見当違いの召喚士

比呂

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第1話

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「人生ってさぁ、失敗の連続だよね」

 うんうん、と自分で言っておいて、アルマンは頷く。
 遠い眼をして、本当に遠くに見える山々を、窓枠の内側から眺めていた。

「そうですか……」

 応えたのは、愛想笑いをする村長だった。

 村の中でも大きめの屋敷にある応接間で、二人は向かいに座っている。
 村長の視線がちらりと、彼の背後に控える女剣士――――レオネールに向けられた。

「何か?」
「あ、いえ、あははは……はぁ」

 彼女の事務的な返答に、村長も苦笑いを返すしかない。

 冒険者ギルドに依頼を出したのは、山賊の捕縛の為だった。
 村から捕らわれた娘たちを取り返すために、情報を引き出す必要があったのだ。

 結果は、山賊皆殺しによる依頼の失敗だ。

 治安は良くなるだろうが、売られた娘たちを取り返すには至らない。
 引き受けた冒険者に文句でも言いたいところだが、反撃されても恐ろしい。

 更には、財政の良くない村から格安で依頼を引き受けてくれたのだから、文句を言えた義理でもない。
 だからこその、村長の溜息だった。

 アルマンは、それを見逃さない。

「村長、お困りですか」
「はあ? へえ、はい」

 お前の処遇に困ってんだよ、と村長とレオネールの意見が合致した。
 そうとは知らず、彼の口は良く滑る。

「では何とかしましょう――――僕の背後にいる彼女は、とても優秀です。グレイカルム王国の筆頭騎士に任せておいてください」
「……お待ちください。なぜ、私が、あなたの尻拭いをするのですか?」

 彼女がとても嫌な顔をしてアルマンを睨みつける。
 彼はとても涼やかな表情で、両手を広げて見せた。

 まるで舞台役者が乗り移ったかのように、調子に乗っていた。

「んー、君は王国騎士として恥ずかしくないのかな。困った人たちを見捨てるつもり?」
「あなたが勝手に引き受けた依頼でしょう」
「まあそうだね。だけど、盗賊を全員残らず消炭に変えたのは君だね、レオネール君」
「な、それは――――」

 世界を救うためだった、と彼女の口から言葉が出かけた。

 事情を知っていれば、誰もがレオネールに同情し、その肩を優しく慰めただろう。
 この人間災害からは礼を言われても、罪を擦り付けられるいわれは無い。

 もしも、万が一、アルマンが召喚魔法を使っていたら――――第二の魔界が出現したかもしれない。
 だが、目前の村長に向かって懇切丁寧に一から十まで説明したところで、気の毒そうな顔で目を逸らしながら「それは……大変でしたね」と言われるのがオチだ。

 そんなレオネールの心の機微も知らず、アルマンが言う。

「これはもう君の依頼だよ。僕も手伝うからさ」
「何なんですかこれ。私の心の耐久力でも試しているんですか。何か悪い事しましたか」
「そうだね」

 彼は満面の笑みで頷く。
 悪気は無かった。悪気があったらこの場で彼女に斬り殺されていただろう。
 
 だからこその、彼女のメンタルにとって最悪の結果となる。

「うん、盗賊皆殺しだよね」
「それを、あなたにだけは、言われたくなかった、です」

 やらかしの規模で言えば、とんでもないことをやらかしている男がアルマンだった。
 この世界で――――否、異世界まで巻き込んでの災厄だ。

「そう? 失敗は誰にでもあるよ」
「ええ……そうですね。私の人生最大の失敗は、あなたの護衛に任命されたとき、全力で拒否しなかったことです」
「大丈夫、レオネールなら出来るよ」

 頑張ってねー、という彼の言葉に込められた無責任さが、怒りよりも虚しさを引き寄せてしまう。

 彼女が視線を、自分の胸元に移した。
 お財布に幾ら残ってたっけ、などと考えている。
 ちょっと良いお酒と、おつまみを用意して、一人で呑みたくなった。

 絶望に対する心構えに必要なことは、暗闇の続く遠い未来を見据えることでは無い。
 僅かに見える足元を、一歩ずつ踏み出していくことだ。

 少しで良い。
 暗闇で踏み出した一歩の事を、人は希望と呼ぶ。

「わかりました。やるなら早く片付けましょう」

 その意気に満ち溢れた雰囲気は、彼女の本来の姿だ。
 腕力だって並みの男には負けていない。

 アルマンの腕を取って、引き上げる。

「うわ、ちょっと」
「まずは盗賊たちの根城に戻ります。そこで痕跡集めですね。それでもだめなら、近くの街を巡って奴隷商人を探しましょう。根城に娘たちが居なかったのですから、売られている可能性が高いです」
「おぉ、ありがとうございます」

 村長が感極まって頭を下げていた。
 アルマンは、彼女に引きずられながら手を振って見せる。

「ああ、お礼はいいよ」
「は、はは、あなた様は幸せそうでよろしいですな」

 何とも言えない表情で皮肉を言う村長だったが、アルマンがそれを理解することは無かった。
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