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1章魔獣になりましょう

19話爽やか村

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 昔、爽やか村には人間の容姿をした河魚の一族が平穏に暮らしていた。
 一年を通して温暖差が少なく、過ごしやすい気候になっている。
 また、近くには牛谷山と呼ばれる自然溢れる山々があり、なだらかな傾斜になっていて、そこから下へと吹く風がとても気持ち良く、爽やかという表現が相応しく、この地名の由来になっている。
 主にこの村に住む魔獣は山々から流れる細い河から小さな魚を捕まえ、暮らしている。
 このような素晴らしい自然だけでなく、外敵は資源を奪いにやってくることはない程安全な村。
 なぜなら、近辺にある牛谷山には暴れ坊で有名な闘牛《ミノタウロス》が棲息し、爽やか村に住む河魚族を外敵から守っているからだ。
 では、なぜ闘牛族が河魚族を守るのか。
 主な理由はこの山々の河から流れ、逃げていく河魚の一種、筋肉増強肴《プロテインフィッシュ》を闘牛族が欲しているということだろう。
 この魚は河の中で縦横無尽に動くため捕獲するのが困難、まして闘牛族のような大型系タイプには器用な技術を要するためにより困難を深める。
 そこで、力は無いが器用で河を知り尽くした河魚族に捕獲してもらい、代わりに闘牛族がこの爽やか村を外敵から守るということを条件に取引が成立した。
 そんな平和な村で玄奘は健やかに育っていった。
 またそのような取引があるためか闘牛族と交流が盛んで、後に暴れ坊と恐れられる闘牛《ミノル》とも山や川で遊んだり、楽しく暮らす日々。
 しかし、そんな平和な日々は永遠に続くはずはなかった。闘牛族と河魚族の亀裂のきっかけは小さなことから始まった。
 大人同士間で筋肉増強肴の配分で揉めて、怒りを抑え切れずある闘牛族の男が河魚族の女を殺してしまう。
 
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