言葉に、従業員一同が顔を見合わせる。
「店の利益から、従業員に一部を還元する制度です。給料とはまた別なので、好きに使用して下さいね」
そう言って、私から銀貨20枚(20万円)入った小袋を一人一人手渡す。
『肉うどん店』と『製麺店』の給料は月額10万円なので、2ケ月分だと20万円だ。
来年の4月には昇給も考えている。
働いた経験から、1年後に昇給がゼロだとやる気が出ないしね。
異世界での給料事情は知らないけど、私が経営する店は好きにさせてもらおう。
兄達も、口を挟んだりはしてこないだろう。
受け取った小袋の中身を見て、従業員の1人が突然涙を流し始めた。
「オーナー……。俺をこの店に雇ってくれて、本当にありがとうございます。正直、利き腕を失くした所為でまともな仕事に就けず、一生路上生活になるかと覚悟をしていました。それなのに、住み込みで俺にも出来る新しい仕事を与えてくれた。麺職人という仕事が今では誇りになり、毎日やりがいまで感じるようになったんです。同じ境遇の仲間と一緒に働く事が、どれほど助けになっているか……。同室のこいつがいるお陰で、俺は何ひとつ不自由を感じる事がありません」
そう言って、頭を下げる。
足の不自由な人と手の不自由な人を同室にしたので、お互い出来る事を助け合いながら生活しているんだろう。
でも大丈夫だよ。
ちゃんと全員、失った部分を治してもらえるから。
そう考えた所で、あれっ? となる。
身体の欠損は、切り離された部分が残っていない状態では兄達には治せない筈だ。
どうして治療が可能だと思ったんだろう?
なんだか最近、記憶が曖昧になっている感じがする。
確か、ガーグ老が製作した天蓋付きのベッドを見た時にも妙な既視感があった。
これはリーシャの記憶だろうか?
「オーナー。従業員一同、お礼を言わせて頂きます。毎日食事を取る事で、冒険者時代と同じくらい体力も戻りました。そろそろ製麺の量を増やしても問題ないと思いますので、お任せ下さい」
リーダーのバスクさんに続いて、皆が頷きを返している。
最近はダンジョンを攻略する冒険者達も購入しているので、住人さん達の分が不足しているかも知れないな。
「では、無理をしない範囲でよろしくお願いしますね」
「はい、これからも頑張ります。お前達、頂いた『ボーナス』は全部使うんじゃないぞ!」
最後にバスクさんから皆に注意が飛ぶ。
まぁ、冒険者時代に貯金をしてこなかった人達だからね。
あれば路上生活はしなかっただろう。
用件を済ませ、私達はホームの自宅へと戻った。
兄達を車と一緒に希望する居酒屋に送り届けた後――。
私は何故か急に寂しくなり、リビングに2匹を入れてブラッシングをしていた。
なんだろう突然。
2人が飲みに行く事を、引き留めたいと思ってしまった。
傍にいてほしいなんて、異世界にきて8年が経つというのに……。
今頃、ホームシックになったのかしら?
でもここは自分の家だし、兄も旭もいて独りじゃないのになぁ。
もう直ぐ会いたかった両親にも会う事が出来る。
何を寂しく思う必要があるんだろうか……。
その夜、私はどうしても独りで寝るのが耐えられず、シルバーとフォレストの間に挟まり尻尾を毛布代わりにしリビングで一緒に眠る事にする。
もふもふの毛を触りながら、あの子達の体はどんどん大きくなるので育てるのが大変だったなぁと思いながら意識が薄れていく……。
うんん?
これは双子達の事かしら……。
子供の成長は早いけど、あの2人はそんなに大きく育ったと感じない。
容姿も体型もどちらかというと女性に近い。
この記憶の齟齬はいつから?
考えようとすると、頭に靄がかかったようになる。
2匹の体温で体がポカポカする事もあり、私はそのまま眠りに落ちてしまった。
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