13 / 14
第12話
しおりを挟む「おぉ、我らが皇帝陛下よ! ついに我らの悲願が誕生なされた!」
ガウエルが歓喜の叫びを上げ、とめどなく落涙する。
わーぱちぱち、とマウルも拍手をしながら無表情で喜んでいた。
アルマンは迷惑そうな顔で言う。
「僕に勝手な役職をつけないでくれる?」
「何をおっしゃられますか。旧魔界皇帝がお隠れになり、我らを呼び出した貴方様こそ魔界の救世主ではないですか!」
「魂が偽者とか言ってなかったっけ?」
「肉体が本物であれば、少なくとも本物の一部でしょう。何ら問題はございません」
演劇を見せられているような大げさな態度だった。
ついに黙っていられなくなったレオネールが剣を抜く。
「何やってるんですか! 今すぐ魔法の行使を止めて下さい! 約束したじゃないですかぁ……」
「それに関しては、申し訳ないことをしたと思う。君は立派に役目を果たしていたよ。ただ僕が、馬鹿だっただけだ」
「確かに、馬鹿げた行いだ。俺を裏切るのかね、アルマン」
サブトナルが不機嫌な顔をしていた。
彼の後ろでは、異常な殺気を放つエイリスが控えている。
アルマンは、苦笑いを浮かべた。
「何をもって裏切るというのかは知らないけど、真実を隠すことが嘘であるというのであれば、それはお互い様じゃないかな。サブちゃん」
「では悪いが、何が真実で、何が嘘であるか教えてくれないか。心当たりが在り過ぎて、どうにも俺では選びきれん」
腕を組んだサブトナルが、口を曲げて目を閉じた。
アルマンは、短く息を吐いてから言う。
「どうして僕と、カレス・ゾンブリムを引き合わせたのかな」
「カレスとの約束だ。一度は必ず貴様と会わせることを条件に、俺の手駒となっている」
「……え――――」
レオネールが息を呑んだ。
小さく笑うアルマンだった。
「道理で馴れ馴れしいと思ったよ。では次に、こうして僕と魔族を出会わせた理由は? サブちゃんなら、出会わせないようにすることも可能だったはずだよ」
「理由は、そこの魔族の娘だ。『天眼通』なる能力が邪魔だったから、貴様を餌に呼び出させた。ついでにここで捕えて、実験体にしたいと考えている。そして、貴様に直に合わせた理由は、貴様が魔族の皇帝と同一存在になり得るかどうかの実験だ」
「魔族の皇帝?」
アルマンが繰り返す。
先ほどもガウエルが言っていたように、魔界には皇帝が居なくなっている。
「貴様を造る際に、とある魔族の血を混ぜた。その成果が貴様だ」
「なるほど、だから魔族が執拗に僕を狙う――――いや、この場合は救おうとしたのかな。では、最後の質問を一つ」
申し訳なさそうに、人差し指を立てて苦笑いを浮かべるアルマンだった。
サブトナルも鷹揚に頷く。
「好きにしろ」
「今の僕は――――何人目かな」
彼は、抜かれた血の行方を、最後まで確認したことは無い。
技術があって、それが必要であると判断するならば、どんな実験も厭わないサブトナルである。
きっかけは、ガウエルの言った『魂が偽者』という言葉だった。
何の代償も無く、異界を呼び出すほどの召喚魔法が使えるというのか。
理由を考えて得られる結果は、余り多くない。
どれだけアルマンが居ても足りはしない――――なら、足りるまで造るしかない。
短い息を吐いたサブトナルが、髭を揺らした。
「オリジナルを除いて、ホムンクルス培養した模造品の数ならば、貴様が9番目の実験体だ」
「それ、召喚魔法が成功した数だけじゃないかな。僕の才能の無さは、僕が一番わかってる。失敗作は無数にあるはずだ」
「ああ、人の形も意思も宿さぬ肉塊に、物質である以上の期待は抱けぬよ。記録してはいるが、言葉にするのも面倒な数だ。エーテルの素材として再利用したよ」
軽く肩を上げて見せるサブトナルだった。
彼にしてみれば実験の失敗作に付き合う義理は無く、更なる実験のためのコストカット用品でしかない。
自分と同じ物体が大量処分されていたことについて、アルマンは眼を瞑った。
同じことが繰り返されないよう、この場に居る魔族の事を考える。
「だからか。……ところで、この二人を助けることは出来ないかな」
「質問は最後では無かったのか」
サブトナルが片眉を上げた。
それが冗談であると気付いて、アルマンは言い直す。
「これは、お願いだよ」
「ふむ、不可能だ。そもそもの作戦目標であるし、何より、貴様の願いを聞いてやる必要はない」
「そっか。そうだよね。ならばサブちゃん、お別れだ」
彼は、魔力を紡いだ。
魔法はただ一つしか知らない。
それしかない。
「――――くっ」
激しい頭痛と耳鳴りが襲ってくる。
練った魔力を留めることが難しい。
サブトナルが、眼を細めてアルマンを見つめていた。
「無駄な足掻きはよせ。貴様の脳内に安全装置を埋め込んである。召喚魔法を使った時点で、脳内にある呪物が魔力生成を阻害し、血液に毒を流し始めるのだ。せめて、息絶えるまでは見守ってやろう」
「それ、観察してやろうの間違えじゃない?」
「結果は同じだ」
アルマンは、首を横に振った。
苦痛に耐えて、笑っていた。
「あー、うん、でもね、言葉が違うんだよ。言葉が違えば意味も違う。僕らには『心』があるのさ。結果が同じでも、過程まで同じでは無いんだ」
「だからどうした」
「心ってのはね。伝わることもあるんだよ。僕と、あなたと、それ以外と」
サブトナルの表情が変わる。
身を乗り出して、今にもアルマンに掴みかかりそうだった。
「――――待て。それはつまり、失敗作に何らかの情報残滓が隠されていて、エーテルに分解しても消えず、貴様の中で再構築されたのか」
「まごころに質量は無いから、サブちゃんには見えなかったかもね。ここに在るのは、ちっぽけな僕が、ちっぽけな僕たちと、心を繋げて協力する意思が生まれただけだ」
原初の火が生まれる。
それは意志と言う名を与えられ、温かさを持ち、時に身を焦がし、身体を動かす原動力となる。
空間が理不尽に捻じ曲げられて、何も見通せない黒い穴が出現した。
確率のすべてが存在する、根源の渦が顕現したのだ。
今ここで、世界が終わっても不思議では無かった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる