自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

文字の大きさ
623 / 758
第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第758話 旭 樹 再召喚 52 ケスラーの民 4

しおりを挟む
 娘の冒険譚ぼうけんたんを聞こうとする前に、夕食の準備が整った。
 また時間がある時にでも聞いてみよう。
 材料を焼く段階になると、響が張り切り出した。

「肉を焼くのは任せてくれ」

 トングを持ち、嬉々ききとして大きく切り分けられた肉を反す。
 それくらいなら俺にも出来そうだ。
 
「姫様。……肉が炭になりそうだの。ここは、慣れた者に任せた方がよかろう」

 ガーグ老にそう言われ、バーベキュー台から引き離された……。
 少しでも役に立とうとし焼肉のタレを小皿に入れようとしたところ、セイから止められる。

「ヒルダ様。そのまま出してはいけません。これを、お使い下さい」

 陶器壺を渡され、日本語が大きく書かれた焼肉のタレをさっと仕舞しまわれた。
 あぁ、そうか。
 異世界人には容器そのものも、奇異に見られるんだな。
 俺はセイから受け取った陶器壺を開け、ケスラーの民が普段使用している木皿へ入れていく。
 族長の妻と息子のハイド、それに側近5人が夕食を共にする。
 焼けた肉や野菜を大皿へ盛り、木皿のタレに浸けて食べる料理だと伝えた。

「皆の者、エルフ国の料理を頂こう。この黒い液体は良い匂いがしますな」

 族長が肉をフォークで刺し、焼肉のタレに浸け大きく口を開ける。

「これはっ!? 何と美味な食べ物であるか! 姫よ、高価な調味料を提供して頂き感謝致します」

 複雑な香辛料を合わせた高価な調味料だと思われたらしい。
 特に否定せず、美味しく食べてもらおう。
 族長の後に続き、ハイドや側近達も肉から手を付けだした。
 今回用意したのは1ヶ月は保存が効く魔物肉で、ハイオーク・コカトリス・ミノタウロスとダンジョン産の物だ。
 どれも異世界では高額な肉の部類に入るだろう。
 
 族長の妻は初めて食べる味に感激し、焼肉のタレを是非ぜひ売ってほしいと言う。
 だが実際は、エルフ国の交易品にないので値段のつけようがなく困った。
 勝手な事をすれば、外交を担当している兄達に怒られそうだ。

「これは秘伝・・の調味料だから、売り物じゃないのよ。ごめんなさいね」

 娘が秘伝・・だと言っていたのを思い出し断っておく。

「そうでございますか……。とても残念です」

 妻の言葉と共に、族長達も肩を落としている。
 それから、今しか機会がないと思ったのか猛然もうぜんと食べ出した。
 あっ、肉ばかりじゃなく野菜も食べてくれよ?
 そんな中、セキだけは食事が不要なようで手を付けない。
 竜族は大気中から魔力を摂取しているんだろうか……。
 弟のセイが食事をしている姿を珍しそうに見ていた。

 食後、俺達は場所を借りマジックテントを設置する。
 風呂に入りたかったので、族長の天幕で一緒に寝るのは遠慮したのだ。
 バスタブを土魔法で作り、水魔法と火魔法を併せお湯を張る。
 夫婦の俺達は2人でマジックテントを使用。
 ずっと花嫁衣裳を着ていた俺は、早く脱ぎたくて仕方ない。
 化粧をほどこされた顔も気持ち悪いし、落としてしまいたかった。

「先に入っていいか?」

「あぁ入浴剤は、これを使ってくれ」

 彼もアシュカナ帝国へ行くと決めてから、日用品を腕輪に収納していたようだ。
 入浴剤まで俺は気が回らなかったな。
 一番風呂を譲られ、その場で服をぽいぽい脱ぎ出し濡れないよう収納する。
 女官長達の力作が汚れたら悲しむだろう。
 何の素材か不明な衣装は、洗濯方法が分からないし……。

「お前、今はヒルダだと忘れてるのか? 俺の前でも、恥じらいを持て」

 真っ裸になった俺から背を向け、響があきれた口調で注意する。
 親友の前では演技する必要がないから、女性の体だと失念していた。

「あ~悪い。出るまでのぞくなよ」

「そんな真似はしない」

 いちいち面倒くさいなと思いながら、乳白色の入浴剤を入れ風呂に入った。
 風呂の水を収納し、バスタブの中で体を洗う。
 逆にした方が良かったかも……。
 もう一度、新しく湯を張り響と交代した。
 彼が風呂に入っている間、長くなった髪を風魔法と火魔法を使用し乾かしていると、

「魔法を器用に使うんだな」

 感心したように見つめられる。

「魔法はイメージが大事なんだよ。人間は、呪文を唱えて発動させるんだよな。それじゃ、一定の効果しか出ないんじゃないか?」

「魔法学校で、そう習うから仕方ない。娘は自由に使用しているみたいだが……。魔法に関しては、教会が裏で何かをしてそうだ。帝国も厄介やっかいだが、教会は更にたちが悪い。今の俺の立場じゃ、どうこう出来る問題じゃないがな」

「へぇ~。教会って、帝国とつながりがある組織だろ? ダンジョンに呪具を設置された時、解呪しようと冒険者ギルドに来たらしいじゃん」

「多分、事前に帝国と何らかの取引があったんだろう。沙良達が薬師ギルドで『毒消しポーション』を作ったため、司教が介入出来なくなった。高額な浄化代を請求する心算つもりの宛てが外れ、冒険者ギルド前で騒ぎを起こした司教の関与がバレ捕まったが、本人は口を割らず処刑された。結局、教会組織と帝国の関係はあばけずトカゲの尻尾切りで終わったな」

「うわぁ~なんだか、そっちの方が面倒な感じ。帝国の王をさっさと片付けて、教会も行ってみる?」

「聖王国へか? 教会組織は、もう少し調べてからの方がいい。少し、嫌な予感がする」

 響がそう言って押し黙った。
 俺は教会に関する知識がないから、彼の意見を優先させよう。
 まぁ、地球も宗教で戦争が起きるくらいだからな。
 調べもせず手を出すのは止めた方がいいんだろう。

 明日に備え早目に就寝しようと、バスタブを収納しベッドを出す。
 響はマジック寝袋で寝るそうだ。
 ベッドを準備していた俺に笑っていた。
 いや、どうせなら快適に眠りたい。
 俺はベッド派なんだよ!

 -------------------------------------
 お気に入り登録をして下さった方、エールを送って下さった方とても感謝しています。
 読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
 応援して下さる皆様がいて大変励みになっています。
 これからもよろしくお願い致します。
 -------------------------------------
しおりを挟む
感想 2,585

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。 2025/9/29 追記開始しました。毎日更新は難しいですが気長にお待ちください。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。