自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

文字の大きさ
411 / 756
第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第550話 椎名 響 28 消えた娘の捜索

しおりを挟む
 ガーグ老達がくるまでに、まずは先立つものが必要だ。
 お忍びで冒険者をした時、貯めたお金を部屋の隠し扉から取り出す。
 実は、この扉から王宮へと続く秘密の通路にいける。
 最終的には王の書斎に通じる道だ。
 今は必要ないが、いずれ役に立つ日がくるかもな……。

 それから王都が詳細に描かれた地図を広げ、沙良の居場所を予想する。
 もし子供が連れ出したのなら、娘は意識がない状態かも知れない。
 近くに仲間がいる場所まで案内しただけなのか?
 騒がれるのを防ぐため、一緒に連れ去られてしまったのか……。

 子供が巻き込まれたかどうかで、沙良の行動は大きく制限される。
 人質を取られている状態だと迂闊うかつな真似は出来ないだろう。
 意識のない少女を運ぶには、人目に付かない馬車が必要だ。
 だが武器屋の近くに馬車は止まっていなかった。

 他に考えられるのは、騎獣か……。
 しまったな、シルバーと泰雅たいがを連れてくれば良かった。
 テイムされた従魔は主人の居場所が分かるから、直ぐに沙良を発見出来たのに……。
 今日は奏屋かなでやとガーグ老の家具工房へいくだけの心算つもりだったから、2匹を置いて出掛けたのが悔やまれる。

 沙良を見失って30分。
 馬車ならまだ王都内にいるはずだ。
 騎獣は魔物の種類に依って速度が変化するが、それでもまだ王都を出てはいないだろう。
 今回の件は、アシュカナ帝国の仕業しわざじゃないと踏んでいた。
 沙良は迷宮都市にいると知っているからだ。
 だから、これは事前に計画された犯行ではない。
 王都で沙良の姿を見掛け、目を付けられたのだと思う。

 次に足を確保しようと、マジックバッグ100㎥に必要な物を詰め込み家の外へ出る。
 すると突然、庭にガーグ老達影衆が姿を現した。
 やけに早いな!
 総勢20名、その中には現当主の姿もある。
 ドラゴンへ変態した2匹の背中に乗ってきたんだろう。

「待たせた王よ! して状況を確認したい。御子が連れ去られて、どれくらいだ?」

 ガーグ老から、無駄な言葉を省き単的に質問された。
 俺はドワーフの鍛冶職人がいる店を出た直後、娘が消えて30分程だと話す。
 その際、娘が男の子に声を掛けられた件も伝えておいた。

「子供か……。御子は子供には甘いでの、全く警戒せんかったのだろう。所で王よ、何のために通信の魔道具を渡したと思っておるのか? 王都へいくなら、事前に連絡をしてくれねば困る。それに、どうして従魔を連れておらぬのだ。おれば、御子をみすみすさらわれる事もなかったであろうに」

 ガーグ老から苦言をていされ、その通りだった俺は返す言葉もない。

「悪かった、俺のミスだ。それで聞きたいんだが、ポチとタマに娘を追跡するのは可能か?」

 いつきの娘である沙良は、母親と魔力が似ているかも知れない。
 現在の主人はガーグ老だが、もともと樹の従魔達である。
 
「そう思い、現在捜索を任せておるわ。御子の魔力は覚えておろう。魔力封じの魔道具を付けられていなければ、見付けられると思うが……」

 そこで、ガーグ老の顔に焦りが浮かぶ。
 娘の姿は、どう見ても貴族出身である。
 魔法を使用出来ると分かれば、魔力封じの魔道具で拘束されている可能性が高い。
 ならば敵を無力化するドレインの魔法は、使用不能かもしれないな。

 時空魔法は使えるのか?
 いや、あれも魔力が必要だろう。
 娘が自力で戻るのは難しいか……。

「現在、王都にいるマケイラ家の諜報ちょほう員に連絡し、御子の目撃情報を集めておる。ここは連絡がくるまで待つ方が懸命であろう」
 
 ガーグ老から、無暗に動き回らない方がいいと言われる。

「では、家で待機する。直ぐに動けるよう、馬か騎獣の手配をしてくれないか?」

 俺の言葉に、三男役の影衆がうなずき塀を乗り越えていった。
 俺達は家の中に入り連絡を待つ事にする。
 その間、今回の犯人像を話し合った。

 やはり、ガーグ老もアシュカナ帝国である可能性はないと言う。
 背が低く見た目が幼い美少女を、簡単にさらえると思ったんだろう。
 だとすれば、犯人の割り出しは難しい。
 貴族の好事家ならば、王都の家に隠すかも知れないが……。
 奴隷商が相手の場合、足が付かないよう王都を出て直ぐにでも場所を移すに違いない。

 俺達は発見の報告をじりじりと待つ。
 意識のない娘がひどい仕打ちを受けていたらと思うと、気が気じゃなかった。
 しばらくして、不意にガーグ老が顔を上げる。
 2匹からの連絡だろうか?

「王よ、御子の現在地が分かった。この場所に見覚えは?」

 そう言って、ガーグ老が地図にある屋敷を指す。
 ここは……!?
 どういった偶然なのか、それは第一王妃の没落した生家だった。

 まさか、此度こたびの一件は怨恨えんこんの可能性が?
 当時3歳だった第一王妃の息子は300年経った今、生きてはおるまい。
 では母親を殺された息子の怨嗟えんさの声を受けて育った、息子の系譜けいふによる仕業だろうか……。
 嫌な予感がして、背中にじっとりと汗をく。
 俺はかすれた声になり、知っている事を告げた。

「そこは第一王妃の生家だった屋敷だ」

「……急ぎ向かわねば、御子に命の危険がしょうじよう」

 全員が無言で家から出る。
 既に人数分の馬と騎獣が準備されていた。
 俺は迷わず、騎獣であるバイコーンに飛び乗り貴族街へと向かう。

 あぁ、沙良……。
 こんな所で、過去の因縁いんねんがお前に降りかかるとは!
 今、助けにいくからもう少し頑張ってくれ!

 -------------------------------------
 お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
 読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
 応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
 これからもよろしくお願い致します。
 -------------------------------------
しおりを挟む
感想 2,578

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。