12 / 14
第11話
しおりを挟む
「僕、帰って良いかな?」
アルマンは空気も読まず、難しい顔をして言った。
慌てたレオネールが、彼の口を塞ごうとする。
「今! そういう状況では無いの、わかってますよね!」
「いやだって、こんなの相手にしてられないよ。宿に帰って、テーブルに突っ伏してピーナッツを食べたいんだ」
「私だって、ベッドの上でチビチビと、ホットワインを飲みたいですよ!」
二人の言い争いを見ていた白髪の従者――――エイリスが呆れた顔をしていた。
持っていた手斧をアルマンに向け、剣呑な声を出す。
「おい。閣下と敵の大将がやりあうって時に、下らない話をしてんじゃねーよ。特にアルマン! 帰って良い訳がねぇだろ、アホか」
「あほ」
マウルと呼ばれた魔族が、剣を構えて飛び掛かってきた。
剣と手斧が交錯する。
ただし、触れ合うことなく、するりと剣が抜かれた。
深いフードが外れ、マウルの髪が流れ落ちる。
眠そうな紅眼と、起伏の無い表情をしていた。
「武器を、向けるな。ぶれい者」
「ああん? 何だてめぇ。人間よりも武器の扱いが下手糞なモンが、あたしに勝てるかよ!」
「え、ちょっと待ってください。私の扱いに納得がいきませんよ」
抗議するレオネールを尻目に、白髪と紅眼が激突する。
刃と刃がぶつかり合い、暗闇に火花が散った。
力任せの剛斧が振り下ろされ、剣の刃がそれを滑らせて弾き返す。
エイリスを『剛』の業とするならば、マウルの業は『柔』のそれだ。
三度、斧をいなされたエイリスが叫ぶ。
「ちいいいぃっ、やり辛ぇ! 何だこいつ、まんまそこの雌人間の剣じゃねーか! 裏切りやがったな!」
「色々と人聞きの悪いことを言わないでください! この娘は、私の剣を模倣してるんです!」
レオネールが、びしりとマウルを指さした。
女魔族が、少しだけ得意気に笑った。
「真似する。私、偉い。そこの竜人、偉くない」
「ほ、ほう、どうやらてめぇ、頭をカチ割られたいらしいな」
手斧をもう一本、腰元から取り出して頭上に構えた。もう一本は後方に構えて――――エイリスの表情が歪む。
「くらえ――――お?」
エイリスの手首の中ほどまで、マウルが持っていた剣が差し込まれていた。
紅眼が口元だけ綻ばせる。
「あはー、いい気味」
彼女の外套が膨らんだかと思うと、剣閃が跳ねまわる。
手首の傷を押さえる間もなく、エイリスが全身の薄皮を切り刻まれた。
苦い顔をしたエイリスが、後方へ飛ぶ。
マウルは追撃しない。
なぜならば、レオネールが一歩前に足を踏み出したからだった。
「あの、お手伝いしましょうか」
剣の柄頭に手をかけ、いつでも戦える準備は整っていた。
しかし、白髪は怒りを吐き出すだけだった。
「クソか。人間の手を借りるまでもねぇ。竜人舐めんじゃねぇぞ」
エイリスの、底冷えする声が響いた。
既に刻まれた薄皮の再生は終わっている。
手首の怪我も、もう問題は無い。
「ぶっ潰す――――ぉっ」
エイリスが飛び引く。
次の瞬間には、彼女とマウルのちょうど中間に、地獄の公爵が激突していた。
土埃で汚れている様は一切無いが、礼服の裾を手で払って立ち上がる。
「いやはや、殴り合いで勝てる相手ではありませんでしたか」
「殴り合いでないなら勝てると、そう聞こえるが?」
悠々と歩を進めるサブトナルが、音が響くほど拳を握りしめた。
ガウエルの顔に微笑が浮かぶ。
「こう見えて、肉体派ではなく頭脳派でして」
「ふん、奇遇だな。俺もそうだ」
絶体絶命の状況で、危機から抜け出す方法は無い。
サブトナルの攻撃は、発生すれば必ず相手を滅ぼすだろう。
この盤上をひっくり返すには、第三者が横から手を出すしか方法は存在しない。
「あ、そうだ」
転がるボールを追いかけて馬車の前に飛び出した子供のように、二人の間へアルマンが割って入った。
サブトナルの眉が歪む。
「どうしたアルマン。貴様が来るところではない」
「そうなんだけど、僕にも色々と都合があってさ」
両手を大きく叩いたアルマンは、その手を大きく広げた。
その場の誰もが息を呑む。
何の変哲もないこの男は――――空前絶後の偉大なる召喚士。
「全ての僕に、祝福があることを願う」
世界が壊れて良いのであれば、阻む者は何もない。
彼の行いに善悪をつけるのであれば、まずは生き残らなければならなかった。
