見当違いの召喚士

比呂

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第2話

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「あ、髭の人がいる」

 村長の屋敷を出た途端、レオネールに引きずられているアルマンが口を開いた。

 彼の指さす方向には、重厚な外套を羽織った壮年の男が立っている。
 アルマンの言う通り、立派なダックテイル型の髭を生やした紳士だった。

「やあ、元気にしているかね」
「そうですね、へへへ」

 アルマンは苦手そうに笑った。
 レオネールが彼を放り出して、敬礼し踵を合わせる。

「ご無礼致しました、サブトナル=コルケス様!」
「ああ、楽にしろ。それから、今は気にしないでくれたまえ。友人に会いに来たおじさんだとでも思ってくれるとありがたい」

「は、はあ。御命令とあらば」
「何なら、サブちゃんとでも呼んでくれていいぞ」

 くっくっく、と人を喰ったように笑うサブトナルだった。
 ある意味で、この八大強国と王国を合わせてもトップクラスの偉人に違いない。

 魔界に対抗するため、八大連合の司令官として任命された者を前にすれば、大抵のものは平伏する。
 彼の命令一つで、人類が滅ぶ可能性があるのだ。
 
 この御仁を前にしてニックネームで呼ぶ人間など、一人しかいないだろう。

「ごめん、サブちゃん。これからちょっと人探しに行くんだ」
「ほう、それは大変だな。是非に手伝わせてくれ。アルマンが俺から逃げても探せるように、人狩りに特化した共回りを連れてきているからな」

 全てを見通した眼をして、サブトナルが口元を緩める。

 彼の連れてきた部隊ならば、精鋭無比で、嘘偽りなく『人狩り』が得意な者どもに違いない。
 そもそもアルマンを探すために連れてきているのだから、いい仕事をするのは当然だった。

 冷や汗が流れ落ちたアルマンは、どうにかお引き取りを願う。

「いやぁ、そんなに大事にしなくてもいいような気がするよ?」
「気にするな。俺と貴様の仲だろう。まかり間違って召喚魔法でも使われたら、それこそ天が割れる騒ぎになる。街の一つや二つが滅びたところで、まだマシというものだ」
「あー、うん、もちろん使わないさ。約束したことは覚えているよ」
「嘘ばっかり、ですね」

 ここぞとばかりに、レオネールが釘を刺してくる。
 サブトナルも、笑みを深くした。

「まあ、大事無くて良かったがね。冗談でも止めてくれたまえよ。これ以上の災厄を呼ぶのであれば、生かしておくよりも殺した方がまだ良いと、連合司令部の奴らが騒ぐだろう」
「そこはサブちゃんに止めて貰いたいなぁ」
「俺個人としては、貴様には研究対象として生きていて欲しいさ。連合とて一枚岩ではない。特に――――獣人と翼人には、命を狙われていると思った方が良いな」

 重厚な外套の隙間から、サブトナルの右手が割り出てくる。
 その手には、むしり取られたであろう翼人の羽と、血に濡れた獣人の爪があった。

 護衛役を任されているレオネールが目を細めた。

「暗殺ですか」
「彼らにしてみれば、本気というわけでもない。嫌がらせだよ。メッセージというやつだ。少しばかり政治が絡むと、派手に見えるものだ」

 サブトナルが、手に持っていたもの投げ捨てる。
 そこには何の感慨も見られなかった。

「ま、メッセージには返信が必要だろうから、こちらも送り返しておこう。嫌がらせには嫌がらせを返すのが礼儀だ。これも政治だな。貴様も、何か一筆添えるか? その権利くらいはあるぞ」
「そうだなぁ、うん。今度、菓子折りを持って謝りに行くとでも言っておいてくれないかな。恨まれるのは嫌だからね」

 頭の後ろで手を組みながら、アルマンは言う。
 サブトナルが、破顔して笑った。

「くははっ、直接乗り込むか? まあいいだろう。そう伝えておく」

 完全に面白がっている様子の紳士だが、約束を破るような者ではない。
 絶対に、必ず、翼人と獣人へ向けて血生臭いメッセージを送るだろう。

 そして、アルマンが暗殺者を送り付けてくる国へ行くとき、レオネールもまたついていかねばならない。
 彼女が今晩飲むお酒のレベルが上がることは、もう決定事項となった。

「もう、はやく宿へ帰りたい……」

 彼女の呟きは、幸運にも、誰に聞こえることは無かった。
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