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1章
邂逅1
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[AM 8:00]
「う‥‥ぐ‥‥‥‥」
滝のように汗をかきながら目を覚ました。
夢を見ていたのだ。良いものではない。
顔も、名も知らない、赤の他人が傷つく夢。
普通の人はこれを悪夢と切り捨てるのだろう。
しかしこれは正夢だ。
いや、この場合は予知夢というべきか…
その赤の他人である誰かは今夜悲劇に合う。
当然助けるさ。
それが俺の日常…そういうものだ。"
[PM 10:00]
「あの子か…」
使い古した外套を身に纏い、廃ビルの屋上から路地を見下ろす。
そこには夢に出てきた少女が歩いていた。
18歳程だろうか?銀色の長髪に碧眼がよく映えている。
高い場所というのは良いものだ。
世界が自分と遠ざかり、無関係なものに見えてくる。
この世界で起きる悲劇は自分とは関係のないもの、そう思うことができる。
だがその感覚は嘘だ。
これからあの少女は死ぬかもしれない。そしてそれを俺は知っている。
彼女の悲劇と俺は関係してしまっているのだ。"
少女は裏路地を一人で歩き進む。
「どうしてこんなところを一人で出歩くんだ…」
半ば呆れていると、暗闇の奥から無数の眼光が少女を突き刺す。
その正体には見覚えがある。
『ケモノ』だ。
この星に生きるものであれば誰もが知る異形。
四足歩行や二足歩行、中には翼を持つ型もいる。
有機物、無機物、あらゆるものを捕食しエネルギーとする。人類をも凌ぐ究極の雑食性。
奴らにとっては人間もエネルギー源でしかない。
平たく言えば人類の脅威だ。
そのケモノの群れを前にして、少女は臆することなく歩を進める。
「目が見えないのか?」
そう思いたくなるほどに目の前の光景は馬鹿げていた。
このままでは少女が八つ裂きにされることは目に見えている。
それはダメだ。
「殺るか…」
ワイヤーを使って屋上から降り、少女とケモノの間に割って入る。
少女は突如現れたに男に驚く素振りも無い。
「下がっててくれ、俺がやるから」
腰に携えた刀を鞘から引き抜く。
刀と言っても大層なものではない。業物と呼ぶには程遠い。
切っ先は平らで、切れ味は中の下、頑丈さだけが取り柄の骨董品。
刀というよりは鉈に近いかもしれない。
しかしケモノを叩き斬るにはこれで十分だ。
そもそもまともな刃物など中々手に入らない。これでも上等な部類だ。
ケモノを眼光を一身に受け、刀を構える。
「…」
どちらが先に動くか、互いに相手の動きを伺い無音の時間が流れる。
先に動いたのはケモノだった。
鋭い爪を突き立てる。
男はそれを正面から刀で受け止め、はじき返す。
ガキンッ!
「ギャウッッッ!」
ケモノの大勢を崩し、すかさずその首元に刀身を滑り込ませる。
そのまま力任せに振り下ろし、地面もろともケモノの首を叩き斬る。
ゴォォォン…!
と周囲に鳴り響く轟音に他のケモノも怖気ずく。
その隙を逃すまいとケモノの群れに突っ込み一気に畳みかける。
"グシャッ"というケモノの骨が砕ける感触が刀身から伝わる。
普通なら嫌悪するこの感覚も、今となっては慣れてしまった。
健全ではない。でもそうする必要がある。そうじゃないと背後にいる少女が死ぬ。
何かから逃れるかのように、一心不乱にケモノを狩る。
しかしケモノは無尽蔵に溢れ出ていた。
「多いな………しまった!」
集中が乱れた一瞬の隙、ケモノの爪が左腕を切り裂いた。
指先に滴る血がポツポツと地面に落ちる。ケモノはそれに鼻息を荒げている。
男はケモノの全滅を諦め、時間稼ぎにシフトする。
「あんたは逃げ―」
少女にそう言いかけると、視界の前を何かが一閃する。
そしてその何かは目の前を通り過ぎる刹那に呟いた。
「私がやる…」
さっきまで背後にいた少女だった。
少女は一直線にケモノの群れへと飛び込む。
その間、小声で何かと唱えていた。
次の瞬間、手元に蒼色に光輝く剣のようなものが現れた。
剣が光を放っているのではない。光そのものが剣と化していた。
「なんだあれは…?」
少女は目にも止まらぬ速度で光の剣を振りかざす。
残っていたケモノが瞬く間に両断され、その断末魔すらも置き去りにされていた。
「速すぎる…」
少女は最後のケモノに止めを刺すと、こちらを振り向いた。
「あなたがいなくても何とかなった…」
予想外の少女の言葉に一瞬思考が停止する。
「は…なんて…?」
「あなたの助けはいらなかった…」
「そ、そうか…ごめん…」
反射的に謝ってしまったが、俺が最初にケモノの数を減らしていなければこの少女は多少なりとも怪我を負っていたかもしれない。
しかし改めて反論する気にはならなかった。
最終的に彼女の助けが無ければ、俺の方こそ死んでいたかもしれないからだ。
「あなた…いつもこんなことをやっているの…?」
少女は続けて口を開いたが、そこから聞こえる言葉にはどこか生気が無かった。
感情を感じられない。
「ああ、そうだよ。だって危ない目に合っている人は放っておけないだろう?」
俺がそう言うと、彼女は表情を曇らせた。
「嘘だ…」
彼女が何を言いたいのかわからなかった。
「何を言っ…」
彼女に問いかけようとしたその時
閃光が頬をかすめた。"
「…!」
目の前の少女は何もしていない。
別の何かであることはすぐに分かった。
誰だ…!
