自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第517話 冒険者ギルドマスター オリビア・ハーレイの災難 4 薬師ギルドマスター ゼリア様の忠告

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 ゼリア様が部屋に戻られ、開口一番に黒幕の事を聞かれる。
 私は先程、サラ様にお話しした内容を伝えた。

 きっと予想は付いていたのだろう。
 アシュカナ帝国の名前を出しても驚かれる事はなく、呪具を設置した事で教会との癒着ゆちゃくを疑っていらした。

 呪具の解除に教会の司教へ依頼を出す必要があると考えれば、あながちその予想は間違いではない。
 もし教会と何等かの取引をしているのなら、今回の件は失敗に終わったとみてもいいだろう。

 タイミング良くサラ様が『毒消しポーション』の製作にたずさわったお陰で、教会の出番はなくなったのだから。

 最後にゼリア様から、『毒消しポーション』150本分の金貨1,515枚(15億1千5百万円)をしっかり請求された……。
 これは必要経費だから、財務統括も文句は言うまい。

 ゼリア様が治癒術師の御二方に浄化代を支払われた後、サラ様はこれからダンジョンに戻ると言われる。
 本当は危険な状態のダンジョンに戻ってほしくはないが、実力のあるパーティーに冒険者ギルドマスターとしてそんな事は言えず、充分気を付けて下さいと見送るしかなかった。

 さて、私の方でも部下達に今回の犯人を特定するよう命じなければ。
 ダンジョン内に呪具を設置出来た人間は、冒険者以外有り得ない。
 
 ずっと冒険者となり潜伏していたとは……。
 アシュカナ帝国の本気がうかがえる。

 席を立とうとした所、ゼリア様に引き留められた。

「ちょっとお待ちオリビア、まだ話は済んでない。サラちゃんの事だよ」

 私はゼリア様の口からサラ様の名前を出されて、つい身構えてしまう。

「彼女は優秀な冒険者ですが、何かありましたか?」

「とぼけるのはおよし。あの子はハイエルフの王族だろう? 影衆達が、がっちり護衛していたみたいだからね。前回いたのは、もう少し若い連中だったよ。無駄に長く生きていると、あんたより知っている事が多いのさ。普通の王族なら10人の護衛で事足りるはずだが、あの子にはそれ以上の人数が付いている。どう考えても普通じゃない。となると、秘匿ひとくする必要がある能力を持っているんだろう」

 不味い!
 サラ様が、時空魔法適性持ちである事をゼリア様が知っておられる。

 これはエルフ族、最大の秘密事項だ。
 私の命と引き換えにしても、ゼリア様の口を封じる必要がある。

 一瞬で戦闘態勢に移ると、私は袖に仕込んだナイフに手を掛けた。

「そう殺気立つんじゃない。白狼族は世界樹の精霊王と契約を交わしているんだよ。秘匿情報は漏らさないから安心おし」

 王族に加護を与える世界樹の精霊王と契約を交わしている?
 一旦いったん、殺気を抑え浮かしていた腰を下ろし話を聞く態勢に戻った。

「やれやれ、まだ若いね。話は最後まで聞くもんだよ。私が言いたいのは、あの子の周囲をもっとしっかり見張ってやれという事だ。あんたの父親は、まだマケイラ家の当主と喧嘩をしているんだろう? もういい加減、子供じゃないんだから過ぎた事は水に流して、今はサラちゃんの事を優先させな。これからアシュカナ帝国の王があの子を狙いにくるだろう。私にも言えない事があるから、これ以上は話せない。いいかい? 父親に良く良く言い聞かせておくんだ。馬鹿な事にこだわって、大切な姫様を失う事になる前にね」

 それだけ言うと、ゼリア様が話はこれで終わりとばかりに席を立つ。

「ご忠告、ありがとうございます」

 私もならって席を立ち、深々と一礼した。

 確かに、両家が仲違いしているままの状態は良くない。 
 過去に何があったかは知らないが、いい加減忘れてもいい頃だろう。

 ゼリア様が部屋から出た後で私も退出した。

 冒険者ギルドに戻って直ぐに、私は事の顛末てんまつを話すため職員を集める。
 ダンジョン内で複数の呪具が発見された事。
 その解除を行うために、浄化出来る品をアマンダさんに渡してある事。
 浄化が出来る品については、一切の公言をしない事。

 これは教会に知られると非常に厄介な問題になるからだ。
 
 最後に、これからダンジョンへ攻略に向かう冒険者達に事情を説明し引き留める事を厳重に指示した。

 あれだけ多くの『毒消しポーション』があれば、解除は間に合うだろう。
 流石さすがに100個以上設置されているとは思えない。

 後は副ギルドマスターのウォーリーに留守を任せ、私は自分の屋敷に向かった。
 いつもより早い帰宅に、執事長があわてた様子で出迎える。

 私は情報収集を担当している部下を呼び出してほしいと告げた。
 執事長は何も言わず「呼んで参ります」と答え、その場から足早に部下がいる方へ向かう。

 5分程すると、まとめ役がやってきた。

早速さっそくだが用件を伝えよう。ダンジョンに呪具が複数発見された。解除の手配は既に済んでいる。問題は、冒険者に紛れ込んだアシュカナ帝国人の割り出しだ。お前達に探してほしい」

「あ~、その件ですが……」

 何故なぜ口籠くちごもる部下を不思議に思い首をかしげる。

「どうした? そんなに難しい仕事じゃないだろう」

「それが……既に犯人の割り出しは済んでいます。というか……、メモ書きと一緒に簀巻すまきにされ屋敷に放り込まれたようで……」
 
「はっ!? 一体誰が……」

 そこまで口にして、影衆達の仕業しわざだと直ぐに気付く。
 仕事が早い!

「あのっ、これが書かれていた羊皮紙です」

 文面を確認すると、今回呪具を設置した犯人だとある。 
 詳しい事情を聞き出されよと、ご丁寧に指示まであった。

「その者達は、生きている状態か?」

「はい、勿論もちろん。毒を摂取したようですが、解毒済みらしくピンピンしております」

 あぁ、ゼリア様から渡された『毒消しポーション』が役に立ったらしい。
 
「では、私も一緒に尋問の場に行こう」
 
 このふざけた事をしでかした理由を聞いてやろうではないか。
 あぁその前に、父が不在のため私からマケイラ家の当主へ連絡をしないといけないな。

「悪い、マケイラ家へ連絡をするから先に行ってくれ」

「はっ!」

 私は念話用の魔道具とハイエーテルを取り出し、マケイラ家の当主へ連絡を始めた。

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