見当違いの召喚士

比呂

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第11話

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「僕、帰って良いかな?」

 アルマンは空気も読まず、難しい顔をして言った。
 慌てたレオネールが、彼の口を塞ごうとする。

「今! そういう状況では無いの、わかってますよね!」
「いやだって、こんなの相手にしてられないよ。宿に帰って、テーブルに突っ伏してピーナッツを食べたいんだ」
「私だって、ベッドの上でチビチビと、ホットワインを飲みたいですよ!」

 二人の言い争いを見ていた白髪の従者――――エイリスが呆れた顔をしていた。
 持っていた手斧をアルマンに向け、剣呑な声を出す。

「おい。閣下と敵の大将がやりあうって時に、下らない話をしてんじゃねーよ。特にアルマン! 帰って良い訳がねぇだろ、アホか」
「あほ」

 マウルと呼ばれた魔族が、剣を構えて飛び掛かってきた。
 剣と手斧が交錯する。

 ただし、触れ合うことなく、するりと剣が抜かれた。

 深いフードが外れ、マウルの髪が流れ落ちる。
 眠そうな紅眼と、起伏の無い表情をしていた。

「武器を、向けるな。ぶれい者」
「ああん? 何だてめぇ。人間よりも武器の扱いが下手糞なモンが、あたしに勝てるかよ!」
「え、ちょっと待ってください。私の扱いに納得がいきませんよ」

 抗議するレオネールを尻目に、白髪と紅眼が激突する。
 刃と刃がぶつかり合い、暗闇に火花が散った。

 力任せの剛斧が振り下ろされ、剣の刃がそれを滑らせて弾き返す。
 エイリスを『剛』の業とするならば、マウルの業は『柔』のそれだ。

 三度、斧をいなされたエイリスが叫ぶ。

「ちいいいぃっ、やり辛ぇ! 何だこいつ、まんまそこの雌人間の剣じゃねーか! 裏切りやがったな!」
「色々と人聞きの悪いことを言わないでください! この娘は、私の剣を模倣してるんです!」

 レオネールが、びしりとマウルを指さした。
 女魔族が、少しだけ得意気に笑った。

「真似する。私、偉い。そこの竜人、偉くない」
「ほ、ほう、どうやらてめぇ、頭をカチ割られたいらしいな」

 手斧をもう一本、腰元から取り出して頭上に構えた。もう一本は後方に構えて――――エイリスの表情が歪む。

「くらえ――――お?」

 エイリスの手首の中ほどまで、マウルが持っていた剣が差し込まれていた。
 紅眼が口元だけ綻ばせる。

「あはー、いい気味」

 彼女の外套が膨らんだかと思うと、剣閃が跳ねまわる。
 手首の傷を押さえる間もなく、エイリスが全身の薄皮を切り刻まれた。

 苦い顔をしたエイリスが、後方へ飛ぶ。
 マウルは追撃しない。

 なぜならば、レオネールが一歩前に足を踏み出したからだった。

「あの、お手伝いしましょうか」

 剣の柄頭に手をかけ、いつでも戦える準備は整っていた。
 しかし、白髪は怒りを吐き出すだけだった。

「クソか。人間の手を借りるまでもねぇ。竜人舐めんじゃねぇぞ」

 エイリスの、底冷えする声が響いた。

 既に刻まれた薄皮の再生は終わっている。
 手首の怪我も、もう問題は無い。

「ぶっ潰す――――ぉっ」

 エイリスが飛び引く。

 次の瞬間には、彼女とマウルのちょうど中間に、地獄の公爵が激突していた。
 土埃で汚れている様は一切無いが、礼服の裾を手で払って立ち上がる。

「いやはや、殴り合いで勝てる相手ではありませんでしたか」
「殴り合いでないなら勝てると、そう聞こえるが?」

 悠々と歩を進めるサブトナルが、音が響くほど拳を握りしめた。
 ガウエルの顔に微笑が浮かぶ。

「こう見えて、肉体派ではなく頭脳派でして」
「ふん、奇遇だな。俺もそうだ」

 絶体絶命の状況で、危機から抜け出す方法は無い。
 サブトナルの攻撃は、発生すれば必ず相手を滅ぼすだろう。

 この盤上をひっくり返すには、第三者が横から手を出すしか方法は存在しない。

「あ、そうだ」

 転がるボールを追いかけて馬車の前に飛び出した子供のように、二人の間へアルマンが割って入った。
 サブトナルの眉が歪む。

「どうしたアルマン。貴様が来るところではない」
「そうなんだけど、僕にも色々と都合があってさ」

 両手を大きく叩いたアルマンは、その手を大きく広げた。

 その場の誰もが息を呑む。
 何の変哲もないこの男は――――空前絶後の偉大なる召喚士ゲームチェンジャー

全ての僕に、、、、、、祝福があることを願う」

 世界が壊れて良いのであれば、阻む者は何もない。
 彼の行いに善悪をつけるのであれば、まずは生き残らなければならなかった。
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