閃光の発生源を見ると、そこには別の女がいた。
「う‥‥ぐ‥‥‥‥」
滝のように汗をかきながら目を覚ました。
夢を見ていたのだ。良いものではない。
顔も、名も知らない、赤の他人が傷つく夢。
普通の人はこれを悪夢と切り捨てるのだろう。
しかしこれは正夢だ。
いや、この場合は予知夢というべきか…
その赤の他人である誰かは今夜悲劇に合う。
当然助けるさ。
それが俺の日常…そういうものだ。"
[PM 10:00]
「あの子か…」
使い古した外套を身に纏い、廃ビルの屋上から路地を見下ろす。
そこには夢に出てきた少女が歩いていた。
18歳程だろうか?銀色の長髪に碧眼がよく映えている。
高い場所というのは良いものだ。
世界が自分と遠ざかり、無関係なものに見えてくる。
この世界で起きる悲劇は自分とは関係のないもの、そう思うことができる。
だがその感覚は嘘だ。
これからあの少女は死ぬかもしれない。そしてそれを俺は知っている。
彼女の悲劇と俺は関係してしまっているのだ。"
少女は裏路地を一人で歩き進む。
「どうしてこんなところを一人で出歩くんだ…」
半ば呆れていると、暗闇の奥から無数の眼光が少女を突き刺す。
その正体には見覚えがある。
『ケモノ』だ。
この星に生きるものであれば誰もが知る異形。
四足歩行や二足歩行、中には翼を持つ型もいる。
有機物、無機物、あらゆるものを捕食しエネルギーとする。人類をも凌ぐ究極の雑食性。
奴らにとっては人間もエネルギー源でしかない。
平たく言えば人類の脅威だ。
そのケモノの群れを前にして、少女は臆することなく歩を進める。
「目が見えないのか?」
そう思いたくなるほどに目の前の光景は馬鹿げていた。
このままでは少女が八つ裂きにされることは目に見えている。
それはダメだ。
「殺るか…」
ワイヤーを使って屋上から降り、少女とケモノの間に割って入る。
少女は突如現れたに男に驚く素振りも無い。
「下がっててくれ、俺がやるから」
腰に携えた刀を鞘から引き抜く。
刀と言っても大層なものではない。業物と呼ぶには程遠い。
切っ先は平らで、切れ味は中の下、頑丈さだけが取り柄の骨董品。
刀というよりは鉈に近いかもしれない。
しかしケモノを叩き斬るにはこれで十分だ。
そもそもまともな刃物など中々手に入らない。これでも上等な部類だ。
ケモノを眼光を一身に受け、刀を構える。
「…」
どちらが先に動くか、互いに相手の動きを伺い無音の時間が流れる。
先に動いたのはケモノだった。
鋭い爪を突き立てる。
男はそれを正面から刀で受け止め、はじき返す。
ガキンッ!
「ギャウッッッ!」
ケモノの大勢を崩し、すかさずその首元に刀身を滑り込ませる。
そのまま力任せに振り下ろし、地面もろともケモノの首を叩き斬る。
ゴォォォン…!
と周囲に鳴り響く轟音に他のケモノも怖気ずく。
その隙を逃すまいとケモノの群れに突っ込み一気に畳みかける。
"グシャッ"というケモノの骨が砕ける感触が刀身から伝わる。
普通なら嫌悪するこの感覚も、今となっては慣れてしまった。
健全ではない。でもそうする必要がある。そうじゃないと背後にいる少女が死ぬ。
何かから逃れるかのように、一心不乱にケモノを狩る。
しかしケモノは無尽蔵に溢れ出ていた。
「多いな………しまった!」
集中が乱れた一瞬の隙、ケモノの爪が左腕を切り裂いた。
指先に滴る血がポツポツと地面に落ちる。ケモノはそれに鼻息を荒げている。
男はケモノの全滅を諦め、時間稼ぎにシフトする。
「あんたは逃げ―」
少女にそう言いかけると、視界の前を何かが一閃する。
そしてその何かは目の前を通り過ぎる刹那に呟いた。
「私がやる…」
さっきまで背後にいた少女だった。
少女は一直線にケモノの群れへと飛び込む。
その間、小声で何かと唱えていた。
次の瞬間、手元に蒼色に光輝く剣のようなものが現れた。
剣が光を放っているのではない。光そのものが剣と化していた。
「なんだあれは…?」
少女は目にも止まらぬ速度で光の剣を振りかざす。
残っていたケモノが瞬く間に両断され、その断末魔すらも置き去りにされていた。
「速すぎる…」
少女は最後のケモノに止めを刺すと、こちらを振り向いた。
「あなたがいなくても何とかなった…」
予想外の少女の言葉に一瞬思考が停止する。
「は…なんて…?」
「あなたの助けはいらなかった…」
「そ、そうか…ごめん…」
反射的に謝ってしまったが、俺が最初にケモノの数を減らしていなければこの少女は多少なりとも怪我を負っていたかもしれない。
しかし改めて反論する気にはならなかった。
最終的に彼女の助けが無ければ、俺の方こそ死んでいたかもしれないからだ。
「あなた…いつもこんなことをやっているの…?」
少女は続けて口を開いたが、そこから聞こえる言葉にはどこか生気が無かった。
感情を感じられない。
「ああ、そうだよ。だって危ない目に合っている人は放っておけないだろう?」
俺がそう言うと、彼女は表情を曇らせた。
「嘘だ…」
彼女が何を言いたいのかわからなかった。
「何を言っ…」
彼女に問いかけようとしたその時
閃光が頬をかすめた。"
「…!」
目の前の少女は何もしていない。
別の何かであることはすぐに分かった。
誰だ…!
閃光の発生源を見ると、そこには別の女がいた。
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