アルマンは空気も読まず、難しい顔をして言った。
慌てたレオネールが、彼の口を塞ごうとする。
「今! そういう状況では無いの、わかってますよね!」
「いやだって、こんなの相手にしてられないよ。宿に帰って、テーブルに突っ伏してピーナッツを食べたいんだ」
「私だって、ベッドの上でチビチビと、ホットワインを飲みたいですよ!」
二人の言い争いを見ていた白髪の従者――――エイリスが呆れた顔をしていた。
持っていた手斧をアルマンに向け、剣呑な声を出す。
「おい。閣下と敵の大将がやりあうって時に、下らない話をしてんじゃねーよ。特にアルマン! 帰って良い訳がねぇだろ、アホか」
「あほ」
マウルと呼ばれた魔族が、剣を構えて飛び掛かってきた。
剣と手斧が交錯する。
ただし、触れ合うことなく、するりと剣が抜かれた。
深いフードが外れ、マウルの髪が流れ落ちる。
眠そうな紅眼と、起伏の無い表情をしていた。
「武器を、向けるな。ぶれい者」
「ああん? 何だてめぇ。人間よりも武器の扱いが下手糞なモンが、あたしに勝てるかよ!」
「え、ちょっと待ってください。私の扱いに納得がいきませんよ」
抗議するレオネールを尻目に、白髪と紅眼が激突する。
刃と刃がぶつかり合い、暗闇に火花が散った。
力任せの剛斧が振り下ろされ、剣の刃がそれを滑らせて弾き返す。
エイリスを『剛』の業とするならば、マウルの業は『柔』のそれだ。
三度、斧をいなされたエイリスが叫ぶ。
「ちいいいぃっ、やり辛ぇ! 何だこいつ、まんまそこの雌人間の剣じゃねーか! 裏切りやがったな!」
「色々と人聞きの悪いことを言わないでください! この娘は、私の剣を模倣してるんです!」
レオネールが、びしりとマウルを指さした。
女魔族が、少しだけ得意気に笑った。
「真似する。私、偉い。そこの竜人、偉くない」
「ほ、ほう、どうやらてめぇ、頭をカチ割られたいらしいな」
手斧をもう一本、腰元から取り出して頭上に構えた。もう一本は後方に構えて――――エイリスの表情が歪む。
「くらえ――――お?」
エイリスの手首の中ほどまで、マウルが持っていた剣が差し込まれていた。
紅眼が口元だけ綻ばせる。
「あはー、いい気味」
彼女の外套が膨らんだかと思うと、剣閃が跳ねまわる。
手首の傷を押さえる間もなく、エイリスが全身の薄皮を切り刻まれた。
苦い顔をしたエイリスが、後方へ飛ぶ。
マウルは追撃しない。
なぜならば、レオネールが一歩前に足を踏み出したからだった。
「あの、お手伝いしましょうか」
剣の柄頭に手をかけ、いつでも戦える準備は整っていた。
しかし、白髪は怒りを吐き出すだけだった。
「クソか。人間の手を借りるまでもねぇ。竜人舐めんじゃねぇぞ」
エイリスの、底冷えする声が響いた。
既に刻まれた薄皮の再生は終わっている。
手首の怪我も、もう問題は無い。
「ぶっ潰す――――ぉっ」
エイリスが飛び引く。
次の瞬間には、彼女とマウルのちょうど中間に、地獄の公爵が激突していた。
土埃で汚れている様は一切無いが、礼服の裾を手で払って立ち上がる。
「いやはや、殴り合いで勝てる相手ではありませんでしたか」
「殴り合いでないなら勝てると、そう聞こえるが?」
悠々と歩を進めるサブトナルが、音が響くほど拳を握りしめた。
ガウエルの顔に微笑が浮かぶ。
「こう見えて、肉体派ではなく頭脳派でして」
「ふん、奇遇だな。俺もそうだ」
絶体絶命の状況で、危機から抜け出す方法は無い。
サブトナルの攻撃は、発生すれば必ず相手を滅ぼすだろう。
この盤上をひっくり返すには、第三者が横から手を出すしか方法は存在しない。
「あ、そうだ」
転がるボールを追いかけて馬車の前に飛び出した子供のように、二人の間へアルマンが割って入った。
サブトナルの眉が歪む。
「どうしたアルマン。貴様が来るところではない」
「そうなんだけど、僕にも色々と都合があってさ」
両手を大きく叩いたアルマンは、その手を大きく広げた。
その場の誰もが息を呑む。
何の変哲もないこの男は――――空前絶後の偉大なる召喚士。
「全ての僕に、祝福があることを願う」
世界が壊れて良いのであれば、阻む者は何もない。
彼の行いに善悪をつけるのであれば、まずは生き残らなければならなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる