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眠りの公爵令嬢

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「ローゼリアお嬢様、もう朝ですよ。」そう言いながら、使用人らしき女性が朝の光を入れる為に、白いレースカーテンを開け、窓を開けた。途端に部屋の中の大部分を占めていた、重い空気が軽い心地の良い空気に変わる。
室内には部屋の中央に天蓋ベッドの上で眠る少女の姿がある。
ホワイトゴールドの長い髪を枕に垂らし、長いまつ毛を閉じている。
ベッドは、ベッドカーテンで仕切られており、顔を見ることはできない。
女性は少しベッドカーテンを開け、少女の様子を確認し、
「お嬢様、今日もお目覚めになられないのですね。」そう言うと、
白い布を敷いた床の上で公爵邸の温室から貰ってきた、カスミソウ.白ユリ.デルフィニウムの花束を花瓶に生け始めた。
何も音がしない室内にはチクタクと時計だけが動いている。
時間だけがこの部屋の中では流れていく。
枯れてしまった花を白い布の上に置き、女性は花瓶を洗う為に一回部屋を出た。
少し経ってから、女性が白い花瓶を持って中に入ってきた。
花瓶の中に水を入れると、花の配色のバランスを見て花を生けていく。花が生け終わると、余った一輪の花を持ち、少女が眠るベッドのカーテンを開け、少女のホワイトゴールドの髪に花を掛けた。
女性は部屋から出る前に、「お嬢様、またお目覚めになられる日をお待ちしております。」そう言うと、扉を開け部屋から出て行った。
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オルステッド.リエル.ローゼリアは長年眠っていた。
8歳の頃、乗っていた場所が突然の事故で崖の上から転落した時から。
今でも、あの事故は痛々しい事件として有名だった。
ガントリア山での転落事故。オルステッド公爵家の公爵夫人、オルステッド.マリア.クラリス様が亡くなり、愛娘のローゼリアも辛うじて生きてはいるが、ずっと眠りについた状態という悲しい事件。
長い長い年月が経っても、痛々しいあの事件が忘れ去られることは無かった。
あの時から、ローゼリアはずっと眠ったまま。
そして、今日も目覚めることはない。
まるで、ただ生きている人形みたいに眠っている。

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