【完結】女嫌いの公爵様に嫁いだら前妻の幼子と家族になりました

香坂 凛音

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2 双子が生まれました

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 静かな産声が、夜明け前の静まり返った屋敷に響いた。
 それはまるで、長く続いたお産の苦しみをそっと照らす、一筋の光のようだった。

「……おめでとうございます。元気な双子の男の子と女の子です!」

 キーリー公爵家お抱えの医師がそう告げた瞬間、部屋の扉がそっと開く。
 廊下で待っていた旦那様が、目を赤くして立っていた。医師に促されて中へ足を踏み入れる。双子の赤ちゃんを手渡された旦那様は、何度も目元を拭いながら、やさしく私を見つめた。

「よく、頑張ったな……ありがとう、ジャネット。こんなにかわいい子がふたりも。俺は……本当に、幸せだ」

 私も双子を無事に産むことができて、大きな幸せを感じていた。旦那様に抱かれた小さな命。
 ダークブラウンの髪と瞳は、私に似ている女の子。もうひとりは、旦那様に似た深紅の髪と瞳の男の子。この子たちはもう、自分の一部ではなく、この世界で生きている。
 
「ジャネットそっくりのかわいい子だ。この子はきっと君に似て賢くて優しいレディになるぞ」

「はい。そして旦那様によく似た男の子は、きっとすばらしい魔法の才能と力を受けついだことでしょうね。将来が楽しみですわ」

 扉の向こうで気配がした。アベラールだ。緊張した面持ちで侍女長に導かれながら、部屋の中へ入ってくる。ミュウがパタパタと翼を動かしていた。

「……おかあさま。あかちゃん……いもうと? おとうと?」

「妹と弟よ。アベラールはふたりのお兄様になったのよ」

 旦那様の両腕の中で、小さなふたつの命がふにゃりと顔をしかめて、また小さく泣いた。
 アベラールは、恐る恐るのぞきこみ、撫でようと手を近づける。その瞬間、小さな指が彼の手をぎゅっと握った。

「……わっ。ちっちゃい……ぼく、いもうともおとうともほしかったんだ。」

 アベラールの声が、弾んでいた。

「あなたたちのお兄様のアベラールよ。お兄様はね、あなたたちが生まれてくるのをずっと楽しみに待っていたのよ」
「うん。ぼく、すごくうれしいよ」
 アベラールが、はにかむようにほほえんだ。

 赤子たちの小さな泣き声がようやく落ち着いたころ、部屋には静かな温もりが満ちていた。
 

 ***

 それから数日後。
 旦那様と私は、サロンで双子をあやしていた。

 乳母もいるし、育児に慣れたメイドたちにも助けてもらってはいるけれど――全部を任せきりにするつもりなんて、まったくない。
 だって、子育てはたしかに大変だけれど……その成長の瞬間ひとつひとつが、何よりも尊くて愛おしいのだから。見逃すなんてもったいないでしょう?

「名前を、決めないとな」

 柔らかくつぶやいた旦那様に、私もほほえみを返す。

「えぇ、どんな名前にしましょうか? いろいろ想い浮かぶのですけれど、迷ってしまいますわ」

 そうして私たちは、赤子たちの小さな顔を見ながら、いくつかの候補を挙げていった。
 女の子は私似のダークブラウンの髪と瞳、男の子は旦那様譲りの深紅の髪と瞳。ふたりとも、まるで対になった宝石のように愛らしい。

 そんな中、ふと一歩下がったところでじっと見つめていたアベラールが、もじもじと小さく手を挙げた。

「あの……ぼくも、かんがえていい?」

 アベラールは少しだけ頬を赤らめて言った。

「だって、ぼく、もうおにいちゃんだから……ちゃんと、いもうとやおとうとの名前を考えてあげたい」

 その言葉に、私はゆっくりと笑みを深めた。旦那様も、目を細めてうなずく。

「もちろんだとも、アベラール。きっとこの子たちにとって一生の贈り物になる」

 アベラールは双子の顔をひとりずつ覗き込み、何度も首を傾げ、唇を引き結ぶ。

「いもうとはデイジーなんてどうかな? だってとてもかわいいから」
「まぁ、お花のデイジーね。それは素敵ね」

 

 そうしてその5年後……






。:+* ゚ ゜゚ *+:。。:+* ゚ ゜゚ *+:。

次回は明日の20時更新です。
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